教養ドキュメントファンクラブ

自称「教養番組評論家」、公称「謎のサラリーマン」の鷺がツッコミを混じえつつ教養番組の内容について解説。かつてのニフティでの伝説(?)のHPが10年の雌伏を経て新装開店。

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番組リスト

5/4 BSプレミアム プロジェクトX 挑戦者たち(リストア版)「炎上男たちは飛び込んだ~ホテルニュージャパン・伝説の消防士たち~」

空前のホテル火災に命がけで挑んだ消防隊員達

 今回は33人もの犠牲者を出した大火災であるニュージャパンの火災。この中で66人の宿泊客を救い出した消防隊の物語。命がけで救助に挑む消防隊員達の熱い物語と、その一方で金だけに執着して人命を軽視しまくっていた守銭奴・横井英樹の外道っぷりが際立つ極めて特徴的な話である。

 私の当時の原稿もその熱さに浮かされてかなり長めになっている。では以下がアーカイブで。

 

プロジェクトX「炎上男たちは飛び込んだ~ホテルニュージャパン・伝説の消防士たち~」(2001.5.22)

 いつも「燃えている」「熱い」ことが特徴のこの番組であるが、今回は文字通り、燃えていて、熱い物語である。

 33人もの死者を出して、最悪のホテル火災と言われたホテルニュージャパン火災。この火災では100人以上もの宿泊客が逃げ遅れたが、66人の客が消防隊によって救助された。今回はその救助にあたった消防隊の物語である。

 ホテルブームの昭和54年、赤坂のある古いホテルが乗っ取り屋・横井秀樹に買収された。彼はホテル事業が生み出す富に目をつけたのである。横井はこのホテルを豪華施設に改装する。しかしそれはあくまで表面だけを。

 消防庁の特別救助隊の試験を4度目にして合格した高野甲子雄は、あるホテルの視察に出向いた。しかしそのホテルは異様な感覚を高野に与えた。迷路のような構造、中が空であるような壁、スプリンクラーがなく、異常に湿度が低い。高野はこのホテルは危険だと判断し、そのホテルは消防庁から改善勧告を受ける。そのホテルこそがニュージャパンだった。改善勧告を受けた社長の横井は、設備の改善を約束する。しかしこの守銭奴は、もとより人命などなんとも考えていなかったので、改善などは行われなかった。配管のされていない飾りだけのスプリンクラーが設置されただけで、経費節減のために加湿器も止められたままだった。

 

 そして昭和56年2月8日、ついにこのホテルで火災が起こる。9階から出た炎は、穴の空いたブロックに壁紙を貼っただけの壁を伝って、あっという間に9階と10階をなめ尽くす。多くの宿泊客が炎の中に取り残されていた。

 緊急出動をした高野達が見たのは、異常な光景だった。巨大ホテルが激しい炎に包まれていた。それは普通の高層建築(大抵は耐火構造になっている)の火災とは全く違う光景であった。

 その頃、火災の報を受けた横井は、従業員に指示を出していた。横井が最初に出した指示は、ロビーの家具を運び出すことだった。人命などなんとも思っていないこの守銭奴には、宿泊客を避難させるなどという考えは微塵もなかった。

 ホテルに突入した高野達は、警備員に9階への非常階段に案内するように告げる。しかし警備員は社長と電話中であることを理由にそれを断る。「宿泊客の命がかかっているんだ!」怒った高野は警備員の胸ぐらを掴んで、非常階段の位置を教えさせる。

 しかし非常階段を駆け登った高野達は9階で立ち往生する。階段の非常扉が熱で変形して開かなくなっていたのだ。高野はとっさに屋上に上がることを判断する。

 

 その頃、ホテル周辺でも消防士達が炎と格闘していた。消防庁は23区すべての消防車を集めるという非常出動をかけたが、それでも救助は追いつかない状態だった。

 屋上に上った高野達は、猛然と一番高い火柱があがっているところを目指した。そこは梯子車では接近できない部屋だった。下を覗いた高野達が見たのは、10階から飛び降りようとしていた宿泊客だった。彼らは韓国から来た旅行者だった。高野達は下にロープを投げて彼らを助け出す。

 韓国人達を助け出して、次に向かおうとした高野達であるが、信じられない話を告げられる。彼らによるともう一人が部屋に残っているという。誰かが助けに行くしかない。しかしその部屋はいつフラッシュオーバーが起こるか分からない状態だった。フラッシュオーバーとは火災が爆発的に広がる現象で、その温度は400度を超え、消防士の耐火服でもひとたまりもない。しかし若い隊員である浅見昇が命を賭けて救助に向かう。彼は宿泊客が倒れているのを発見するが、その時に酸素ボンベが空になる。このままでは一酸化炭素でやられてしまう。やむなく彼は一端撤退する。

 浅見を引き上げた高野は次は自分が行くことを決心する。部屋に降りた高野、しかし彼が宿泊客を救助のために抱えた途端に、フラッシュオーバーが起こる。

 高野が飛び込んだ部屋が、一瞬にして炎に包まれたのを目撃した隊員たちは、慌てて高野のロープをみんなで引っ張る。高野が炎の中から、宿泊客を抱えて現れた。高野は全身火傷を負っていた。しかし屋上に上げられた彼の第一声は「この人を早く病院へ」だった。

 

 消防士たちの奮闘によって、ようやく火災も鎮火する。しかし33人の尊い人命が犠牲となった。

 全身火傷で入院していた高野の元に、スーツを着た人物が現れる。彼は「横井社長から預かりました」と分厚い風呂敷包みを高野に差し出す。それを見た高野は怒って突き返す「一体、何人が犠牲になったと思っているんだ!」。

 それから数年後、横井社長は業務上過失致死罪で禁固3年の判決を受ける。

 

 高野達消防隊の勇気と使命感が胸を打つ。彼らが部屋の中に一人の宿泊客が残っていることを知った時、「ここで助けられなかったら、悔いが残って、これから人命救助の仕事が出来なくなる」と考えていたというのは、彼らを突き動かす原動力がうかがえる話である。なお、もしこの時に陣頭指揮を執っていたのが、差別主義者の石原慎太郎だったら、宿泊客が韓国人だと分かった時点であっさりと見捨てたことだろう。

 しかし番組全体を通して受けるもっとも強烈な印象は、横井秀樹社長に対する憤りだろう。これだけの死者を出しながら、結果として禁固3年という刑罰は、大抵の者は「軽すぎる」と考える刑罰だろう。恐らく番組制作者もその憤りを感じているのであろうことは、番組の随所でうかがえる。この災害はほとんどのすべて人災の要素であったことは忘れてはならないことである。

 

 以上、アーカイブから。元々のアーカイブがかなり長編なので、今更新たにくわえることもほとんどない。番組の熱い内容に私自身もかなり浮かされていたのが明確である。

 当時の私の文章も守銭奴・横井英樹に対する憎しみが滲んでいる(実際にこの原稿を書いていた時に怒りに震えたのを覚えている)が、実際に番組自体も行間からそれは滲んでいた。命がけで人命救助に挑んだ高野達消防隊員の高潔さと比べると実に対称的である。人間とはかくも高潔にもかくも下劣にもなれるんだということに、ある意味での驚きを感じる。もっともこのコロナ禍でも国民を放りっぱなしで自らの利権にだけ邁進している政治家連中を見ていたら、確かに人間は落ちるところまで落ちられるんだということが妙に実感できる。

 

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