教養ドキュメントファンクラブ

自称「教養番組評論家」、公称「謎のサラリーマン」の鷺がツッコミを混じえつつ教養番組の内容について解説。かつてのニフティでの伝説(?)のHPが10年の雌伏を経て新装開店。

このブログでの取り扱い番組のリストは以下です。

番組リスト

5/6 BSプレミアム ダークサイドミステリー「天才か?悪魔か?謎の連続爆弾魔・ユナボマーを追え」

連続爆破事件の始まり

 全米を恐怖に叩き落とした連続爆弾魔・ユナボマー。彼はIQ167の天才だったとか。なぜその天才が爆弾魔になったのか。

 後にユナボマーと呼ばれることになった連続爆弾魔による最初の事件は、1978年5月26日のノースウェスタン大学で発生した。材料工学教授のバックレー・クリストの元に届いた荷物を開けようとした途端に爆発した事件だった。爆発は小規模で立ち会いの警備員が手に火傷の軽傷を負ったという。調査したシカゴ市警察は、ほとんどの部品が木で作られ、爆発する火薬の部分に詰め込まれたのはマッチの発火部という奇妙な爆弾に対し、爆弾技術の無い素人によるものと判断してあまり重要視しなかった。

 しかし1年後、同じ大学で再び爆発事件が発生して大学院生1人が負傷した。この爆弾にも木の部品が仕込まれていた。しかしそれでもまだこの事件はあまり注目されなかった。それは当時のアメリカでは爆破事件が年間2000件もあり、非常にありふれていたからだという。

 

飛行機内での爆破事件で注目されるようになる

 ところが半年後にシカゴ発ワシントン行きの国内便で爆発事件が発生した。機体は無事に着陸できたが、墜落をすると乗客乗員全員死亡の可能性があった。爆発したのは機内の郵便小包であった。この凶悪な犯行にFBIが調査に乗り出したところ、木で作られた部品という特徴から以前の爆破事件が浮上、連続爆破事件であると判明する。

 そして4件目は1980年6月10日、ユナイテッド航空社長の自宅に爆発物が送りつけられ、社長が負傷する事件が発生した。この爆弾からも木の部品が見つかった。FBIは犯人のコードネームを大学(UNIVERSITY)、航空会社(AIRLINE)の頭文字からユナボマー(UNABOMBER)と名付ける。捜査陣は当時大量リストラをしていたユナイテッド航空社長を狙っての犯行と推測して捜査を行ったが捜査は難航した。爆弾から犯人を示す証拠が極端に少なかったのだという。指紋はやすりをかけて完全に消され、ほとんどの部品は廃材を使用していたために爆弾の原料を辿ることが出来なかったのだという。

 さらに翌年から3件連続で事件が発生、特徴有る爆弾からユナボマーの犯行であることは間違いないのに、それまでのシカゴ周辺から広がって各地の大学が爆破された。FBIが想定した犯人像が揺らいでくる。

 そして1年後、さらに立て続けに4回の犯行を重ねる。カリフォルニア大学バークレー校のコンピューターサイエンス学科の前での爆発では大学院生が右手の指4本を失う重傷を負う。爆弾は硝酸アンモニウムを使用したもので、確実に破壊力は増していた。さらには大量の釘を仕込んで殺傷能力を上げていた。そして11度目の爆破事故でコンピューターショップの経営者のヒュー・スクラットンが爆弾に仕込んだ釘が心臓にまで刺さって死亡する。

 

プロファイリンクで犯人像を割り出すが

 FBIは特殊チームでプロファイリングに乗り出す。その結果、爆弾魔は白人の男性の単独犯で現在は30代から40代始め、さらに名門大学卒業レベルの高学歴という犯人像を絞り込む。そして爆破対象は最先端科学に纏わるものであると考えられた。そこでFBIはその犯人像を発表する。ただしここで最終学歴は高校卒業と記しあえて罠を仕掛ける。高学歴の犯人特有の自尊心を刺激し、ユナボマーが犯行声明を出すように仕向けたのだという。しかしここでユナボマーは完全に沈黙、FBIは不安を抱えながら事態を見守るしかなかった。

 そして1年半後、12回目の爆破がコンピューターショップの駐車場で行われる。この時、偶然に犯行が目撃されて似顔絵が作成される。初めての有力な情報に市民から多くの情報が寄せられるが、ここでユナボマーは再び沈黙した。

 しかし6年後、西海岸の遺伝子研究学者チャールズ・エプスタインの自宅で郵便物が爆発する事件が発生する。それから2年間で3件の爆破が発生し2人が死亡、爆弾はさらに威力を増していた。そして1993年6月、初めてのメッセージを新聞社に送付する。そこには「近いうちに目的を伝える」と記されていた。

 

初めての犯行声明から犯人を絞り込み逮捕する

 そして2年後の1995年6月28日ニューヨーク・タイムズ社にユナボマーからの分厚い封筒が届く。そこには56ページで35000語という膨大な文章に、「ニューヨーク・タイムズ紙かワシントン・ポスト紙が同封の論文を掲載し、さらに3年間の追加記載の要求を受け入れるなら爆弾活動を停止する」と記してあった。FBIは3ヶ月議論を行い、ついにワシントン・ポスト紙にユナボマーの文章が掲載される。人々はユナボマーの知能の高さに驚いたという。その内容は「産業社会とその未来」というもので、科学技術の進歩によって社会問題が発生するという産業社会を否定するものであったという。これに共鳴した過激な環境保護運動などが発生したという。さらに「産業社会における自由は本当の自由ではない」という主張はアメリカで大きな論争を巻き起こす。

 ただユナボマーは論文を「自由とは力だ。それは他人をコントロールするための力でなく、己の人生をコントロールする力のことである。」とし、「このメッセージを大衆に強く印象づけるため、人を殺さなければならなかった」と結んでいる。この結論は、自由は他人をコントロールするものではないと言いつつ、自由のために他人を殺すという矛盾したものであった。この殺人の正当化はアメリカ人の怒りを買った。

 FBIが全米に情報提供を呼びかけたところ、有力な情報が寄せられる。それはニューヨークの福祉団体に勤めるデヴィッド・カジンスキーによるもので、兄が以前に書いた論文に声明が類似しているというものであった。そこでFBIは彼が一人暮らしをしているというモンタナ州郊外のリンカーンに出向く。彼はそこで電気も水道もない生活を送っているという。彼の名はセオドア・J・カンジンスキー。1996年4月3日早朝、彼は逮捕された。彼の小屋からは爆弾の材料や声明文を打ったタイプライターが発見されたという。

 

天才が爆弾魔となった理由

 彼は幼い頃から優秀で、16才で名門ハーバード大学に飛び級入学した。数学を専攻して25才ではカリフォルニア大学バークレー校で歴代最年少で数学の助教授に就任した。論文の評価も高く、将来を嘱望されていたが2年後に大学をやめてモンタナの山小屋で一人暮らしを始めたという。彼は社会への適応に困難を感じていたという。周囲とたわいのない会話をするということが出来ず、飛び級入学のせいで誰も友達が出来なかったという。そして合理主義社会で生きていく限りこの苦しみは続くという結論に至る。そして人里離れた生活を始めたが、モンタナでも森林伐採などが進むことに怒りを感じていたという。彼は社会に緊張をもたらすことで社会を変えたいと言っていたらしい。彼は司法取引に応じて仮釈放なしの8回の終身刑を受けたという。

 心理的にみると彼が大学教授を狙ったのは、自分に似ていながら社会的に成功している者に、嫉妬や怒りを感じたのではとしている。優秀でありながら社会に馴染めず孤独となった者は往々にして、自分がこうなるのは社会が悪いという結論に結びつけるとか。

 

 まあ現代の産業社会が人間の自由を奪っているとか云々の主張は私も理解できるところはある。しかしだから原始的生活というわけにもいかないだろうと思えるし、ましてや無差別爆殺となると明らかに論理が破綻しており、微塵も共感できるところがない。

 彼が理系でありながら数学に進んだというのも分かりやすいところである。理系で技術系に進んでいる場合、完全に科学性悪説のようなものには染まりにくい(自分自身を否定するのに近いので)。しかし数学はやや毛色が違って技術と直接に結びついていないというところがあり、哲学的な要素さえ含んでいる。彼のようなタイプが数学に進んだというのは非常に自然なようにも思える。

 まあとにかく悪い意味で真面目な人間だったことは分かる。コツコツと爆弾の改造に励んでいたようだし、社会に矛盾を感じたとしても、それを「自分がこの社会を破壊してやる」まではなかなか結びつかないものである。結局のところ、彼に一人でも友人がいるか、心から尊敬できる師でもいればまた状況は変わったのだろうが。アメリカという国はコミュニケーションスキルが非常に求められることが多く、彼のようなコミュ障には生きにくい面があるという。特にエリートたる者はまずはコミュニケーションスキルを求められるので、彼はドロップアウトせざるを得なくなったのだろう。

 

忙しい方のための今回の要点

・全米を震撼させた連続爆破魔のユナボマーの最初の事件は大学での爆破事件で、この時は警備員が手に軽症を負ったのみだった。
・続けて2件目の事件も発生するが、当時のアメリカは年間2000件も爆破事件がある状態で、シカゴ警察は特に注目していなかった。
・しかし3件目は旅客機の機内で小包が爆発するという事件で、あわや乗客全員死亡という可能性もある事件だった。これで警察も事件に注目し、その結果、先の2件との爆弾の共通性が注目される。
・4件目はユナイテッド航空社長が自宅での爆発で負傷する事件が発生、FBIが捜査に乗り出すことになる。この時に大学と航空会社の頭文字を取ってユナボマーというコードネームがつけられる。
・FBIは社長に恨みを持つ者の犯行と推測して捜査を始めるが、爆弾が廃材などを使用しており材料から犯人を特定できないことなどから捜査は行き詰まる。
・1年後、立て続けに爆破事件が発生し、殺傷力を高められた爆弾により死者が出る。FBIは犯人のプロファイリングを行い、30代から40代前半の白人の高学歴の男性という犯人像を推定、それをあえて「高校卒業の学歴」と発表してプライドを傷付けられた犯人が何らかの声明を出すように罠を仕掛けるが空振りする。
・1年半後の爆破事件では目撃証言から犯人の似顔絵が作成させる。全米から多くの情報が寄せられるが、これからしばらくユナボマーは沈黙する。
・6年後、3件の爆破事件で2人が死亡する。この時「近いうちに目的を伝える」というメッセージが初めて新聞社に送られる。
・その2年後、ニューヨーク・タイムズ社に56ページに渡る論文が送られ、これの掲載が要求される。内容は文明社会を批判したものであった。FBIで議論の末、3ヶ月後に掲載されるがこれは社会に大きな反響を呼び、彼の思想に共感する者も出る。
・FBIに対して、この論文が兄が以前に書いたものに類似しているとの有力情報が寄せられ、その結果犯人であるセオドア・J・カンジンスキーが逮捕される。
・彼は幼い頃から天才で、飛び級でハーバード大学に入学して歴代最年少の数学の助教授となったが、コミュニケーションに難があって友人が出来ないなどの問題があり、2年後に大学をやめてモンタナの山中の小屋で一人暮らしをしていた。しかしそこにも迫ってくる文明の影響に怒りを高め、犯行に及んだという。


忙しくない方のためのどうでもよい点

・まあかなり偏った能力の持ち主と言えるでしょう。社会と上手く折り合いをつけられれば人類に貢献できたかもしれないのですが(数学は特に天才のひらめきがひつようなジャンルですので)、彼は不幸にも落伍してしまったということです。コミュニケーションスキルを強く求められるアメリカでなければもう少し事情は違ったかもしれません。
・学者の中にはコミュニケーション下手な偏屈タイプが特に昔は多かったのですが、最近はそういうタイプはなかなか通用しなくなっています。社会が高いコミュニケーションスキルを求めるようになり、それに適応できない者が結構落伍してます。現在の不登校の者なんかもそういうタイプが多いと言います。

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