教養ドキュメントファンクラブ

自称「教養番組評論家」、公称「謎のサラリーマン」の鷺がツッコミを混じえつつ教養番組の内容について解説。かつてのニフティでの伝説(?)のHPが10年の雌伏を経て新装開店。

このブログでの取り扱い番組のリストは以下です。

番組リスト

5/13 BSプレミアム ダークサイドミステリー「神秘の遺宝の謎~聖槍ロンギヌス・聖杯・死海文書~」

創作でのパワーワードである聖遺物などについての真相

 今回はロンギヌスの槍だの死海文書だの、これだけでエヴァンゲリオンが頭に浮かぶキーワードであるが(「聖杯」はFate辺りですか)、これらは実際にはどういうものなのか。

 で、番組の方もいきなりFFが登場するというぶっ飛び具合だが、まずはロンギヌスの槍とは何かであるが、これは処刑の時にキリストを突いた槍である。ロンギヌスはこの槍を持っていた男で、キリストの血が目に入ることで眼病が治ったとされている。

 

ロンギヌスの槍とは

 現在、ロンギヌスの槍とされるものが3つ伝わっているという。アルメニアのエチミアジン大聖堂に伝わる槍の穂先は、異教徒の国王の病を治し、国王がキリスト教に改宗したと伝わる。トルコのアンティオキアでは異教徒に包囲された中、イエスの使徒のお告げで教会の地下を掘ったところロンギヌスの槍が見つかり、戦意高揚した十字軍は異教徒を打ち破ったという(これはさすがに捏造臭い)

 このような霊験あらたかなロンギヌスの槍であるが、大本となっているヨハネによる福音書にはロンギヌスの名も血の奇跡もどこにも掲載されておらず、ロンギヌスの名は新約聖書の外典のビラト行伝に出てくるが、奇跡のエピソードはどこにも出てこないのだという。では槍の奇跡はいつからいわれるようになったかであるが、13世紀のイタリアで槍の伝説に大きな影響を与える本が発表されたという。ジェノバの大司教であるヤコブス・デ・ウォラギネが記したレゲンダ・アウレアで100人の聖人の伝記を記した中でロンギヌスのエピソードも聖人として記されているのだという。ただしこの本の元ネタは物語的にかなり盛盛のものだったという。これが画家たちのイマジネーションを刺激され、絵画などに記されることで文字を読めない庶民に信仰が広がったという。

 それがさらに今日の「世界の運命をも左右する槍」にパワーアップしたのはオーストリア・ウィーンにある槍が元になっていると言う。それはオーストリアのハプスブルク家の宝物「ロンギヌス」。別名「運命の槍」だという。この槍は最初にコンスタンティヌスがこの槍を手に異教徒と決戦して勝利、その後はフランク王国のカール大帝などキリスト教の権力者に引き継がれていった。またナポレオンが槍を奪うとして恐れられたという。そして20世紀になるとヒトラーがウィーンからニュルンベルクに槍を移す。しかしヒトラーは滅亡、このような経緯が槍に神秘性を持たせたらしい。しかし槍の学術調査の結果、8世紀に作られたものであることが判明、イエス・キリストを刺したどころか、コンスタンティヌスが持っていた槍でさえなかったことが判明したのだという。

 

聖杯の真実

 次は選ばれた者のみが手に出来るという聖杯・・・って途端にやっぱり「Fate」が登場。この番組のスタッフってコテコテだな(笑)。さらにセーラームーンも登場。そう言えばこれにも出ていた。

 まず聖杯の由来で有名な画はダヴィンチの「最後の晩餐」。ここに描かれているのはイエスが最後に使用したという盃これが聖杯だそうな。ちなみに現在は聖杯とされるものが世界に5つもあるという。ただしどれも願いを叶えるという逸話はないという。

 実はこの「願いを叶える」という逸話はアーサー王伝説から来ているという。呪われた槍に刺されたフィッシャーキングの傷を聖杯に選ばれた騎士が治して国を復興したという伝説があるのだという。そしてそれよりさらに古いのがケルト神話に残っているという。そこに登場する食料を無尽蔵に産みだし、兵士をも甦らせる大釜が登場するのだが、これが聖杯伝説のきっかけだとのこと。そして中世になるとこのケルト伝説が社会不安の中でアーサー王伝説の中で広がることになったのだという。12~13世紀になるとこの魔法の器にイエスの聖杯が重なり始めるという。フランスの詩人のクレチアン・ド・トロワの「パーシヴァルまたは聖杯の物語」では聖杯にパンが入っているという描写がなされ、詩人のロベール・ド・ボロンは「聖杯由来の物語」で聖杯は磔になったイエスの血を受けた盃という設定を付け加えたのだという。結局は中世における二次創作の結果が今日の聖杯伝説につながっていると言うことで・・・おいおい、コミケの産物かよ!!

 

死海文書の謎

 最後は死海文書だが、2021年3月、死海文書がイスラエルで見つかったというニュースが世界を駆け巡った。2000年前の古文書であるが、これはエヴァンゲリオンの有名なモチーフの一つである。死海文書は1947年死海のほとりのクムランで発見された。羊皮紙に書かれた文書が見つかり、結果として合計972の古文書が見つかり、これらは2000年前にこの地に住んだ人々が書き残したものだと判明したという。

 1953年、パレスチナ考古学博物館で世界から集まった研究者が調査した結果、旧約聖書の写本やユダヤ教の聖書が含まれていることが分かったという。旧約聖書の写本としてはそれまでの太古のものよりも1000年古いものであった。またクムラン教団の記録なども残っていたという。これがすべて解読されれば新たな事実が判明するのではと注目されたのだが、そこから陰謀論が湧き上がり始めたという。

 それはある時点から解読された内容の発表のペースが極端に落ちたからだという。そのためにヴァチカンがキリスト教にとって都合が悪いためにその内容を隠しているというヴァチカン陰謀論が登場する。さらには死海文書には人類の終末が預言されているという類いの話まで登場することになったという。

 もっともこれらは今では完全に一蹴されたという。と言うのは解読のペースが極端に落ちたのは、文書の保存状態が悪くて断片化しているものを並べ替えては解読するという非常な手間が必要だったからであるという。それがデジタル技術の進歩で、コンピュータ上で自由に組み替えられるようになって解読は一気に進み、現在全ての文書が解読済みとのこと。そこには何らの隠されるべき話はなかったという(もっとも陰謀論的に解釈したら、それこそはヴァチカンが都合の良いように組み替えた内容で、真の内容は伏せているなんてことも言えそうだが)。ちなみに番組ゲストが「死海文書が世間的に注目されるようになったのはエヴァンゲリオン以来」と明言していたが、これはその通り。実際に私もこの作品以前にこの名を耳にしたことはない。

 

 以上、様々なオカルトや創作の元ネタになっている聖遺物類についての真相。まあ伝説なんてものは、たとえ槍が後世の作り物であることが判明しようがどうしようが、勝手に一人歩きするものであり、それが社会に悪影響さえ与えなければ目をつぶっておいた方が無難ってものだろう。

 ちなみにエヴァはこの手のネタが豊富に登場したが、結局はいずれも特に深い意味を持たせているわけではなく、単に庵野がこの世界にもっともらしさを与えるためのキーワードに過ぎないわけで、だからそれぞれについて深い解説がないのは至極当然なのである。要は格好良く雰囲気さえつけば、ロンギヌスの槍でも福島正則の日本号でも良かったわけで。どうも日本人はカタカナの方が格好良く感じるからロンギヌスを持ってきたというところだろう。

 

忙しい方のための今回の要点

・ロンギヌスの槍はキリストの処刑に用いられた槍で、奇跡を起こしたとされているが、元々の聖書には記載はないという。
・後に記された文書で次々とディテールが加えられ、奇跡のエピソードも加わっていったとのこと。ちなみに現在、世界に3本のロンギヌスの槍が存在するとか。
・聖杯については元々は「願いを叶える」というディテールはなかった。しかしこれがケルト神話の無尽蔵に食料を産みだし兵士を甦らせる大釜の伝説と融合し、さらに12~13世紀の創作で「キリストの血を受けた」などのディテールが加わったという。
・死海文書は1947年に死海のほとりのクムランで発見された2000年前の古文書である。世界最古の旧約聖書の写しなどが記載されていたが、解明が遅れたことからヴァチカンが隠蔽しているなどの陰謀説が出た。
・しかし真相は、断片になっていた文書の解析が困難だっただけで、デジタル技術の進歩などで現在はすべて解明されている。


忙しくない方のためのどうでもよい点

・何やら栗山千明氏がノリノリだった印象だが、彼女は実はかなりのエヴァオタクだとか。さもありなん。何か趣味性の猛烈に出ていた内容だった。
・30世紀ぐらいになったら「それまで広く社会では注目されていなかった死海文書が、エヴァンゲリオンの影響で一躍世間の注目を浴びることになる」とか言われるんだろうか。

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