教養ドキュメントファンクラブ

自称「教養番組評論家」、公称「謎のサラリーマン」の鷺がツッコミを混じえつつ教養番組の内容について解説。かつてのニフティでの伝説(?)のHPが10年の雌伏を経て新装開店。

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番組リスト

5/12 NHK 歴史探偵「真相!池田屋事件」

詳細が不明な池田屋事件

 今回のテーマは池田屋事件。池田屋事件と言えば、攘夷派志士のアジトである池田屋に踏み込んだ近藤勇以下新撰組4人が、大勢を相手にチャンチャンバラバラの大剣劇を演じる見せ場として有名である。しかし現実にはキチンとした記録はほとんど残っておらず、その詳細は不明であると言う。では池田屋事件の真相はどのようなものであったかというところに迫っている。

 池田屋事件と言えば、刀を構えてズラリと並ぶ志士たちの中に、たった4人の新撰組隊士が斬り込んでと言われているが、そもそも志士が何人いて何人が斬られたのかも定かではないとか。近年発見された攘夷派で生存者の和田義亮が残した資料によると、志士の中には刀を持っていなかった者もいるということが分かってきたとか。

 

志士の人数をシミュレーションで推測

 従来言われていた説では7人が斬られたとのことだが、高知で見つかった土佐藩の資料によると斬られたのが5人という記録が残っているとか。これは公式な資料らしいだから信憑性は高いという。これに対して先の7人説は、近藤が手紙で知らせた内容であり、多分に「ふかしている」可能性も考えられるという。

 では実際にそれをどう検証するかということで、番組ではここでコンピュータシミュレーションを用いているところが興味深い。光辻克馬氏のサムライドなる侍を擬似的に再現するというプログラムで新撰組隊士と志士たちの戦闘意欲や志士の人数(20,15,11,7)を設定して、どのような条件の時に斬られるのが5人になるかというのを実験した。

 1ヶ月かけての計算の結果、条件は細かく違っても斬られるのが5人になるのはいずれも志士が11人の時という結果になったとか。志士が20人とかいう設定になると、新撰組の方が全滅すると言う場合も(そりゃそうだ)。まあこれってかなり雑なシミュレーションだから、妥当性がどの程度かは不明だが。

 以上の諸々の条件を勘案すれば志士は11人だったのではというのが番組の結論。で、番組では生存者である和田義亮の証言に基づいて池田屋騒動の顛末を再現ドラマにしている。それによると。

 

池田屋事件再現ドラマ

 池田屋に集まった志士たちは2階と1階に分かれて会合を行っていた。大刀は階段の脇に置いていたという。そこに踏み込んできたのが新撰組。新撰組は踏み込むとまず階段脇に置かれていた刀を押さえてしまったという。2階では早速乱闘が始まるが、大刀は持っていないために脇差しで戦ったり、逃げ出したりなどの大騒ぎになる。

 一方の1階の4人は最初は何が起こっているのか分からなかったという。新撰組が踏み込んできたということが分かった時に彼らが最初に行ったことは、縁の下や壁のところに潜んで隠れるということだったという。最初はそれでやり過ごしたので、逃げようとしたところ出口で隊士に捕まる仲間が出て、和田は脇差しを投げつけると風呂場に逃げたのだという。そこに潜んで最早これまでかと言う時に、新撰組が引き上げていったのでそのまま朝までそこに潜んで生き延びたのだという。

 ここで新撰組が早々と引き上げた理由について、新撰組はこの後、一晩中あちこちを捜索しては次々と逮捕(無関係者も含めて)していたのだという。京でのテロの情報をつかんでいたことから、長州に与する者を押さえることを狙っていたのだという。この時、会津が長州との全面対決を決意しており、池田屋事件は単なるその前兆だったのだという。実際にこの一ヶ月後に長州と会津の武力衝突が発生している。

 

 以上、池田屋事件について。結局は番組が明らかにしたのは、近藤がふかしたほどに圧倒的劣勢の中で新撰組が奮戦したというわけではなかったというもの。まあそれは妥当だろう。全くの勝算のない中で踏み込んだのだったら、近藤はただの馬鹿である。

 なお池田屋事件が一連の明治維新までの流れの中の発端というのは確かにその通り。新撰組にしたら池田屋の志士を押さえたらそれで終わりではなかったので、あちこち回っていたのは当然だろう。実際にこの時にも土方の隊は別行動を取っている。

 というわけで池田屋事件というキャッチーな話題を取り上げ、それにシミュレーションや再現ドラマまで動員したというのは、この番組が目指している方向が良く分かった内容ではある。もっともそうなればなるほど佐藤二朗の不要さっぷりがどうしようもないのであるが。何かこんな使われ方は、彼自身も不幸な気がするんだが・・・。

 

忙しい方のための今回の要点

・新撰組が攘夷派志士と派手に大立ち回りをしたと言われる池田屋事件だが、実は真相は明らかではない。
・最近になって見つかった生存者の証言では、志士の中には刀を持っていない者もいたということが分かってきた。
・また斬られた人数は近藤の手紙で7人と言われていたが、どうも5人である可能性が高いことが判明した。
・そこからシュミレーションで推測した志士の人数は11人とのこと。新撰組の記録では20人以上とあり、かなり「ふかしている」可能性がある。
・なお池田屋事件自体は幕末の長州藩と会津藩の全面衝突の発端という位置づけになる。

 

忙しくない方のためのどうでもよい点

・内容的にはマズマズで、それなりに手間と金をかけたようであるが、番組の作り自体にはやっぱり安っぽさがある。その辺りがどうにかならないのかという気もする。それに最大の問題は佐藤二朗の扱いだな。パイロット番組の時はひたすら存在がウザかったが、今はひたすら存在の不要さが半端ない。

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