教養ドキュメントファンクラブ

自称「教養番組評論家」、公称「謎のサラリーマン」の鷺がツッコミを混じえつつ教養番組の内容について解説。かつてのニフティでの伝説(?)のHPが10年の雌伏を経て新装開店。

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5/16 サイエンスZERO「脱炭素社会の切り札!水素エネルギー最前線」

水素エネルギーを利用して再生可能エネルギーを効率化する

 脱炭素社会の切り札の一つとして注目されているのが水素エネルギー。その最前線を紹介する。

 まず水素の製造であるが、これは水の電気分解によって製造されるが、この発電を化石燃料で行ったのでは意味がない。そこで再生可能エネルギーで水素を製造することが考えられている。

 太陽光発電システムなどが存在するが、発電した電力の備蓄が問題となっていた。この備蓄を水素で行おうというのである。福島の卸売市場に導入したシステムでは、昼間に太陽光で発電した電力で水素を製造、それを消費電力量ピークの時間帯に水素で発電するというシステムでCO2の排出を50%削減することが可能となった。

 さらには一日レベルでなく、例えば週末に使用しないビルなどで週末の電力で水素を製造して備蓄して平日に使用する。さらにもっと長いスパンで季節ごとで蓄積などの方法が考えられるという。このような水素の備蓄が可能になったシステムは水素吸蔵合金による。これらは体積の1000倍の体積の水素を蓄積出来るのである。

 

水素をより効率的に液化する研究

 また水素を液体化するには-253度が必要であり、ここに膨大なエネルギーが必要となるのだが、最近はこれに磁力を使うシステムが研究されているという。磁力によって原子のスピンを揃え、それがまた崩れる時にエネルギーを吸収するので冷却が可能なのだという。物質・材料研究機構の液体水素材料研究センターの沼澤健則氏のグループでは、磁気冷凍機を研究している。超電導磁石と磁性体を使用し、超電導磁石で磁性体のスピンを揃えてヘリウムを冷却するのだという。そしてそれで水素を冷やすのだとか。シンプルな装置であるが、効率的に水素を冷却出来るので低コスト化が可能であるという。これで従来のコンプレッサーなどに比して消費電力を半分に出来るという。

 磁気冷凍機の性能を向上するには磁性体の能力が重要である。エントロピーの大きさがポイントになるのだが、これを探索するのに従来の実験でなく、機械学習で行うということがなされている。ここから新たな材の候補を絞って、HoB2が候補に浮上、実際にかなりの高性能であることが判明したという。これを用いると効率は2倍になるという。


 新たなエネルギー源としての水素についての話であるが、これは水から作り出すものであるので、一次エネルギーではなく、あくまで二次エネルギーであることが注意。つまりは太陽光や風力などのクリーンエネルギーの「エネルギー生産にムラがある」とか「エネルギーを生産するのに場所が限定される」などの欠点を補うエネルギー輸送形態であるということになる。

 水素エネルギーと言えば、昔はこれを直接燃焼して車を動かす水素エンジンなどの開発がメインであったが、これは諸問題で事実上頓挫しており、現在は燃料電池技術が登場したことで直接発電が可能になったことが非常に大きい。もっともこれもこれでまだまだ技術的課題は少なくないというわけで、水素社会の到来には水素技術だけでなく、その周辺技術すべての開発が重要と言うことになる。

 

忙しい方のための今回の要点

・脱炭素社会の切り札の一つとして注目されているのが水素エネルギーである。
・太陽光発電システムと組み合わせることで、発電量の十分な時に水素を製造し、その水素で発電量が減る時間帯に発電をするというようなタイムシフト、さらにはシーズンシフトの使用法が考えられる。
・水素の輸送には液体化が必要であるが、それには-253度という超低温が必要であり、そのために非常にエネルギーを消費することが問題であった。
・現在、磁石と磁性体を使用した冷却システムが研究されており、これによって従来のコンプレッサーによる冷却よりも使用電力を半減させることが可能となった。
・さらに機械学習でより高性能な磁性体を発見することで、さらなる性能向上が行われている。

 

忙しくない方のためのどうでもよい点

・機械学習はブラックボックスというような話がありましたが、確かにあれって、どういう思考回路によって結果が出たというのがないんですよね。だから結果について論理的に説明することが出来ない。ですから研究者は「ご神託」などと言うことがあります。あえて言うなら、人間の直感に近いかな。だから実は「当たるも八卦、当たらぬも八卦」なところがあるんですよね。

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