教養ドキュメントファンクラブ

自称「教養番組評論家」、公称「謎のサラリーマン」の鷺がツッコミを混じえつつ教養番組の内容について解説。かつてのニフティでの伝説(?)のHPが10年の雌伏を経て新装開店。

このブログでの取り扱い番組のリストは以下です。

番組リスト

6/3 BSプレミアム ヒューマニエンス「"天才"ひらめきのミステリー」

天才の発想はどこから来ているか?

 人類に大きな進歩をもたらした数々の「天才」が歴史上存在するが、彼らはいかにしてそのような発想に至ったのか。人にそのような天才の発想をもたらすメカニズムとはいかなるものであるか。それを最新科学で解き明かす。

 まず直感というものがあるが、その直感とは何であるのかを調べた研究がある。イスラエルの研究では画面の右と左に2つの数字を映す。この数字が次々入れ替わる画面を15秒見てもらい、右と左のどちらの数字の合計が大きいかを判断してもらうという実験である。数字の切り替わりは早く、暗算で計算の出来る速度ではないため、判断はあくまで「印象」によるものになる。

 イスラエルの実験によると正解を当てた被験者はおよそ90%にのぼったという。分からないまま正解を選んでいるのである。なお私もこの実験をやってみたが、私の場合もたまたまの可能性はあるが正解だった。私の場合は左の方に59とか58の大きい数字があった印象が残っており、それが左が大きいと感じた根拠であった。

 

プロの直感は正しい

 直感といえば勝負の世界で良くいわれることで、特に将棋などでは直感が重要となる。プロレベルになると理論ずくの考えだけでなく、直感で正しい手が分かるのだという。このような直感には脳のどのような働きが効いているかの研究がある。

 理化学研究所の田中啓治氏の実験は、プロとアマチュアの上位の被験者を集め、詰め将棋を1秒だけ見てもらってすぐに正解を回答してもらうというもの。その時にMRIで脳の働きを見るのだという。この時の正解率はプロで70~80%、アマチュアは40~50%だったという。

 脳の活動を見たところ、大脳皮質の活動についてはプロとアマチュアでは大した差がないという。さらに比較したところ脳の深部の大脳基底核がプロの時だけ働いていることが分かったという。大脳基底核はいわゆる古い脳であり、思考ではなく瞬時の判断である。多くの選択肢が存在する時にその中から無意識に自動的に選択を行っているのだという。これは人類の祖先が野生で生き残っていくために瞬時の判断を求められるために発達したものだと考えられるという。実際にゲストのプロ棋士の方も「何となく気持ちが良い」とかいうような感覚的なもので手が分かると発言している。経験を積み重ねることで無意識の情報の取捨選択の回路が出来上がっているのだという。実際に大脳基底核の働きが強ければ強いほど正解率が上がるという結果が出ているという。

 

アインシュタインの脳に見られた特徴

 また天才の脳を分析することで天才の発想の源の可能性が分かってきたという。アインシュタインの脳のサンプルを調査したところ、脳の細胞体の周囲に存在するグリア細胞をアインシュタインは一般人よりも多く持っていることが分かったという。グリア細胞はこれまで脳組織を支持するためだけに存在するとされてきたのだが、実はこのグリア細胞が神経の伝達を強めているのではないかということが分かってきたという。シナプスで分泌されるグルタミン酸をグリア細胞が増幅させているのだという。そうすることによって学習能力が向上するのだという。マウスを使った実験で、グリア細胞を刺激することによって学習能力が向上するという結果が得られたという。

 またグリア細胞の活性化によって長期記憶が強化されるとの研究報告もあると言う。人の脳から取り出したグリア細胞を培養してネズミに移植すると学習効果が上がったという報告があるとか。ただしグリア細胞が多ければ良いのかという単純なものではなく、脳卒中や脳梗塞はグリオーシスといってグリア細胞の異常増殖によって悪化するという。グリア細胞は脳回路の柔軟性に関係しており、アインシュタインの発想はその接続の柔軟性によるのではという話である。なおグリア細胞の比率は脳が大きくなるほど多いので、人間よりもはるかに多いのはクジラとのこと(アインシュタインの倍らしい)。グリア細胞は脳細胞のエネルギー分配に働くので、脳の大きさと比例することになるらしい。

 

IQは頭の良さと関係ない

 さらに昔から頭が良いといえばIQがよく上げられるが、果たして本当なのか。心理学者のルイス・ターマンはIQ140以上の子供たちに注目して、その後中年に至るまでの観察を行ったところ「高IQ児童は世界を変えられるような傑出した業績を得られなかった」と結論している。その後の研究でも結論は変わっていないという。なおIQテストを行った児童の中には後にノーベル賞を受賞したウィリアムとルイが存在したが、彼らは二人ともIQが140に及ばなかったためにその後の追跡調査の対象となっていなかったとか。どうもIQは単純に頭の良さというわけでもなく、IQが高いと天才というわけでもないようだ。

 結局はウィリアムとルイがどうして大きな業績を上げたかを見ていくと、自分が興味を持ったことに食いついてあくまでそれを深めていったこだわりが鍵になっているのではとのこと。どうやら早熟の天才が大成しないというのは本当のようである。かつては私も神童のように言われたこともあったのだが(笑)、20歳過ぎればただの人で、50過ぎればただの人以下に成り果てている。

 

ひらめきを生むぼんやり状態

 さて「ひらめきを生む」にはどうすれば良いかだが、それは心の働き方に鍵があると言う。人間の脳は何も考えていないと思われるボンヤリしている時も、実はかなりのエネルギーを消費しているという。これをデフォルトモードと言い、人のひらめきに重要な働きをしているという考えが出ている。デフォルトモードでは前頭前野の内側面、さらに後部の帯状回、頭頂小葉の一部がさかんに働いているという。これらをつないだものがデフォルトモードネットワークであり、ひらめきを生む切っ掛けとなるのだという。この時はマインドワンダリングと言い、様々な記憶が勝手に結びついて新たな発想につながるのだという・・・って、これって夢で大発見したという話と共通する気がするのだが。IT企業の中にはこの「ボンヤリ」する時間を意図的に取り入れているところがあるそうだが、残念ながら私の勤務先はそんな先進的企業と違うので、私が仕事中にボンヤリしている時は、もろに上司から「仕事をさぼっている」と減点対象にされている(笑)。実は私も、仕事中にPC画面を眺めて考えているうちに、寝ているとも起きているともつかない状態になった時に「あっ、そういうことか」と閃いた経験は実際にあるのだが。まあプラプラとあてのない散歩辺りにしておくのが無難だろう。

 

 以上、今回は天才のひらめきについて、分かったような分からなかったような内容である。とりあえずIQが高ければ天才というわけではないようだ。だから漫画等によく出てくるIQ300の天才が何でも解明するなんてのは無意味ってこと(笑)。もっともIQが極端に低すぎる場合は何らかの脳障害があると考えても良さそうだが。

 また直感が当たっているとの話だが、それはあくまで今までの学習や経験によってその直感に至る回路が出来上がっていることが前提で、単なる素人の直感は直感でなくて当てずっぽうなので当たるわけがないとの話であり、それはごもっとも。素人の直感で当たったら、それは直感ではなくて霊感の類いになるので、科学でなくてオカルトの世界である。まあ自称霊感持ちで本当にその能力があった例を私は聞いたことがないが。

 なお私は長年のアニメ視聴経験で、最初の10分で駄作を峻別する回路を獲得したが、これは直感とは別物か(笑)。

 

忙しい方のための今回の要点

・天才のひらめきは脳がどう働いているのかの研究について。
・詰め将棋を瞬間的に見た時のプロ棋士とアマチュア棋士の脳の働きを調べたところ、プロ棋士では大脳基底核が活性化していた。これがいわゆる経験に基づいた直感と推測出来る。
・まあアインシュタインの脳はグリア細胞が通常よりも多いことが分かった。これが脳の神経回路の柔軟性を高めたり、記憶を強化する可能性があると指摘されている。
・IQの高い児童が天才になるかの調査の結果は、IQと天才的な発見とは関係が無いことが報告されている。
・脳はボンヤリしている時に働く部分があり、このようなデフォルトモードネットワークがひらめきに関与している可能性が指摘されている。


忙しくない方のためのどうでもよい点

・一時期IQがやたらに流行ったことがあり、未だに日本ではそれが尾を引いていたりしますが、実際のところはIQと頭の良さは無関係というのが今では常識です。結局はIQはそれが顕著に低い場合に何かの脳障害がある可能性を指摘するだけの指標となっています。
・今回のを見ていると、やっぱり夢で大発見ってのは本当なんだなとつくづく感じます。要は頭を自由にすることが大事って事ですが、これって意図的にそういう状態にするのは意外と大変です。

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