教養ドキュメントファンクラブ

自称「教養番組評論家」、公称「謎のサラリーマン」の鷺がツッコミを混じえつつ教養番組の内容について解説。かつてのニフティでの伝説(?)のHPが10年の雌伏を経て新装開店。

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番組リスト

6/18 テレ東系 ガイアの夜明け「ニトリの新たなる野望 独占密着!ホームセンター参入の舞台裏」

ホームセンター業界に参入したニトリ

 家具業界一位のニトリでは衣食住すべての分野への事業展開を目論んでいるという。食の分野ではファミリーレストランのニトリダイニングをオープン、リーズナブルな価格を売りに首都圏を中心に出店を加速している。さらに衣の分野ではNプラスというアパレルブランドを立ち上げており、30~60代の女性をターゲットに現在18店舗、2025年に100店舗を目標としている。

 そのニトリが長年の悲願であったホームセンター業界に参入するべく、業界第7位の島忠を買収した。その後の顛末について番組は密着取材している。

 島忠はそもそもはニトリと同様に家具店から発祥している。会長の似鳥氏によると店舗が大きくて一等地を押さえているところにメリットがあるという。しかし島忠との合同の経営会議では似鳥会長は冴えない表情、島忠は売り上げはともかくとして利益率が低いのが問題であると言う。似鳥会長は利益率を倍にすることも目論む。

 

新幹部と店長が目論む新店舗

 似鳥会長が島忠の新会長に指名したのがニトリの副社長の須藤文弘氏だった。彼はニトリで新店舗開発に活躍してきた。実は須藤氏は20年前まで島忠の社員であり、ニトリに転職したのだという。当時はニトリの売り上げは島忠の半分で、島忠に追いつき追い越せで頑張ってきたんだという。その島忠の建て直しに従事することになったのはなかなか複雑であると言う。

 須藤氏はまず島忠(店舗ブランドはHome's)の店舗視察を行う。その結果、通路を狭める島陳列などが気に掛かる。また棚をメーカー任せになっており、PBが多いニトリとの差が目立つ。ニトリの利益率の高さはPBの収益率の高さにあるという。そこで商品棚の商品の中から売り上げの悪いものはニトリのPB品との入れ替えを進める。PBの充実は島忠時代に須藤氏が取り組んだ課題でもあったというが、20年の間にその文化は消滅したようである。

 埼玉のホームセンター激戦区にある島忠ホームズ宮原店がニトリと島忠が融合した店舗の一号店にすることになった。そして改装の準備か進む宮原店に訪れたのが、ニトリ社員で今までいくつかの店舗で店長を経験した水川琢麻氏だった。この店舗の店長に抜擢されたのである。店舗を訪れた水川氏は店舗を視察しながら島忠のスタッフと交流する。その結果、島忠はニトリと異なり商品知識の豊富なスタッフがおり、売り場造りにも担当者の個性が反映していることを感じ取る。

 

買収された側の複雑な心情

 一方の買収された側には複雑な心境もあった。島忠も家具が本業なのだが、ニトリとは違って高級品中心でスタッフが接客しての販売を行っていた。このような営業を行ってきた家具担当の魚住大介氏にとっては、ニトリに買収されたことに不安があった。新店舗の家具売り場を任されることになったが、まず最初にやったことは店頭在庫品の売り尽くしだった。ニトリの商品が入ってくることで大幅な商品入れ替えが決まっていたのである。魚住氏の思いは複雑である。彼は休みの日にニトリの店舗を視察に行くが、やはり驚いたのはその圧倒的な価格。その良さを取り込みつつ、いかにして島忠の強みを出すかを考える魚住氏。

 結局新店舗ではニトリと違って接客販売を行うことになった。店員を相手に商品のセールスポイントを指導する魚住氏(非常に流暢な語り口が、彼が一流の販売員だったことを覗わせる)。

 看板から島忠の文字が外され、新たにニトリHome'sの看板が掲げられてリニューアルの準備は進む。水口氏も魚住氏も先頭に立って店舗内構成に動く。

 そして6月、オープンを迎える。全体的に見晴らしが良くなった店舗は選びやすくなったなどと客にも好評のようであるが、勝負はまだまだこれからである。視察に訪れた似鳥会長も次の展開を模索している。

 

 以上、ニトリの宣伝でした(笑)。家具業界は大塚家具の倒産などにも見られるように、明らかに市場の頭打ちが見られており、ニトリが家具から他の分野に討って出ようとするのは理解出来る。もっとも番組中でも説明があったように、ホームセンター市場は地域の小規模店舗まで含めてあからさまに過当競争となっており、今後の再編は必至である。その中でニトリが独自の強みを出せるか。ニトリとしては強みのある低価格品に、島忠の高級品も加えてラインナップの充実を狙っているのだろうが、これは下手をするといずれの客にも中途半端になる可能性のある両刃の剣である。まあ似鳥会長のような経営の専門家が私のような素人でも思いつくことが分かっていないはずはなかろうが。

 これから先は高級品市場はかなり厳しくなると考えられ、それはアベノミクスなどに見られる一連の庶民貧困化政策の行き着く先である。ニトリの躍進にしても「とにかく安いから」というのが一番の理由だった。しかし振り向けばさらに安いネット通販が控えている。家具はやっぱり「見ないと分からない」ということがあるので、店舗にもまだ一日の長があるのだが、それでも最終的にはネットに食われる危険性はある。実際に私も、最近にPC用椅子を調達した時には、家具店(ニトリも含む)を数店回った結果、最終的にはネット通販で購入することになった。

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 家具と違って、型番が決まっていたら商品が分かる家電量販店ではさらにその影響が大きく、家電量販の覇者であったヤマダ電機でさえ現在は苦戦中で、目下のところは家丸ごと提案の方向に向かっていて、その構想の下に大塚家具を傘下に加えるということを行っており、ここも今後の波乱の目である。ちなみにヤマダ電機の「家丸ごと」というコンセプトから考えると、目下の住宅リフォームにとどまらず、いずれは住宅建設分野にも乗り出そうとするのではと推測している。そうなると今度はやはり電機メーカーの観点から住宅丸ごとを手がけているPanasonicなどとも競合となる。

 と言うわけで、今の世の中、今まで関係なかったどんな企業がいきなり競合ライバルになるやら分からないという状況である。今回はあまり深く触れてなかったが、ニトリのファミレス参戦やアパレル参戦も業界を動かす可能性があり、とにかく波乱の目だろう。

 

忙しい方のための今回の要点

・ニトリでは衣食住まるごと手がけることを目指しており、その一環でファミレスやアパレルにも参入した。そしてこの度、似鳥会長の悲願であったホームセンター業界に島忠を買収することで参入することになった。
・島忠も家具屋から発祥したホームセンターだが、家具ではニトリと違って高級品の接客販売が中心と、ニトリとは大分カラーが異なっている。ニトリから送り込まれた幹部が、島忠の良さを生かしつつ、ニトリの高収益を達成するための策を練っている。
・埼玉の宮原店が合同店舗の一号店としてリニューアルオープンした。ニトリのPB商品を販売するなど、今までの島忠とは変わった構成で勝負を挑んでいる。

 

忙しくない方のためのどうでもよい点

・統合メリットを出せるかどうかが正念場。統合は1+1が2でなくて3や4になってこそ意味があるのですが、下手すると1以下になってしまうということさえあるので経営者としては大変なところです。
・島忠は当面は対面販売を継続となったようですが、私はいずれはそこが見直されると予想します。ニトリの高収益はPBの利益率の高さが上げられてましたが、実は徹底的な人件費削減の方が肝だと思うので、いずれはリストラ必至というのが私の読みです。恐らく現状ではスタッフの士気を保つためにそれは言っていないでしょうけど。
・悲しいことですが、数年後には他社に転職した魚住氏が「島忠は過去の良さをすべて失ってしまった・・・」って嘆いている予感がします。

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