教養ドキュメントファンクラブ

自称「教養番組評論家」、公称「謎のサラリーマン」の鷺がツッコミを混じえつつ教養番組の内容について解説。かつてのニフティでの伝説(?)のHPが10年の雌伏を経て新装開店。

このブログでの取り扱い番組のリストは以下です。

番組リスト

6/29 BSプレミアム プロジェクトX 挑戦者たち(リストア版)「ロータリー47士の闘い 夢のエンジン開発」

ロータリーエンジン開発物語

 今回のテーマはロータリーエンジン開発。マツダが世界で初めて実用化に成功した画期的エンジンである。これがまた技術者の執念の熱い物語なのだが、見返してみるとなぜか私のアーカイブに記事がない(この回を見ているのは間違いないのだが)。ちょうど仕事が忙しくてページ更新が滞っていた時期かも。と言うわけで今回は書き下ろしである。

 

原爆の廃墟から立ち上がった自動車メーカー

 原爆で焼き尽くされ14万人の命が奪われた広島。この時に比治山の影になったことで奇跡的に被害を免れた地元企業が三輪自動車メーカーの東洋工業だった。ここは被爆した市民の救護所となっていた。ここに戻ってきたのが学徒動員で茨城の工場で戦闘機を製作していた23才の山本健一だった。彼は家族を探して走り回ったが、母は髪が抜け落ちて病床で呻いており、妹は原爆の直撃を受けて即死していた。航空機の開発を目指して大学で設計技術を学んだ山本だが、すべてを失ってしまった。やけになって闇市の酒場で飲んだくれて客と大げんかを繰り返す日々を送っていた。

 そんな山本を見かねて、母親が病をおして知り合いに頼み込んで見つけた仕事が東洋工業だった。200人の従業員を原爆で失った東洋工業だが、三輪トラックの製造を再開していた。三輪メーカーと侮った山本は、面接で「俺の力を生かすなら設計部だ」と言い放ち試験官の怒りを買う。結果として組み立て現場に配属されるが、やる気が起こらずミスを繰り返しては怒られる日々に嫌気がさしていた。しかし復興現場を走り回っている三輪トラックを目にして、自分も逃げるのはやめようと決意する。

 昭和30年、トヨタ、日産の新車が発売され四輪車の時代が到来していた。東洋工業も市場が頭打ちとなり、四輪への参入が緊急課題となっていた。社長の松田恒次は新車開発を設計部に異動してエースとなっていた36才の山本に命じる。山本は無駄を削ぎ落としたシンプルな車を設計して1万7千台の大ヒットとなる。

 

会社の存続をかけて新技術開発に挑む

 しかしその矢先、通産省が日本の自動車メーカーを3つに再編する合理化案を打ち出す。このままでは東洋工業はトヨタや日産に吸収されてしまう。松田は危機感を持つ。そんな時に西ドイツの自動車会社がロータリーエンジンの試験開発に成功したというニュースが飛びこんでくる。小型で高出力で静粛性の高いのがロータリーエンジンの特徴だが、この200年間、世界中の研究者が開発に失敗していた。これを実用化すれば会社の独立が守れると考えた松田は直ちに西ドイツに飛ぶ。現地には多くの自動車メーカーが訪れていた。契約の条件は2億8千万円、従業員8000人分の月給に相当したが、松田は交渉3日目でサインする。

 山本が開発のリーダーに選ばれる。プロジェクトメンバーを募ったが、ロータリーエンジンの困難さを知っているベテランは尻込みした。その時、若者が名乗り出た。高田和夫、東洋工業の技術者だった兄を原爆で失っていた。黒田堯、山本に鍛えられ彼を兄貴と慕っている男だった。こうして若手47人が集まる。ロータリー47士の結成である。

 

しかしとんでもない壁に突き当たる

 西ドイツ製の試験エンジンのテストが始まるが、それはとんでもないものだった。いきなりオイルがエンジン内に漏れて白煙が出る「カチカチ山のタヌキ」。低速になったらひどい揺れが始まる「電気アンマ」。さらに致命的だったのは走行距離2万キロでエンジンが停止し、分解すると内壁に無数の傷跡があった「悪魔の爪痕」。回転するローターとの摩擦で傷が出来てガソリンが漏れてエンジンが停止したのだった。

 山本は毎日家に戻ると問題を考え続けた。悪魔の爪痕を解決する担当となった高田は、エンジンの模型を持ち帰って対策を考え続けた。

 カチカチ山のタヌキに挑んでいたのは若き技術者達富康夫だった。しかしオイル漏れを防ぐ方法はなかった。白煙を浴び続けて体調を崩したが、タヌキ退治は出来なかった。研究室には失敗サンプルばかりが山積みとなり、専門家からはロータリーの実用化は不可能と指摘された。山本も具体的な指示が出せず、胃に穴が開いた。開発リーダーを降りようと松田に直訴に行くが、松田は「これができるのは故郷を愛する君しかいない。」と言う。山本は故郷の復興に尽くすと誓った日を思い出す。

 

画期的アイディアで問題を解決する

 その頃、若手達が車体のデザインを制作していた。小型で高機能のロータリーエンジンの特性を生かした今までに見たことのない美しいフォルムが出来上がった。この車体にロータリーエンジンを搭載したい。達富はカチカチ山のタヌキの対策として何とゴムを使うことを試してみる。誰もがゴムは溶けると思っていたが、エンジンを分解するとゴムは溶けていなかった。エンジン内部は予想したほど高温ではなかった。これでカチカチ山のタヌキは解決する。

 最大の問題は悪魔の爪痕。500種の材料を試したがダメだった。山本がカーボンを使いたいと言い出したので試したが強度が全くなかった。入社2年目の宮田順はカーボンに硬い金属を混ぜてみるがダメだった。そこで逆に柔らかい金属を混ぜたらどうなるだろうとアルミを混ぜてみる。想像外に強い材料が出来た。そしてこれで10万キロの稼働に成功する。こうしてロータリーエンジン車が完成する。広島の奇跡だと絶賛された。松田はロータリーエンジンの成功を見てからこの世を去る。

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完成したマツダコスモスポーツ

 

 と、このように奇跡の技術開発で実用化したロータリーエンジンですが、その後の低燃費競争で残念ながら敗北し、とうとう現在は市場から消えてしまいました。この番組は20年経っているので、現在に至るその後の時代の流れの結果「残念!」という展開になったものも少なくありません(VHSビデオとか)。このロータリーエンジンもその一つでしょう。私はカーマニアではないので良く分かりませんが(頭文字Dの高橋兄弟の車という程度の認識しかない)、カーマニアにすると独得の魅力があるそうです。

     
名車として模型なんかも出ているようです

 もっとも様々な省エネ技術など最新テクノロジーが投入された自動車のエンジンですが、それが現在は急激に電気自動車に移行しつつあり、ガソリンエンジン自体が過去の遺物となりつつあります。そうなるとまた自動車会社の勢力図も変化を遂げるでしょう。こういう動きの速すぎる時代には技術者もなかなかしんどいです。

 

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