教養ドキュメントファンクラブ

自称「教養番組評論家」、公称「謎のサラリーマン」の鷺がツッコミを混じえつつ教養番組の内容について解説。かつてのニフティでの伝説(?)のHPが10年の雌伏を経て新装開店。

このブログでの取り扱い番組のリストは以下です。

番組リスト

7/14 NHK 歴史探偵「戦争とエンターティンメント」

戦時下でのエンタメ利用

 エンターテインメントは生活に潤いを与える意味で必要なものであるが、戦時下においては政府はそれを国民を誘導する意味でも使用していた。戦時下にはどのようなエンタメが存在したのかを紹介する。

 まずエンタメといえば音楽なんだが、番組では東京で最後の名曲喫茶なるものに出向いている。やはり昭和の娯楽といえばレコードを聴くことだった。とは言うものの、実はここは戦時に焼けていて戦前のレコードはないというグダグダ。結局は戦時下の音声記録を研究していると言う毛利眞人氏に紹介してもらうのだが、そこで登場したのは与謝野晶子が自らの詩を朗読するものやら、ハワイ音楽など。太平洋戦争が始まってもハワイ音楽は結構聴かれていたという。検閲下でハワイアンが許されていたことには裏があるという。

 国のプロパガンダについて研究しているという慶應義塾大学の玉井清氏によると、当時は写真週報という国が作ったグラビア雑誌がプロパガンダに大きな役割を果たしていたという。国の政策などを漫画入りで分かりやすく紹介するということで読みやすく、読者は300万人に及んだという。ここでは例えば真珠湾奇襲が成功した戦争初期にはアメリカを弱い存在だと印象づける記事を掲載し、ガダルカナル戦で日本が劣勢となって最早アメリカを弱いとは言いにくくなった頃にはアメリカを鬼として表現しているという。巧みに印象操作をしているわけである。

 

戦意高揚に利用されたエンタメ

 この雑誌のタイトルから多く使われている単語を調査したところ、「戦う」や「護る」などの戦争に関係ありそうな単語を圧して一番登場したのは「明るく」であったという。特に日本軍が劣勢になってから「明るく戦おう」という表現が頻発しているという。厭戦気分が市民に広がる中、明るい笑顔の人々を掲載して戦意高揚を狙っていたという。そしてこのような誘導に欠かせなかったのがエンタメだったという。当時の国の資料には「楽しませながら国の体制の中に引き入れる必要がある」と記載しているという。明るいハワイアンもその一環で「南洋音楽」と名前を変えて親しまれることになったという。またエンタツアチャコなどの漫才師が前線の兵士を慰問するなんてことも行われていた。

 

検閲下での苦労

 彼らの漫才の台本を書いたのが秋田實であるのだが、当時は軍による検閲の下なので漫才のネタも国の政策に沿う必要がある。そのために漫才のタイトルは一億総進軍や防空戦などとなっていると言う。ただ秋田氏はその中で検閲に引っかからないようにいかに市民の本音を加えるかに腐心していたという。と言うわけで秋田氏による漫才が実際にどんなものだったかを漫才師ミキに演じてもらうということをしているのだが・・・正直なところ全く無駄な内容。要は政治批判に聞こえないように、サラリと当時の庶民の本音を加えている(そしてすかさず国の建前を加えてそれを隠す)という型式である。

 しかし戦争も末期になってくると娯楽の禁止が強化されることになる。当時の一部の市民からの「娯楽は不謹慎である」という類いの投書が新聞に掲載されており、軍がそれに載っかったというか利用したようである。どうも「自粛警察」の類いが登場したがるのは日本人の特性のようだ。そんな中で秋田氏も漫才の世界から去ったという。結局は世の中は息苦しさを増す中で敗戦にいたる。

 結局は娯楽の復活は戦後となり、秋田氏もそんな中で再び筆を執ることになる。秋田氏は漫才師の育成に力を入れ、その中には今日の西川きよし氏もいるという。

 

 毎年夏頃になると登場する「戦争について考える」の一環なんだが、中身が薄いしつまらないという印象が非常に強い内容であった。当時の漫才の復元に長い時間を割き、番組自体も佐藤二朗による今ひとつポイントを突いていないコメントがダラダラと流れる状況で、内容の薄さをこれらで尺を引き伸ばして誤魔化していたという感覚が強烈にした。

 このような内容になったのは、まず制作スタッフ自体のレベル低下及び、現在のNHKがオリンピック最優先でさらに制作体制が弱体化していることが影響しているだろう。また現政権は「国民をいずれ戦争に動員したい」と考えており、そのために「戦争の悲惨さを伝えるような番組はNG」という圧力をもろに放送に対してかけているので、それに対する忖度なんてのが大きくあろう。

 ただその影であえて漫才界を動員しての戦争のプロパガンダというものを伝えた意味について視聴者側は汲み取っておく必要がある。というのは、今の政府が吉本に膨大な予算を投入して国民洗脳の一翼を担わせているということは公知の事実であり、今回も一般国民のコロナワクチン接種に先駆けて、吉本芸人は職域接種として優先的にワクチン接種を受けている。ここにどういう意味が潜んでいるかを考えて欲しいという行間のメッセージを汲み取るのが正しい見方だろう。

 

忙しい方のための今回の要点

・戦時下において娯楽は国民の誘導に使用された。
・国が発行していたプロパガンダ誌である写真週報などを利用して、巧みに国民を戦争に向けて動員する政策がなされている。
・国策に沿わない娯楽などは検閲を受ける中で、漫才作家の秋田實氏などは検閲に引っかからない形で庶民の本音を加えるのに腐心した跡が見られる。
・しかし戦局がさらに悪化すると、一部市民からの「娯楽は不謹慎」という投書が掲載され、軍もそれを利用して娯楽の全面禁止に乗り出すこととなる。
・結局は娯楽が復活するのは敗戦後となる。


忙しくない方のためのどうでもよい点

・「娯楽は不謹慎」という意見がごく一部の市民から出たとのことだが、コロナ禍での「自粛警察」なんかを見ていたら、ああ、やっぱりこの国は政府も市民も全く進化していないと痛感する。気をつけないと歴史は繰り返されることになりかねない。

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