教養ドキュメントファンクラブ

自称「教養番組評論家」、公称「謎のサラリーマン」の鷺がツッコミを混じえつつ教養番組の内容について解説。かつてのニフティでの伝説(?)のHPが10年の雌伏を経て新装開店。

このブログでの取り扱い番組のリストは以下です。

番組リスト

7/15 BSプレミアム ヒューマニエンス「"腸内細菌"見えない支配者たち」

我々は腸内細菌に支配されいる?

 今回のテーマは腸内細菌。我々は腸内に多くの細菌を飼っており、その数は実に100兆という。実は我々の体細胞が37兆なので、優にその3倍の腸内細菌を体内に棲息させているのである。我々はそれを有効活用しているとも言えるのだが、実は本当は逆に我々こそが腸内細菌に支配されているのではないかという視点での話。

 まずは実は腸内細菌が恋愛相手まで決めているかもしれないという話。ショウジョウバエは人に似た腸内細菌を有しているのでよく実験に用いられるとのこと。そのショウジョウバエを2つのグループに分け、一方は糖蜜で育てて、もう一方はデンプンで育てる。するとそれぞれ腸内細菌はその環境に適したものになる。その後、オスとメスを解き放つと76%の確率で同じ腸内細菌を持つ者同士が結ばれたのだという。腸内細菌がフェロモンに関わり、それが結びつけたと推測されるという。

 ショウジョウバエの実験がそのまま人に当てはまるのかと疑問を感じるところだが、実はショウジョウバエと人は似ているのだという。遺伝子的には60%が共通で、ラクトバチルスなど共通の腸内細菌を持つので医学研究にはよく使用されるという。人の匂いは実は細菌が作っているとの話があるので、人でもないとは言えない話とのこと。そう言えば私も昔、悪い子ではないにも関わらず体臭その他(決して臭かったわけではない)で何となく「この子とはないな」と感じた相手というのはいる。

 

腸内細菌が食事の好みも左右する

 また食事自体も実は腸内細菌のために摂っているのではとの考えもあると言う。パプアニューギニア高地人はほとんど主食のサツマイモしか食べないという生活をしている。しかしそれにも関わらず男性は筋肉隆々である。彼らの腸内には窒素固定菌が存在し、アミノ酸を合成しているらしいことが分かったという。窒素固定菌はそもそも豆科などの根に存在し、窒素を固定してアミノ酸などの元を作る。その窒素固定菌がなぜか彼らの腸に入り込んで定着したのではという。しかし逆に考えると、窒素固定菌が腸内に定着したことでさつまいものみを食べるようになったのではないかという。実際にパンダはそもそも雑食なのに、腸内に笹を分解出来る細菌が存在することで、好んで笹を食べるようになっていると言う。つまりは人の嗜好までも腸内細菌が左右しているのではという話である。

 

腸内細菌の長い旅

 この腸内細菌はそもそも地球誕生の後に最初に生まれた生命であるという。地球環境が変化する中で好気性細菌と嫌気性細菌に分裂する。その嫌気性細菌が安息の地の一つとして見つけたのが体内であったというのである。腸内は外から酸素の侵入が防がれている上に、最初の好気性細菌が酸素を消費するので、その先は酸素の存在しない環境になるのだという。その上に腸内は自動的に栄養がやって来るわけなので、細菌にとっては最適な環境なのだという。

 ただ赤ん坊が産まれる時は無菌状態の中で育っている。その赤ん坊の体内にどうやって細菌が入り込むか。実は出産の際に産道で急激に乳酸菌濃度が高まることが知られているという。つまりは赤ん坊はそこを通るうちに自動的にそれらの菌を取り込むことになるのだという。このことがあるから子供は母親と類似した腸内細菌を持つという。また動物ではより積極的に食糞によって腸内細菌を子供に摂取させる行為が見られるという。

 では帝王切開の場合どうなるんだという私が感じたと同じ疑問を織田裕二氏も専門家にぶつけていたが、結局は環境に出てから何だかんだで体外から取り入れる(赤ん坊は確かに何でもかんでも口に入れる)ので3才ぐらいまでには大体腸内細菌は定まってしまうとのこと。海外では帝王切開の際に健康のために母親の便を与えることなども行われているという(聞いていると気分が悪くなりそうになったが)。

 

免疫系もコントロールする

 腸内細菌が免疫をコントロールするという話もあるという。病原性大腸菌などが侵入した時、腸内細菌が免疫系を刺激して排除するように仕向けるという。セグメント細菌が上皮細胞に情報を伝え、その結果として免疫系が刺激されて病原菌を攻撃するのだという。さらには腸内細菌が免疫の暴走を押さえる効果もあるという。と言うわけで、過度に清潔にしすぎることなどが原因となって免疫疾患の増加につながっているのではないかという考え方が出て来ている。

 とここまで来たところで、今回の内容は2回連続であるとのことが発表される。これはこの番組では初めての展開だ。

 

 人間は腸内細菌に支配されているのではという衝撃的な話だが、以前に脳は腸の息子という話があったことを考えると、その腸を腸内細菌が支配することで脳に影響を及ぼすという可能性もありそうな気がしてくる。

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 それに人間の体細胞数よりも腸内細菌の数の方が多いとなると、確かにこの身体は何で出来ているのかが分からなくなってくる。実は我々の身体は腸内細菌の乗り物に過ぎないのかもしれないなんて考え出すと、そもそも人間って何なんだという話に行き着いてしまう。以前にあった「自由な意志というのは本当に存在するのか」という話やらまで浮かんできて、いよいよわけが分からない。

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忙しい方のための今回の要点

・人間の腸内細菌は100兆、これは体細胞の37兆の3倍以上である。
・ショウジョウバエの研究で、同じ腸内細菌を持つ者同士が結ばれやすいという結果が出ており、腸内細菌が恋愛感情をも操作している可能性があるとしている。
・またパプアニューギニア高地人はほとんどサツマイモしか食べないのも関わらず、腸内に窒素固定菌が存在しているためにアミノ酸などが合成されて筋肉隆々であると言う。ただ逆に、窒素固定菌が存在するためにサツマイモのみを好んで食べるように誘導されているのではないかという考え方も存在する。
・腸内細菌は嫌気性細菌であり、これは地球の誕生後に初めて誕生した生物でもあるという。それが腸内は酸素が存在しない環境なので腸内に住み着いたのだという。
・赤ん坊は無菌状態で生育するが、誕生で産道を通る際に母親から細菌を受け継ぐという。なお帝王切開の子供のために、意図的に母親の便を与えるなどということも外国ではなされているという。
・また腸内細菌は自分達の環境を護るため、病原性大腸菌などが侵入してくると、免疫系を刺激して排除させるなど、免疫の制御も行っているという。


忙しくない方のためのどうでもよい点

・一昔前に人間は実は単にDNAの乗り物に過ぎないのではという本が話題になったことがありましたが、今回は腸内細菌の乗り物ですか。まあ確かに何も考えずに本能だけで生きているような輩もいるから、そういう奴は頭の中も菌が詰まってるのかもしれないが(笑)。

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