教養ドキュメントファンクラブ

自称「教養番組評論家」、公称「謎のサラリーマン」の鷺がツッコミを混じえつつ教養番組の内容について解説。かつてのニフティでの伝説(?)のHPが10年の雌伏を経て新装開店。

このブログでの取り扱い番組のリストは以下です。

番組リスト

7/22 BSプレミアム ダークサイドミステリー「変身!よみがえる人狼伝説~あなたの身近にひそむ野獣~」

 この番組の記事についてはここ2回ほど、多忙で手が回らなくて掲載してませんでした。見てはいたんですが、記事を書く時間がなくて・・・。私は自分で筆は早い方と思ってるんですが、さすがにこの手の記事書くのにはそれなりの時間を要するんで。

 と言うわけで前回、前々回を数行で要約すると。

 

7/8 ダークサイドミステリー「子どもたち400人に何が起きた?マクマーティン裁判」

 アメリカのマクマーティン保育園で、保護者が自分の子供が性的虐待を受けたと訴えたことから、子供たちから事情聴取したところ次々と証言が出て来て被害者は400人、園の関係者は続々と逮捕され、全米からは猛バッシングで園が放火されるどころか、その町自体が白眼視されてしまう事態にまで至ったという事件。

 しかし捜査が進むにつれて、子供たちの証言が次々と揺らいでいって信憑性が怪しくなり、しかも子供たちに対する聴取の様子を調べるとあからさまな誘導尋問などを行っていて真偽に疑いが生じ始める。長期に及んだ裁判の結果、多くの関係者は無罪となり、最後まで残った園長の孫は「無罪とも有罪とも判断が出来ない」という状況で裁判が終了してしまうという、誰もにとっても不幸な結論に終わってしまったという結果に。

 この過程で、人間の記憶とは固定されたものと考えられていたが、実際には何度もシナリオを刷り込まれることで偽の記憶として定着してしまうというようなことまで明らかになってきたので、証言について考える必要があるという話。

 

7/15 ダークサイドミステリー「"ヒトラーの予言者"謎の霊能力者ハヌッセンの野望」

 これは予知能力があるとして売り込んだ霊能力者エリック・ヤン・ハヌッセンの物語。彼は予知や透視(実際にはタネがある)能力でショーなどでもてはやされ、上流階級に取り入って巨万の富をなした。しかしさらに力を得るべく、ナチスの突撃隊幹部に取り入って(博打狂いで借金まみれの男に資金を融通したらしい)ナチスに接近、ヒトラーが首相になるなどの予言を大々的に自ら買収した新聞などで流して宣伝工作に貢献、諸外国などからは「ヒトラーの黒幕」などと言われていたという。

 しかし実際のところは確かにナチスにはある程度取り入ってはいたが、ヒトラーとは直接のパイプを作るところまでは至っておらず、ナチスの国会議事堂放火事件の陰謀を、国会議事堂が炎上するという予言を流すことで、実質的にリークしてしまったりなどの危うさがみられたこと、さらには彼が実はユダヤ人であることが暴かれてしまったことなどにより、完全に権力を掌握したナチスから危険視されて最後は暗殺されてしまうという話。

 なぜユダヤ人である彼がナチスに取り入ったのかということがあるが、彼自身はナチスは権力掌握のための人気取りとして反ユダヤを掲げているのであって、そこまで徹底して本気でユダヤ人絶滅に乗り出そうとするまで考えていなかったのではとしている。そして気がついた時には戻りようがなくなってしまっていたのだろうというお話。

 

人狼伝説のルーツ

 で、今回であるが、今回は「人狼」、いわゆるオオカミ男の話。ヨーロッパには実際に人狼が人間を襲ったという事件の記録が残っているという。1589年にベットブルクの町では子供がさらわれて斬殺されたり、森を歩いていた大人3人が殺害されるという事件が発生し、犯人は人狼であると考えられたという。そして猟犬を使って捜索したところオオカミが見つかったので追い詰めたら、そこに見つかったのは一人の男であり、彼は人狼と考えられて拷問の挙げ句に「自分が人狼である」と自白したという。悪魔の力でオオカミに変身するようになったのだという。そして1589年に見せしめとして処刑されたという。まあ今日的に見たら間違いなく冤罪であり、当時は社会の理不尽がこのような弱者にしわ寄せがいくことはよくある話とのこと。私もこれはどこぞの変態貴族による猟奇殺人の罪を着せられたと推測する。まあそんなクズ貴族はウィリアム・モリアーティにでも処分してもらうしかない。

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 人狼伝説自体は起源が古いという。文明発祥の頃から動物の姿をした人間という存在はよく記されており、ヨーロッパ全土にオオカミが棲息していた時代にはオオカミは人間に近い位置におり、ゼウスの怒りを買ってオオカミにされた王の伝説なども残っている。また北欧のヴァイキングにあるベルセルク(バーサーカー)が人狼のルーツという説もあるという(番組に登場した専門家はこの説には疑問を持っているようだが)。

 

歴史と共に変化する人狼像

 人がオオカミに変身したり戻ったりという話がハッキリと登場するのは12世紀前後だという。騎士がオオカミに変身したが、斧で足を切られて人間に戻ったなどのエピソードが記されているという。この時代は温暖な時代で人口が急増しており、そのために森の伐採が進んだので人がオオカミの領域に進出することになった時期だという。12世紀の末の物語には王に忠実な貴公子が実はオオカミで、それを知った妻に裏切られたことで人間に戻れなくなり、そのままの姿で王の忠実な下僕となり、妻への復讐の機会を待つという話があるとか。だからここでの人狼は必ずしも凶暴な敵でなく、人間としての理性を持っている存在であったという。

 それが14世紀以降になって気候が厳しくなってきた頃から、オオカミが人を襲う事件も発生するようになり、社会不安が増すと共に人狼は魔女と同様に社会から迫害を受けることになるという。残虐な事件が起こると犯人は人狼とされ、容疑者は拷問で自白させられ残虐な刑に処されたという。なおそこにはキリスト教の影響が大きく、人狼は悪魔の力で誕生したものとされたという。しかし悪魔が人狼を作り出したとしたら、万物は神が作ったという教えと矛盾することから、人狼は悪魔が人間に幻覚を見ている物だという説明がなされたり、それに対して「人間が鉄から鋼を作ったり、人工的な鉱石を作れるのだから、悪魔が人狼を作れることもあり得る」という反論がなされたりなど、現代の常識から考えるとアホらしい議論なんかも真面目になされていたとか。

 しかしその人狼も科学が進歩した啓蒙主義が広がると共に、迷信の一掃の過程で人狼も消えていったという。また社会的にも大規模な森林開発と共にオオカミの組織的駆除もなされ、オオカミは急激に数を減らす。その結果、ヨーロッパからオオカミは姿を消すことになる。しかし19世紀になってオオカミが完全に絶滅していたイギリスで人狼は文学の中で甦る。産業革命による自然の破壊に対する疑問が人狼の物語の形で登場したのだという。さらに連続猟奇殺人者が「自分は呪いをかけられてオオカミとなった」と主張する例が登場したという。狼化妄想症と言って自らがオオカミになったと妄想して凶暴性を発揮する妄想だとのことだが、この件に関しては私は単に犯人が精神異常による無罪を狙ったとしか思えん。なお2016年になって巨大な獣がシェパードを食っているのが目撃されたという事件があったが、その正体は不明とのこと。

 


 以上、人狼伝説についてだが、まあヴァンパイアと同じようなもので、土俗の伝説がキリスト教の価値観で歪み、合理主義の発達で否定されるが、後に創作の世界で再度盛り上がるというお約束パターンである。狼男はヴァンパイアと並んでモンスターの双璧であり、このまま「ときめきトゥナイト」のヒロインの両親であるし、ここにフランケンシュタインを加えると「怪物くん」のお供である。

 ちなみに過去においては実際に「オオカミ憑き」と言われる病気もあり、要するに精神錯乱であろう。日本ではこれらは「狐憑き」と言われた。精神錯乱が呪いとされたり、犯人が逃れるために犯行は呪いのせいだと弁明したりなどいろいろあったと推測される。

 

忙しい方のための今回の要点

・人狼伝説の発祥は明らかではないが、かなり昔から人がオオカミになるという類いの伝説はあるという。
・人がオオカミに変身したという話がハッキリと登場するのは12世紀頃。ヨーロッパが温暖で人口が急激に増加、森林の開発が進むことでオオカミと人が近くなったことが一因であるとする。なおこの頃の人狼は人間としての理性を持っている事例があるという。
・14世紀頃になるとヨーロッパが寒冷化して環境悪化、オオカミが人を襲う例も増えて人狼は敵対的存在となる。またキリスト教の影響で人狼は悪魔の手になるものとされ、魔女と共に、多くの者が人狼として処刑されることになった。
・科学が発展して啓蒙思想が広がると共に人狼伝説は迷信と共に一掃される。またヨーロッパの森林開発が進んでオオカミはヨーロッパから姿を消す。
・しかし19世紀、産業革命のイギリスで人狼は物語として復活する。背景には自然破壊に対する疑問なども見られるという。


忙しくない方のためのどうでもよい点

・ところで人狼を仕留めるのは銀の弾丸でないといけないなんて話もあったと思うが、その話の出所はどこだろうか? 物語から登場したモンスターは微妙に設定が食い違っていたりするから。

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