教養ドキュメントファンクラブ

自称「教養番組評論家」、公称「謎のサラリーマン」の鷺がツッコミを混じえつつ教養番組の内容について解説。かつてのニフティでの伝説(?)のHPが10年の雌伏を経て新装開店。

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番組リスト

8/1 サイエンスZERO「宇宙誕生から"1秒間"の謎に挑むニュートリノ科学の大実験」

宇宙創生の謎に迫る大実験

 日本が誇る素粒子研究施設であるスーパーカミオカンデを使用して、宇宙創生の謎に迫ろうという壮大な実験が行われた。それについて紹介する。

 その宇宙創生の謎とはズバリ「今、なぜ我々はこうして存在出来ているか」。と言うのは、そもそもビックバンでは大爆発と共に物質が生成したのであるが、それと同時に同量の反物質も生成している。物質と反物質が衝突すると光を発して消滅するので、この時点で同量の物質と反物質が生成したのなら、やがてそれらは対消滅して現在の宇宙には物質は残っていないはずである。これは物理学においての基本的な謎とされていた。これをニュートリノを超精密観測することで解明出来るというのである。

 ビッグバンでは現在の10億倍の物質が生まれたと考えられるが、その中の1の差が生まれることによって現在の物質が生き残ったと考えられ、その偏りにニュートリノが絡んでいるというのである。ニュートリノは飛行中に性質を変化させる(ニュートリノ振動)ことがこれまでの研究から分かっている。ニュートリノにはミューニュートリノ、タウニュートリノ、電子ニュートリノという3種の状態があるが、ニュートリノと反ニュートリノでこの周期に違いがあることで10億分の1の偏りが出来たのではないかというのである。

 この実験はT2K実験と言われ、東海村にある世界最大級の加速器施設J-PARCでニュートリノビームを生成し、これを300キロ離れたスーパーカミオカンデに撃ち出して測定するのだという。ニュートリノと反ニュートリノのビームを打ち出して測定したところ、スーパーカミオカンデで測定されたニュートリノの状態の割合が2.5%異なっており、これはニュートリノと反ニュートリノの振動パターンが違うということを証明した可能性があるのだという(目下とのところはおよそ95%の信頼度)。これはNatureの2020年10大発見にも上げられたという。

 

紆余曲折のあった研究

 この実験の開始時は実はニュートリノと反ニュートリノの違いを見出すと言うことが目的ではなかったという。そこには紆余曲折があるという。

 2010年にT2K実験が開始されるが、この時点ではミューニュートリノとタウニュートリノの間では頻繁な変化が起こることは分かっていたが、電子ニュートリノとの変化はまだ確認されていなかったという。そこでT2Kではミューニュートリノから電子ニュートリノに変化するのが1000の内の2~3と考え、それでも1ヶ月に1つほどは検出されるという条件で開始されたという。しかし実際にやってみるともっと高い頻度で電子ニュートリノが検出されて研究は急速に進んだという。

 しかしその最中に2011年3月11日の東日本大震災が発生する。J-PARCも加速器が変形して使用不能な状態になってしまう大打撃を受けた。競争の激しい分野だけに他国に出し抜かれる可能性もあることから、2011年以内での復旧という目標を掲げて突貫で復旧作業が行われ、研究者達の手作業によるズレの修正によって12月24日に奇跡の復旧を遂げたという。

 しかしその3ヶ月後、中国のグループから電子ニュートリノがミューニュートリノやタウニュートリノに変化する過程についての超高精度なデータが発表されたのだという。中国では原子炉から発生する大量の電子ニュートリノを用いてデータを測定したのだという。

 先を越されたと一時は消沈した研究者達であるが、結果としてはこの研究が次の研究への道筋をつけることになったという。加速器の性能を高めてビームの強度を3.5倍に強化し、そのことによってミューニュートリノから電子ニュートリノへの変化を観測(これは中国では出来なかった)、さらにはニュートリノと反ニュートリノの震動の違いを見出すということにつながったという。

 なおこの先に進むべく、スーパーカミオカンデの上を行くハイパーカミオカンデの建設が進んでいる。これが完成するとスーパーカミオカンデの100年分のデータを10年で取得可能であるといい、2027年に完成予定だという。これが完成したら、先のニュートリノと反ニュートリノの振動の違いについて確定出来るだろうとのこと。

 

 以上、日本が世界の最先端を疾走している素粒子科学の分野について。ノーベル賞受賞なども相次いでいる分野なので期待したいところですが、いささか我々の世界とは浮き世離れした感があるところが、疑問を持たれたりしやすい分野でもあります。実際に私の知っている某大学教授なども「あれだけ膨大な建設費をかけてノーベル賞が数個だったら割が合わない」などと言っており「他の分野にそれだけの予算を回してくれたらもっと他の研究が進む」と力説しておりました。まあその辺りは政治力なんかの絡みもありますので何とも言えないところですが。小柴さんのノーベル賞は彼の研究者としての能力と言うよりも、あの施設を建設する予算を国から引っ張れた政治力に与えられたものだなんてことも言ってました。まあやっかみも入ってるでしょうけど、そういうところも実際にあるのでしょう。

 そもそも日本は基礎研究の分野での貢献が少ないともいわれていたので、素粒子科学はその中で堂々と誇れる基礎研究分野ということになります。まあ私は先の先生と違って国から予算もらって仕事しているわけではないので、この分野では今後も順調な研究を期待したいところです。

 

忙しい方のための今回の要点

・スーパーカミオカンデとJ-PARCを組み合わせることで、宇宙創生の秘密に迫るT2K実験が行われた。
・ここで行われたのはニュートリノと反ニュートリノの性質の違いを解明すること。ビッグバンでは物質と同量の反物質が同時に生成したのだが、現在の宇宙ではほとんど物質しか残っていない。これは100億分の1の違いが物質と反物質に現れたことで、その発生にニュートリノと反ニュートリノの性質の違いが影響していると考えられている。
・そこでJ-PARCからニュートリノビームと反ニュートリノビームを300キロ離れたカミオカンデに向けて撃ち出し、そこで検出されるニュートリノを観測した。
・ニュートリノは3種類の状態を変化するが、その変化の周期がニュートリノと反ニュートリノで違うようであることが発見され、これはNatureの2020年の10大発見にも上げられた。
・現在、さらに10倍の能力を持つハイパーカミオカンデの建設が進んでおり、先の発見が完全に確定される予定である。


忙しくない方のためのどうでもよい点

・正直なところ、素粒子論と宇宙論はあまりに浮き世離れしており、私の頭もついていけない部分が多いです。最近はこの世界の進展が激しく、クォークだのダークマターだのと言われると正直私にはまだ良く分かってません。まあ世の中にはすごいことを考える人もいるもんだというのが本音。

・私信になりますが、「徒然草枕」の方に記載したように、私が腰痛を起こして寝込んでいたために、ブログの更新がしばらく停止しておりました。これからリハビリを兼ねてボチボチと更新を再開する予定なのでお許しください。

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