教養ドキュメントファンクラブ

自称「教養番組評論家」、公称「謎のサラリーマン」の鷺がツッコミを混じえつつ教養番組の内容について解説。かつてのニフティでの伝説(?)のHPが10年の雌伏を経て新装開店。

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番組リスト

8/13 テレ東系 ガイアの夜明け「ANA 大逆風に立ち向かう」

コロナ禍で飛べなくなったウミガメ

 コロナ禍で大苦戦する企業が多い中で、特に強烈な逆風を受けているのがANAである。旅客の落ち込みは激しく、生き残りのために様々なコスト削減に挑んでいるそんなANAの現状を紹介。

 ANAのホノルル便は以前は大型機中心だったのを中型機に切り替えたにもかかわらず、座席はガラガラだという。2019年には150万人が訪れており、ANAはそこに最大の機体であるエアバスA380を導入した。ウミガメの絵を描きフライングホヌ(空飛ぶウミガメ)と名付けられた機体は高い注目を集めた。週に多い時は10便飛んだが、520席の座席はほぼ満席が続いた。しかし去年3月から運休が続いている。そこで9800円で機内を体験して、機内食を食べる企画を募集した。その結果、A380でホノルルに行きたいという声が多かったことから、再びの就航を目論んでいる。

 

人件費削減のために社員を異業種に派遣

 オリンピックの開催に合わせて採用を増やしていたANAだが、コロナの流行でそれが徒となってしまい、2020年に4000億円以上の赤字に転落する。海外の航空会社もタイのように倒産するところやら、ルフトハンザのように大幅な人員削減を打ち出すところなど大苦戦している。しかしアメリカではワクチン接種が進んだことから国内需要が増加しており、ユナイテッドでは小型機270機の購入を決定するなど攻めに出ているという。

 ANAでは現在、貨物輸送の売り上げが大幅に伸びている。旅客需要が壊滅的な中、この貨物輸送が稼ぎ頭となっているという。輸送荷物にはワクチンなどもあるという。

 一方、コスト低減策として社員の出向を勧めている。期限を切って社員を他の企業に派遣し、期限が来ると再びANAに呼び戻すという試みである。番組ではこれでホテルに出向に行った女性に密着している。地上業務だった彼女は、戸惑いながらもホテルの仕事を学んでいき、見事にそれに適応している。いずれANAに戻った時にはホテルで学んだ接客ノウハウを活かしたいという。ANAからはあらゆる異業種に人材を派遣しており、その中にはテレビ東京に派遣された社員もおり、広報などを担当しているという。また最大2年間の休職を出来るという制度も導入したという。これを選んで実家に戻ると介護の資格を取りたいという客室乗務員もいる。

 

さらに機体を売却して費用を削減するが

 さらにはコスト削減のためにANAでは機体数の削減にも取り組んでいる。ANAでは35機が売却されることになった。しかし世界的に航空需要が縮小している中での売却交渉は難航していた。一年前に比べると機体の価格は半額にまで落ち込んでいるという。売却の担当者は目標の達成のために、機体丸ごとではなくてバラしてパーツで売却するという苦肉の策でどうにか目標を達成することに成功、担当者もホッと胸をなで下ろす。

 そしてANAではコロナに負けないということで、再びフライングホヌを飛ばすことを計画する。社長の許可も得て運行が決定されるが、状況は想像以上に厳しかった。各旅行会社も新規路線の扱いはやめているとのことで販売は低迷。アメリカへの入国はワクチン接種の証明などがあれば可能なのだが、帰国後に14日間の自主隔離が必要というのが一番のネックになっているという。結局は搭乗率は目標の3割には届かない145人と空席が目立つ状態であったが、ANAとしては再起を期している。

 

 とのことなのだが、このフライングホヌが飛行したのが8月9日(オリンピックの閉幕に合わせたようだ)。その後の更なる感染大爆発を考えると、ウミガメを飛ばしている状況ではないだろう。残念ながらANAの再起への期待はまたも大きく裏切られたことになったであろうと考えられる。

 何やら最近はANAが人材派遣業になった感があるが、そういうことが出来るのはANAが高レベルの人材を多く抱えていると言うことだろう。実際に普通の会社は社員を異業種にいきなり派遣したところで、使い物にならないからと引き取り手がないところも少なくないだろう。同業種だと向こうもキツいのは同じ上に機密の漏洩などの問題が起こる可能性があるから不可能だし。まあANAだから取れる手とも言える。また2年間休職を取れるようにするから、その間自由にしろ(ただし給料は出ない)と言われた場合、通常の会社員だといきなり路頭に迷って干上がることになる。

 ただ問題はこの耐久戦がいつまで続くかである。ANAの社長は今年度はどうにかして黒字をと言っていたが、残念ながら現在のコロナの感染爆発状況では今年いっぱいは旅客需要は壊滅状態になることが予測される。ワクチン接種の拡大が唯一の望みだろうが、それも政府がオリンピックを優先してラムダ株の侵入を放置していたらしいことまでが明らかとなってきて、今後の動向が非常に不透明になってきている。政府の無能さが多くの企業や国民の息の根を止めかねない状況となってきている。

 

忙しい方のための今回の要点

・コロナで旅客需要が壊滅状態のANAでは現在の稼ぎ頭は貨物輸送となっている。
・一方、固定費削減のために異業種へ期限付きで人材を派遣したり、2年間休職を出来る制度などを導入して人件費削減に取り組んでいる。
・さらに機体数を35機削減することを決定。コロナ禍で機体価格が昨年の半分にまで低下する中で、パーツにしてのばら売りで何とか売り上げ目標を達成することとなった。
・オリンピック終了に合わせて、ANAでは巨大機A380を再び飛ばしたが、残念ながら乗客数は目標の3割に届かなかった。


忙しくない方のためのどうでもよい点

・あのオリンピックをやらずに、水際対策を強化した上でしっかりと移動制限などをしていたら今日の状況も全く違ったでしょうが、とにかくやるべきことはやらずに、やるべきでないことばかりする政府の元ではコロナの収束は困難。そろそろ「いつまで我慢すれば良いんだ」という声が産業界からも大きくなってきている。

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