教養ドキュメントファンクラブ

自称「教養番組評論家」、公称「謎のサラリーマン」の鷺がツッコミを混じえつつ教養番組の内容について解説。かつてのニフティでの伝説(?)のHPが10年の雌伏を経て新装開店。

このブログでの取り扱い番組のリストは以下です。

番組リスト

9/2 BSプレミアム ダークサイドミステリー「なぜ人は陰謀論にハマるのか? イルミナティとアメリカ」

議会襲撃を起こしたQアノン

 ネット時代になって陰謀論にはまる輩が増えてきたと言われる。特に有名なのがアメリカのQアノン。民主党のエリートが人身売買組織などと結託して悪事をしており、それと戦っている正義の味方がトランプ前大統領という荒唐無稽な妄想である。恐らくトランプと利権で結びついた誰かが、アホを唆してトランプの信者にしようと仕掛けたことは間違いないがその詳細は不明で、しかも信者が議会襲撃をしでかしてしまったりなどと、新たな社会不安にさえつながっている

 陰謀論それ自体はお約束パターンがあり、非常に馬鹿げているものであるが、それにも関わらず決してアホではない一定以上の常識をわきまえた者でさえ、気をつけないとハマってしまうことがあるという。

 

911に見る陰謀論発生パターン

 陰謀論が端的に現れた1つの例が911の同時多発テロだという。そこにハマる人の心の動きにはパターンがあるという。まず1.社会に不思議・理不尽なことが起きるビルの崩壊を伴う大規模なテロに人は不安と理不尽さを強烈に感じて動揺する。そして2.「定説」に対して疑問を感じる。なぜあのような巨大ビルが呆気なく崩壊したかに人は疑問を感じる。それに対しては正式な報告書が出て、火災の高熱による鉄骨の強度低下によって重量に耐えれずに上から崩れたという説明がなされる。これで一旦は納得するのだが、そこに陰謀論を信じる者が揺さぶりをかけてくるのだという。「あの崩れ方は不自然で陰謀だ」と。そして爆弾によるビルの制御解体に違いないと言い出し、様々な「証拠」がネットにあると言い始める。そしてメディアは圧力を受けており、政府の陰謀だと言い出す。ここで3.「巨大な組織の陰謀」で筋が通る。つまりどんな無理な説明でも「政府の陰謀だからいくらでも捏造できる」と言えば、表向きの辻褄は合わせることが可能なのだ。そして4.同じような怪しい情報が集まる。ここで証拠を調べようとネット検索でもしようものなら、陰謀論を裏付けるインチキな証拠がいくらでももっともらしくでてくるので、ドンドンと深みにはまると言うわけである。

 このような陰謀論が複雑に絡み合って手のつけられない状態になったのが超陰謀論だという。これは人間の不安がもたらすものであるという。何か不安が起こった時には人間は説明を求めるものであるから「私はこれの理由を知っている」と言われると安心感を得てしまうのだという。先の4段階で言うと、通常の人は2と3の間でループするのごく普通なのだが、これが4に行ってしまって、4と3の間でループし始めるとドンドンと現実から乖離してしまうのだという。

 

アメリカ建国時からあった陰謀論

 アメリカで陰謀論が多いのはそもそもキリスト教自体が陰謀論(世界の終末がやってくると2000年前から言い続けている)だからだという。実際にアメリカ開国の頃から陰謀論はあるという。アメリカ誕生時、イルミナティ陰謀論というものが発生したという。このイルミナティというものが世界の政治・経済・メディアに潜り込んで世界征服を企てているというのである。

 建国当初のアメリカでイルミナティ陰謀論を唱え続けたのが地理学者で牧師のジェディディア・モールスだという。当時のアメリカは合衆国憲法が生成した際に、13州で大きな対立が起こっていた。それは13州を憲法で束ねて中央集権にする連邦派と13州の独立した自治を尊重する反連邦派だという。アメリカでは反連邦派の暴動が各地で起こり、連邦派は追い詰められていたという。そうした中で連邦派のモールスは「アメリカが陰謀でつぶされる」と強度の不安を抱いたのだという。そして教会で「異教徒や無神論者の思想でアメリカの憲法が危険になっている。我々の中に紛れ込んだ敵に社会がつぶされようとしている。」と訴えた。そしてその敵こそがイルミナティだというのである。イルミナティはドイツで結成された組織で、信仰や君主への忠誠でなく、平等で合理的な世を作るという啓蒙思想の普及を目指した組織だったという。しかしこれは当時の王制国家にとっては危険思想だった。フランス革命でもイルミナティが黒幕と囁かれていたという。そこでモールスはこのイルミナティがアメリカを転覆させようとしていると考えたのだという。

 しかし実はイルミナティはモールスの陰謀論の6年前に、啓蒙思想の拡大を恐れるバイエルン政府によって逮捕・解散させられたという。モールスはイルミナティ陰謀論の証拠を求められても「あまりに多くて一つ一つ説明できない。誰もが分かりきっていることだ。」という滅茶苦茶な屁理屈だったらしい。保守的で変化を恐れるモールスは古びた自分の価値観に固執したのだろうという。結局のところイルミナティ暗躍の証拠は皆無で、モールスの陰謀論は次第に消えていったという。しかしこの後もアメリカでは様々な陰謀論が飛び出すことになる。

 

メディアやネットの普及で広がる陰謀論

 テレビなどのメディアが登場すると、それまでの一部の知識層が唱えていた陰謀論から、陰謀論の主役は市民になっていく。そしてそれが爆発するのがケネディ暗殺。非常に理不尽で疑問の多い事件にあらゆる陰謀論が百出することになった。そして1975年に一般市民が撮影したザプルーダー・フィルムが登場したことで、陰謀論にさらに火がつくことになったという。結局このフィルムは何も真相を語っているわけではないが、あらゆる人がこのフィルムから様々な「真実」を読み取ってしまったのだという。多くの人々が「政府の陰謀」を疑ったという。また実際にこの時期、トンキン湾事件でのアメリカ軍の攻撃捏造とか、ウォーターゲート事件などの「本当の政府の陰謀」の事件があったことが余計にそれに拍車をかけることになったという。そして政府の陰謀は「アポロ月面着陸陰謀論」「エリア51 宇宙人・UFO隠蔽陰謀論」「HAARP電磁波兵器陰謀論」(HAARPが異常気象を引き起こす電磁波兵器というもの)「ハトボット陰謀論」(アメリカの鳩は順次CIAが開発したハト型ドローンにすり替えられて国民の監視に使用されているというもの)など荒唐無稽な陰謀論が目白押しらしい。こういう陰謀論の噴出は政府の不透明性が引き金になっているという。

 そして21世紀になるとネットを舞台にしてあらゆる連中が陰謀論を発信することになってしまう。そして互いに引用しあいする内に「真実」のようにみんなが信じてしまうことになっているという。

 

事件に結びついたピザゲート陰謀論にQアノン

 2016年に登場したのが「ピザゲート」陰謀論だという。これはヒラリーの選挙責任者のジョン・ホデスタのメールが流出したことがきっかけだという。その中にはピザが登場する文章がいくつかあったが、それを見た誰かが流出メールの中に隠語の可能性のあるワードがあり、ホットドック=少年、ピザ=少女、チーズ=幼女と置き換えろというものだという。そうすれば当然ながらメールの内容は人身売買などに関するものになってしまうと言うアホなものだが、多くがこれに騒然としたらしい。まあ普通に考えたら分かるが、これらの隠語とされるものをすべてアニメ関係用語に置き換えれば、ヒラリーはアニオタだったという話になるというレベルである。

 そこからさらに2008年のオバマの後援者の「コメット・ピンポンで政治資金調達パーティーをする」というメールまで、コメット・ピンポンがピザレストランだったと言うことで児童売買の拠点だというわけの分からん陰謀論がネットに広がり、挙げ句が地下室に児童が監禁されているとコメット・ピンポン襲撃事件まで発生したという。しかしその店にはさらわれた児童どころか、そもそも地下室さえなかったというお粗末である。アホに付ける薬はない。

 そして2017年に登場したのがQなる人物だが、彼は国家機密に対するアクセスを持つとして、あらゆる陰謀論をばらまいたらしい。その語り口は断定ではなく疑問を投げかけるタイプとのことで、それに嵌められるやつがワンサカと出た結果が、例のQアノンの成立だとか。しかしその手の語り口って「典型的なインチキ予言者の手口」なんだが。そしてこのQがトランプがディープスロートと戦う正義の味方とぶち上げたらしい。どうもこの辺りでこの人物の正体が見える気がするが。なお現在はこれに加えてフェイクニュースの問題まで発生している。

 なお陰謀論に嵌まった者を救うには、頭から否定するのではなく、認めて理解した上で自ら解決する方向に促す必要があるとのことだが、やっぱり昔から洗脳を特のは困難なようである。そう言えばツボ売り連中の洗脳事件なんかもあったな。

 

 

 もうアホに付ける薬はないという印象だが、気をつけないとネットを利用していると自分が求める情報ばかりに接することになるので、誰でも嵌まりうる可能性があることは注意した方が良い。だから私も未確認情報に接する時には注意はしているつもりだが。それでも万全と言えるかどうかは分からない。

 陰謀論については最初から馬鹿げているが、私がQアノンの陰謀論が一番根本的に馬鹿げていると感じるのは、ディープスロートと戦う正義の味方がトランプというところ。むしろトランプこそがその陰謀の黒幕というのならまだ理解内だが。どういう思考回路をしていたらトランプが正義の味方になり得るとなど思ってしまうのか。現実の判断能力以前に、人を見る目が根本的にないことに呆れる。そう言えば別名Jアノンと言われる日本の阿呆の中でも、日本を守るために戦っているのが安倍晋三なんていう「寝言は寝て言え!」と言いたくなる妄言があったな。明らかに誰かが特定の意図を持って仕掛けていることが透けてくる。

 

忙しい方のための今回の要点

・アメリカでは現在Qアノンと呼ばれる陰謀論が問題となっており、それの信者が議会襲撃事件まで起こした。
・アメリカと陰謀論の関わりは深く、建国の頃からイルミナティがアメリカを転覆させようとしているというものがあったという。背景には当時の連邦派と反連邦派の対立があった。
・陰謀論は不条理な事件が起こった時、それの説明を求めようとする心理で発生するという。政府や巨大な組織の陰謀ということしたら大抵のことが説明を付けられて納得できるからというところがある。
・アメリカではメディアの発展と共に陰謀論は市民に広がるようになり、ケネディ暗殺からUFOにまつわるものまで様々な陰謀論がある。
・2016年ではコメット・ピンポンというピザ屋が人身売買の拠点というデマが駆け回り、襲撃事件まで発生してしまっている。
・2017年に登場したのがQという情報提供者を名乗る者による陰謀論で、これの信者がQアノンとなった。


忙しくない方のためのどうでもよい点

もう馬鹿らしくて何も言う気にならないというところだが、人間は賢い者には限界があるが、アホは底無しというのが実態。さらに言えば聖人君子にも限界はあるが、邪悪なる者はやはり底無しという事実が問題なのである。

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