教養ドキュメントファンクラブ

自称「教養番組評論家」、公称「謎のサラリーマン」の鷺がツッコミを混じえつつ教養番組の内容について解説。かつてのニフティでの伝説(?)のHPが10年の雌伏を経て新装開店。

このブログでの取り扱い番組のリストは以下です。

番組リスト

10/13 NHK 歴史探偵「龍馬と綱吉の真実」

坂本龍馬は薩長同盟や大政奉還にほとんど関与していない?

 歴史に関しては最近になって新しい説や解釈が出てきて、従来の考え方が覆されることがよくある。それに伴って教科書の記述なんかも変わったりするんだが、そのような象徴として坂本龍馬と徳川綱吉が登場している。

 まず坂本龍馬だが、薩長同盟を裏で画策し、大政奉還も進言、幕末の大変革に裏で活躍しながら、若くして暗殺されてしまった大人物というのが従来の解釈である。しかし最近は「教科書から省く」という意見もあってそれが話題になったという。そもそもなぜそんな議論が起きたか。

 結論から言うと、実は龍馬は上の二つに対してさして関与していなかったのではということが明らかになってきたからである。ます薩長同盟については薩長同盟の盟約覚え書きなる書の裏に龍馬の裏書きがあったことから、薩長同盟を龍馬が仕切ったとされていたのだが、この書の内容が長州からの要望ばかりで、本当に同盟のものかという疑問が出てきたのだという。しかもこの書は龍馬でなく、木戸孝允がまとめたものだという。実際には小松帯刀などが動いており、この前に薩長同盟は成立していたという話である。

 また大政奉還については龍馬の船中八策から出ているというのだが、その船中八策の内容が出ているのが大政奉還の後の資料ばかりだという。その結果、船中八策はフィクションだという説も出て来たという。土佐の活躍をアピールするために、龍馬の小説を書いた土佐出身の坂崎紫瀾が捏造したというのである。

 どうも坂本龍馬は過大に評価されているのではというのは私も最初から感じていたので、そりゃそうだろうなというのが本音。坂本龍馬が大活躍のイメージは多分に司馬遼太郎によって作られたというのが私の考え。ただこの番組によると、どうもそれ以前から龍馬上げの捏造はあったっぽい。確かに先進的な考えを持った人物であっただろうが、あの時代の中でどこまで活躍したのかは疑問がある。まあ龍馬に限らず、幕末の混乱の中では明らかに過大評価されている人物は少なくないが、多分その割を食って正当に評価されていない人物も多数いるだろうと思われる。

 

 

徳川綱吉は優れた将軍だった

 次は徳川五代将軍の綱吉。従来は「生類憐れみの令」という人間よりも犬を大事にするトンチンカンな法律を施行して社会を大混乱させたアホ将軍という評価であったが、今日では生類憐れみの令は進んだ考えを含んだ先進的な取り組みで、日本の体制の変革に大きな役割を果たした人物として再評価されているという話。

 もっともこの考え自体は最近はよく言われていることで綱吉再評価の機運は高まっており、この手のテレビ番組でも「生類憐れみの令の本当の目的」なんて取り上げ方は増えている。

 確かに生類憐れみの令は戦国の殺伐とした気風を刷新し、弱者保護の社会福祉の観念を取り入れたという先進的なものであったという側面があるのは事実だが、ただその方法論がおかしくて、要は人間を大事にしましょうだけを言っておけばよいのに、それが動物までに拡大されて、その挙げ句に野犬の保護に莫大な費用を投入した挙げ句に幕府の財政を傾けさせたというのは事実である。

 というわけで、徳川綱吉に関しては「確かにそういう側面はあったが、方法論がおかしく、結果として決して有能な将軍とは言えない」というのが私の評価です。どうも綱吉は理想論が先行する夢想家タイプの人物で、現実と理想がズレた時にその折り合いをつける柔軟性に欠けたと考えられるので、結果としては「トップとしての器量でない」と私は断定します。良い補佐役がいればまた変わったのでしょうが、就任時に老中と揉めたことが尾を引いて、結局は独断専行になっていたようだから、それがあんな極端な政策ばかりになった理由でしょう。結局は「やっぱり独裁って無理がある」ってことでもあるんですが。

 

 

忙しい方のための今回の要点

・薩長同盟を締結させ、大政奉還にも関与したとされていた坂本龍馬であるが、近年の研究では実は薩長同盟に大政奉還にもあまり深く関与していないのではと言われている。
・一方の徳川綱吉の生類憐れみの令は、本来弱者保護の社会福祉の概念を取り入れた実に先進的なものであり、戦国の殺伐とした気風を改めて日本の社会を変革した重要な政策であったと再評価されてきているという。


忙しくない方のためのどうでもよい点

・まあ歴史の人物の評価なんて、新資料の登場で一変することがありますし、時代が変わることによって変化もします。最近は聖徳太子非実在説とか、大化の改新否定説とか、かつてはとんでも扱いされていた説もかなり現実味を帯びてきたせいで歴史解釈が変わってますから。
・歴史が変わったと言えば、例のゴッドハンド事件は日本の古代史を激変させる影響があり、教科書もその影響を受けたと言います。こういうことまであるのだから歴史は難しい。

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