教養ドキュメントファンクラブ

自称「教養番組評論家」、公称「謎のサラリーマン」の鷺がツッコミを混じえつつ教養番組の内容について解説。かつてのニフティでの伝説(?)のHPが10年の雌伏を経て新装開店。

このブログでの取り扱い番組のリストは以下です。

番組リスト

11/31 サイエンスZERO「脱炭素のトップランナー"二酸化炭素回収技術"大集合」

二酸化炭素を封じ込める技術

 温室効果ガスの排出が世界的問題となっており、COP21では各国が対応に迫られることになった。日本も温室効果ガスの2030年に46%削減を打ち出した。しかしそれを実現するには新しい技術が必要となっている。その鍵の一つとされているのが、二酸化炭素の回収及び貯留である。

 北海道の苫小牧にある施設は、二酸化炭素を海の底深くに埋めようというものである。これはCCSと呼ばれる二酸化炭素を地中に貯留する方法である。製油所から排出される二酸化炭素を含むガスからアミン溶液で二酸化炭素を分離・回収し、これに圧力をかけて地下1000メートルから3000メートルの2つの層に送り込むというものである。この辺りの地層は二酸化炭素を大量に含める貯留層とその上の蓋になる遮蔽層が存在しているのだという。操業開始3年半で目標となる30万トンの貯留を達成したという。

 現在、世界中で二酸化炭素は年間335億トン排出されており、日本は10.8億トンで世界で5番目に排出が多いという。と言うわけで先ほどの30万トンは日本の年間排出量の3600分の1に過ぎないことになる。排出の多いのは発電所が全体の1/3以上で、後は工場など産業部門、自動車などの運輸部門が続く。

 

 

大気中の二酸化炭素を資源化するためのDAC技術

 二酸化炭素を積極的に減らすために、先ほどのCCSのように排出施設からガスを集めるのでなく、DACという大気中から直接に二酸化炭素を回収するシステムの開発も進んでいる。ただこの場合問題となるのは、大気中の濃度の低い二酸化炭素をいかにしてエネルギーを浪費せずに回収するかである。

 アイスランドではすでに世界最大規模のDAC施設の稼働が始まったという。回収した二酸化炭素は地中に排出して、それはマグネシウムなどと反応して岩石となる。この会社は2025年までには地球全体の排出される二酸化炭素の1%の回収を目指している。

 日本でDAC装置を開発したのは、21才の若き発明家・村木風海氏。アルカリ性水溶液で空気中の二酸化炭素を回収するのだという。彼は小学4年から温暖化の研究を始め、高校2年で装置を開発、現在は東京大学に在籍しながら自ら会社を立ち上げて開発を進めているという。装置はスーツケース大なので、どこでも手軽に運用できることを売りにしている。

 当然ながら政府も大規模プロジェクトを推進している。NEDOの山田宏之氏によると、空気中の二酸化炭素を回収して資源化するムーンショット・プロジェクトというのが開始されているという。いかに効率よく二酸化炭素を回収するかが鍵となっている。

 

 

二酸化炭素回収の最新技術

 まずは地球環境産業技術研究機構で研究されてるのは新しいアミンとハニカムフィルターを組み合わせるもの。現在のアミンは二酸化炭素を排出させるのに100℃以上の温度が必要であるが、60℃で二酸化炭素を排出できる新しいアミンを開発したという。このアミンをハニカム構造のフィルターに塗布することで、二酸化炭素の回収のコストを大幅に減らすのだという。

 次は九州大学の藤川茂紀教授が開発したという超薄膜を利用する二酸化炭素回収法。この膜は厚さ34ナノメートルと食品ラップの1/300の厚さだという。シリコンゴムを主成分としているが、二酸化炭素と親和性の高い膜にすることで、二酸化炭素が膜内に入り込んで通過することが出来るのだという。膜を薄くすることで効率を上げているのだという。こうして回収した二酸化炭素は変換ユニットを通してエタノールやエチレンを作ることで資源化できるのだという。

 さらには再生コンクリートに二酸化炭素を封じ込めるという研究もなされている。コンクリートの瓦礫を細かく砕き、これを水に溶かして二酸化炭素を吹き込むと炭酸水素カルシウム水溶液になるので、これをコンクリートの粒とまぜて加熱すると、炭酸カルシウムの結晶が粒を固めて建築材料として使用できるのだという。これを利用すれば、現在かなりの二酸化炭素を排出しているセメントの製造を抑えられる効果もあるという。

 

 

 以上、二酸化炭素を封じ込める技術について。結局はどの技術にしても効率とコストが問題になるわけである。コジルリも言っていたが、二酸化炭素を回収するために二酸化炭素を排出してしまったら本末転倒なので、エネルギー効率が非常に重要になるわけである。

 目下はアミンを使用する方法が本命なんだが、これは意外に効率が悪い。だからその効率を向上させるために世界中の研究者が悪戦苦闘中である。ただ一つ気になったのは、二酸化炭素の地層処分だが、地震かなんかで地面に亀裂が入った途端に、地中から二酸化炭素が吹き上げてくるということはないんだろうか?

 それと番組を見ていて1つ気になったのは、二酸化炭素のゆるキャラみたいなのがずっとマークのように出ていたが、あれが水のような屈曲分子になっていたこと。二酸化炭素は直線分子なので、ああいうシルエットにはならないんだが・・・。やっぱり化学屋としてはそういうところを気にしてしまう。

f:id:ksagi:20211202231659j:plain

番組に登場した謎?のCO2キャラ

 

 

忙しい方のための今回の要点

・温室効果ガス削減の一つとして、二酸化炭素の回収技術が注目されいる。
・二酸化炭素排出施設から排気ガスを回収して地層処分などをするCCSに加えて、最近は大気中から二酸化炭素を回収するDACの開発が進んでいる。
・重要なのはいかに二酸化炭素を効率よく回収するか。そのために新しいアミン溶液を開発したり、超薄膜を使って二酸化炭素を分離したりなどの技術の開発が進んでいる。
・また二酸化炭素をコンクリートに封じ込めて建材とする技術開発なども進んでおり、これは二酸化炭素を大量に出すセメント製造を減らせる可能性もある。


忙しくない方のためのどうでもよい点

・あの二酸化炭素のキャラクター、おかしいと言えば屈曲分子であるだけでなく、CとOの大きさもおかしいんです。CとOの大きさはほぼ同じぐらいです。屈曲分子の上に中心原子があれだけ大きいと言えば、明らかにH2Oなんですよね。また化学の世界では酸素分子は赤色で書くことが多いし。誰かキャラを作った奴が根本的に間違えたのではないかという気がしてならない。

 

f:id:ksagi:20211202224937j:plain

左がCO2、右がH2O

次回のサイエンスZERO

tv.ksagi.work

前回のサイエンスZERO

tv.ksagi.work