教養ドキュメントファンクラブ

自称「教養番組評論家」、公称「謎のサラリーマン」の鷺がツッコミを混じえつつ教養番組の内容について解説。かつてのニフティでの伝説(?)のHPが10年の雌伏を経て新装開店。

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番組リスト

12/12 サイエンスZERO「祝!ノーベル賞 真鍋淑郎さん 物理学賞の真髄に迫る!」

気象シミュレーションの基礎を開発した真鍋氏

 今回ノーベル賞を受賞した真鍋淑郎氏は気候シミュレーションの基礎を築いたといわれているが、現在の気候シミュレーターは最新鋭の大型コンピュータを使用して膨大な計算を実施しているという。地球表面を150キロのメッシュに分割して、大気は81層、海は63層に分割して風向きや海流、気温などを計算するのだとか。さらに最新の計算では植物の反射率からプランクトンの季節変動まで加えているとのことで、こうやって二酸化炭素濃度の変動を計算するのだという。

 ところで真鍋氏は1950年代に東京大学で学んでいたのだが、その頃は気象観測はほとんど手作業だった時代。しかし真鍋氏はそのデータを元に気象分析した論文を発表したのだという。その論文がアメリカ気象局で注目されて、真鍋氏はアメリカでコンピュータを使用したシミュレーションを開始したという。もっとも当時の大型コンピュータは現在の関数電卓レベルの能力しか無かったので、そのシミュレーションは今とはまるでレベルの違うものだったという。

 真鍋氏は大気を一本の柱として考え、そこに太陽からのエネルギーと地面からの反射や対流などを考えて気温の分布を計算したのだという。しかしこの簡単なシミュレーションで実際の測定データを再現できたとのこと。そこでさらに二酸化炭素濃度などを加えて計算を実行したところ、大気中の二酸化炭素が2倍になると2.36℃気温が上昇するという結果を得られたという。これが地球温暖化を初めて具体的に示した例となった。ちなみに最新の予測値でも温度上昇が3℃とされているので、真鍋氏はモデルの単純化が天才的であり、本質を捉えているということが覗える。またそもそも真鍋氏は最初から温室効果のシミュレーションをしようとしていたわけではないというのもポイントである。その後、さらに海を取り入れて計算を実施して、海が大気を温めることもシミュレーションで示したという。

 

 

複雑系を数式で表現する

 真鍋氏と一緒にノーベル物理学賞を受賞したハッセルマン博士は、日々の気象の変化を長期的な気候変動の中にいかに組み込むかを研究したという。その結果、確率の式を用いて変化のランダムさを取り込んで、長期の変化を見つけることが出来るようにしたのだという。さらに気温上昇の原因を識別する方法を見出し、人間の活動が気温上昇に影響を与えていることを証明したとのことである。

 もう一人のパリージ博士は、今までとは少し毛色が変わり、スピングラスというものの研究で受賞している。スピングラスとは、磁石にならない金属(銅など)に磁石になる金属(鉄など)を混ぜてスピンの方向がランダムに固まった状態のことだという。この鉄原子のスピンはランダムであるのだが、安定な状態が存在するのでそこに法則性を見つけるということに取り組み、これを数学的に解くことに成功したという。これは簡単にいうと、曖昧なランダムなものを数式で解くことが出来るようにしたということで、この指揮は脳の画像認識の仕方などにも数式として取り込めるとのことである。

 と言うわけで3人のノーベル賞受賞理由は「複雑系の理解への画期的な貢献」とのことである。法則性などなさそうな世界を解明することに取り組んだということのようだ。確かに気候変動などは関与する要素が多すぎてなかなか数式化が難しいところであるが、そういうシミュレーションが出来るようになったということか。

 

 

忙しい方のための今回の要点

・真鍋氏は気候変動シミュレーションの基礎を築いたと言われているが、当初は極めて単純なモデルで高度に伴う気温の変化のシミュレーションを実施した。
・そこに二酸化炭素の変化を取り込んだところ、地表で気温が2.36℃上昇することを推算し、それが温室効果の最初の証明となった。今日の計算でも3℃という数字が出ているので、真鍋氏のシミュレーションが本質を突いていたことが分かる。
・同時にノーベル物理学賞を受賞したハッセルマン博士は、日々の気象のランダムな変化を、長期の気候変動に取り込むための数式を見出した。
・パリージ博士は、ランダムなスピングラスのスピンの状態を確率の式で表すことに成功した。
・三人の受賞理由は「複雑系の理解への画期的な貢献」となっている。

 

忙しくない方のためのどうでもよい点

真鍋氏の受賞理由が温暖化効果を予測したということでないことは初めて知った。そういう結果よりも、そういうシミュレーションを可能にする方法を開発したということに対しての受賞だったのか。確かにそういう意味で物理学賞というのは理解できる。

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