前回は真鍋氏の物理学賞だったので、今回は医学・生理学賞と化学賞の内容を紹介しようという内容。
イオンチャンネルについての発見でノーベル医学・生理学賞
まずは医学・生理学賞だが、これは受賞者はジュリアス博士とパタプティアン博士。受賞理由は「温度と触覚の受容体の発見」となっている。
感覚を司るのは神経細胞だが、この時の電気的信号を生むのが細胞表面のイオンチャンネルで、これらがイオンを取り込むことで電気が流れるのだという。ジュリアス博士はこの温度を感知するチャンネルをパタプティアン博士は圧力を感知するチャンネルを発見したのだという。
ジュリアス博士は最初は温度ではなく痛みを感知するチャンネルを発見することで新しい鎮痛剤を開発しようとしていたのだという。そこでカプサイシンの刺激で開くチャンネルを発見しようとしたのだという。特定の遺伝子を神経以外の細胞に加えてカプサイシンの刺激に反応するかを見ていったのだという。その結果、TRP V1という遺伝子がカプサイシンの刺激に反応する事が分かったという。
ところがカプサイシンに反応するのなら温度にも反応するのではという話が出て、実際に試してみたら反応したのだという。43℃以上で反応したとのこと。現在は様々な温度で反応する遺伝子がいろいろ見つかっているという。ちなみに最初の目的だった鎮痛剤はまだ開発できていないとのこと。ただ樟脳が虫のTRP A1を活性化することが分かったとか、またパラベンがTRP A1を活性することが分かったことから、化粧品からこれを取り除くことになったなどがあるという。
パタプティアン博士は細胞を押した時に反応するチャンネルを見つける実験をして、その結果Piezoというタンパク質が圧力を感知するということを発見したという。この機能は姿勢を感知するなどにも利用させているのだという。
化学賞は不斉有機触媒の開発で二名に
化学賞はリスト博士とマクミラン博士。受賞理由は不斉有機触媒の開発となっている。不斉という言葉は化学会では常識だが、一般的にはあまりピンとこないと思うが、左手と右手のようにつながりや構造は同じだが重なり合うことのない鏡像のような構造の分子のことである。生体はこの内の一方からのみ成立しており、同じ化合物でもこの右手型と左手型が変わると効果が変わってしまうということがある。番組でも登場したサリドマイドがもっとも有名な例で、一方の型は有効な薬だったのに対し、もう一方の型が催奇性を持つことが後で判明して大勢の犠牲者をだすことにになった(開発当時は薬以外のもう一方の型は何も働かないと考えられていたので積極的に除去していなかった)という薬害事件である。
このような事例があるので、この右手と左手を作り分けることは特に製薬などでは重要であり、そのために用いる触媒も今まで開発されており、これもノーベル賞を受賞した野依博士のBINAPなどがある。では今回の受賞者の触媒がどこに新規性があるかが「有機」だという。
従来の触媒は金属を使用したものであったが、そのことによって毒性があったり環境負荷が高かったりするのだが、今回の触媒は金属を使用していないのだという。リスト博士は酵素を用いた反応を研究していたが、実際に作用しているのはその中のアミノ酸であることから、酵素丸ごと出なくアミノ酸だけで反応できるのではないかと考えたのだという。そこでL-プロリンを使用して反応したところ、反応が進行し、アミノ酸のみで触媒として反応させられることが分かったのだという。これは専門家にとっては全くの盲点で「シンプルであるが故に発見が困難であった」という例であるという。
マクミラン博士の方は金属触媒から金属を除けないかと考え、そのために金属がなくても作用できるような分子を設計し、そしてそれを合成したのだという。
以上、医学・生理学賞と化学賞について。イオンチャンネルの話については以前からかなり出ているから、今頃イオンチャンネルでノーベル賞が出たというのが意外な感を受けたが、最初の研究からその応用までは時間がかかることを考えるとこんなものか。
化学賞については、やっぱり化学屋の端くれとしては確かに盲点である。私も化学反応の触媒といえば金属は不可欠という先入観があり、アミノ酸を混ぜただけで不斉反応がいったとなると「えっ?マジ?」っていうのが本音。アミノ酸がどのように働いて不斉反応が発生するのかの反応メカニズムに大いに興味があるが、その反応メカニズムは解明されているのだろうか?
忙しい方のための今回の要点
・今回はノーベル医学・生理学賞と化学賞について解説。
・医学・生理学賞を受賞したジュリアス博士とパタプティアン博士は「温度と触覚の受容体の発見」が受賞理由。
・ジュリアス博士は細胞の温度を感知する受容体をパタプティアン博士は圧力を感知する受容体を発見した。
・化学賞はリスト博士とマクミラン博士が不斉有機触媒の開発で受賞。
・リスト博士はそれまで不斉触媒には金属が不可欠という先入観を打ち破り、アミノ酸だけで不斉反応が可能であることを発見した。
・マクミラン博士は金属触媒から金属を使用しなくても良い分子を設計してそれを合成した。
忙しくない方のためのどうでもよい点
・コジルリも言っていましたが、今回は環境負荷とかサスティナブルという話がノーベル賞にも絡んでいたようです。これからはしばらくの間は、これが世の中の最重要キーワードになるでしょう。
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