ナノレベルの生命現象を顕微鏡で観察する
今回登場するのはナノのレベルの動きを観察できるという驚異の顕微鏡・高速原子間力顕微鏡(高速AFM)の紹介。この顕微鏡が凄いのはナノサイズのオーダーの生体細胞などの動きをそのまま見ることが出来るということである。
開発したのは金沢大学ナノ生命科学研究所。同大学では40台以上の高速AFMで生命現象の様々な謎の解明に挑んでいるという。柴田幹大教授はこれを使用してゲノム編集においてCas9がDNAを切断する動きなどの撮影に世界で初めて成功している。
ウイルス研究の現場では高速AFMを使用した大発見が続いているという。リチャード・ウォング教授はウイルスが細胞内に遺伝情報を放出する過程を観察、ウイルスが細胞内に入った状態(回りが酸性になる)と遺伝子を放出することを観察したという。
撮影を高速化することで動画撮影を可能に
従来の電子顕微鏡などではサンプルを真空状態にして固定する必要があったのだが、高速AFMはこれよりも解像度は劣るものの動きを見ることが出来る。そもそもAFMとは針で物質の表面をなぞることによって表面を観察する手法であるが、これの撮影時間を短縮したらパラパラ漫画のように動きが見られると考えたのだという。ただ高速化のためにはサンプルの振動を防いだり、超精密な針を開発するなどの必要があったという。これによってミオシン5と呼ばれるタンパク質が二足で歩くように移動する映像の撮影に成功したという。
高速AFMは各分野で応用されている。金沢大学の松本邦夫教授は組織の細胞を促し、細胞を活性化させるタンパク質であるHGFの研究を行っている。この物質は難病治療などで注目されているが、体内にがん細胞があると増殖を加速させてしまうのだという。そこでHGFの動きを高速AFMで観察、環状ペフチドをはめ込むことでHGFの動きを抑制してがん細胞増殖に働かないようにするという研究がなされている。
百聞は一見にしかずというが、今までモデルなどでしか考えられていなかった生体現象が直接に観察できるというのはなかなかの衝撃である。恐らく生命科学者なら実際に見てみたいと思っている現象はいくらでもあるだろうから、こりゃ金沢大学は当分は共同研究の申し込みに追われることになりそう。
なお私の場合は、もう一桁ぐらい精度を上げてもらって、生命現象でなくて化学反応で実際にどのように分子が変化しているかを見ることが出来ないかなんてことを妄想する。とは言うものの、やっぱり針で表面をなぞってという分析だと、ナノが限界で原子レベルは流石に難しいだろうな・・・。
忙しい方のための今回の要点
・ナノレベルの生体タンパク質の動きなどを観察することの出来る高速原子間力顕微鏡(高速AFM)を金沢大学が開発した。
・この高速AFMを用いると、例えばゲノム編集でCas9がDNAを切断する様子などを直接観察できる。
・AFMはそもそも物質表面を針でなぞって観察する手法だが、この撮影時間を短縮することによってパラパラ漫画のように動画を見ることが出来るようにしたのが高速AFMである。
・現在、様々な生命現象の観察に高速AFMが用いられるようになっており、これを応用した新薬の開発なども試みられている。
忙しくない方のためのどうでもよい点
・まさに起こっていることを推測でなくて目で見るという科学者の夢の実現です。凄い時代になってきたというのを感じずにはいられない。
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