教養ドキュメントファンクラブ

自称「教養番組評論家」、公称「謎のサラリーマン」の鷺がツッコミを混じえつつ教養番組の内容について解説。かつてのニフティでの伝説(?)のHPが10年の雌伏を経て新装開店。

このブログでの取り扱い番組のリストは以下です。

番組リスト

1/23 サイエンスZERO「月が教えてくれるぬ!? 地球と生命"共進化"の謎」

地球生命進化の鍵が分かってきた

 星はなんでも知っているなんてのは一昔前の流行だが、今回はそれは月が知っていたというお話。地球生命の劇的進化の謎を解く鍵がなんと月に潜んでいたというのである。

 40億年前に発生した単純な生命が、今日のような複雑な生命に進化する上での重要なポイントとなったのは、6~8億年前の多細胞動物への進化である。この進化における一大イベントがなぜこのタイミングで発生したかは謎だったのだが、その謎を解き明かす鍵が月で見つかったのだという。多細胞動物では細胞が機能によって分化するのが特徴となっている。そのことによって生命の体内で様々な機能を発現することが出来るようなったである。

 

 

時代で変化した地球の酸素濃度

 生物進化の鍵の一つは酸素である。25億年前に酸素が急激に増加するというイベントが発生している。この時の地球は全球凍結だったがこれが鍵だという。これが溶けるときに地表のミネラルなどの養分が海に溶け込み、それによってシアノバクテリアなどが大増殖し、光合成して酸素濃度を押し上げたという。この時に我々の先祖である単細胞生物は、酸素を取り込んでエネルギーに変えることが出来る別の生物を体内に取り込んでいる。これがミトコンドリアであり、真核生物の誕生である。酸素を使うことによって従来の16倍のエネルギーを得ることが出来るようになったという。なお全球凍結も生物によるものだという。この時はメタンを発生する生物と酸素を発生する生物が競争しているのだが、酸素を発生させる生物が優位になるとメタンが減少し、温室効果の減少で寒冷化が進むのだという。

 その後の時代は今まで謎に包まれていたが、最近になって当時の岩塩の分析で酸素濃度2回の減少があったことが分かったという。この時代は超大陸が誕生した時代であり、大陸がまとまることで海岸線が短くなるので、陸地からの栄養の供給が減少し、シアノバクテリアが減少したのではと推測されている。

 

 

月が知っていた大量のリンの謎

 生命進化に関わる重要物質にはリンが存在する。8億年前にリンの急増が発生しているが、この理由を月が示してくれたのだという。かぐやの超精細画像を使って月のクレーターの年代を分析したところ、8億年前に巨大クレーターが多数誕生していることが分かったのだという。つまりこの時期には月に大量の隕石が降り注いでいたと言うことであり、当然のように隣の地球にも大量の隕石が落下している。

 この時に何が起こったか。小惑星帯で直径100キロの小惑星が衝突で破壊され、その破片が木星の重力で弾き飛ばされて地球に降り注いだのだという。この時に降り注いだ隕石の量は、恐竜が絶滅したときの30~40倍にも及ぶという。この時の隕石の量は数十兆トンで、リンの量としては数千億トンになるという。これは当時の海に溶けているリンの量の10倍になるという。

 そしてこのリンの増加が多細胞生物発生につながる刺激となったのだという。

 

 

 古生物の研究と惑星の研究が突然に結びついたという非常に劇的な内容であった。クレーターの研究をしていたら8億年前という数字が出て来て、その後に生命進化の話から8億年の話を聞いて興奮したというようなことを研究者が言っていたが、そりゃそうだろうな。私だったら鳥肌立つと思う。

 それにしても生命の原料が宇宙からやって来るという話は、私が子供の頃ではどちらかと言えばあまり主流ではなく、とんでも仮説扱いだったところがあるのだが、最近はそれがもう主流になっているのには驚くところ。昔はとんでも扱いだった「隕石の落下によって恐竜が絶滅した」だって、今ではそれが主流だし。ちなみに私が子供の頃の主流の説は、地球の気候変動のパターンで氷河期を迎え、対応できなかった恐竜が絶滅したってもの。今から考えるとその気候変動が何に起因しているのかの説明が結構スッポリと抜け落ちていたんだが。

 

 

忙しい方のための今回の要点

・生物の進化において鍵となった現象の解明が進んでいる。
・まず25億年前に酸素濃度の急激な増加があったが、これはシアノバクテリアの光合成によるものだという。この時に体内にミトコンドリアを取り込んだ真核生物が誕生した。
・多細胞生物の誕生にはリンが必要となるのであるが、そのリンが8億年前に急激に増加している。その理由は不明だったのだが、最近になって月のクレーターの観測結果から、この時期に大量の隕石が降り注いだことが判明した。
・これらの隕石から当時の海洋中の濃度の10倍のリンが降り注ぎ、これが多細胞生物への進化を促したと推測できる。


忙しくない方のためのどうでもよい点

・本当にこの分野の学説は次々とリニューアルされるので、それをフォローするのが大変です。もっとも今回の話ぐらいならとまだ付いていけるが、ミューオンとかダークマターとか言われたら私ももうお手上げですな。

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