教養ドキュメントファンクラブ

自称「教養番組評論家」、公称「謎のサラリーマン」の鷺がツッコミを混じえつつ教養番組の内容について解説。かつてのニフティでの伝説(?)のHPが10年の雌伏を経て新装開店。

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2/6 サイエンスZERO「もうムシできない!"昆虫食"が世界を救う」

持続可能なタンパク源として注目される昆虫

 地球の持続可能性を考えた時、タンパク質の供給が問題になるという指摘がされている。現在の畜産業では環境負荷が大きすぎるため、人類全体を養うためのタンパク質の供給が不可能なのだという。そこで注目されているのが昆虫食である。環境負荷が小さくて高タンパクで栄養豊富。その昆虫食の研究について紹介。

 まず昆虫食の実力だが、豊富なタンパク質が最大の特徴である。そのために婚昼食レストランを併設したフィットネスジムまで登場しているという。

 このタンパク質を昆虫は様々な方法で合成している。まずカイコであるが、体内に持つGOGATという酵素が本来は排出されるアンモニアをグルタミン酸に変換するのだという。そしてこれからタンパク質が合成される。カイコはこのGOGATが特に多く含まれるのだという。またシロアリは空気からタンパク質を合成できるという。体内に共生する原生生物の中の細菌が空気中の窒素からアミノ酸を合成するのだという。そしてトノサマバッタは大量に食べ物を摂ることでタンパク質を蓄積しているという。成長期のトノサマバッタは1日に自分の体重の3倍もの餌を食べるのだという。

 

 

昆虫の持つ栄養素が人類を救う

 昆虫が持つ栄養はタンパク質以外にも亜鉛、カルシウム、マグネシウム、鉄分などのミネラルに、不飽和脂肪酸やビタミンなども豊富で糖質の少ない健康食だという。また昆虫ごとに様々な特徴があるのも特徴だという。

 実際に昆虫食が世界を救うために活用され始めているという。ラオスでは子供の1/3が栄養不良で、ミネラル、ビタミン、脂質が不足しているという。そこでヤシオオオサゾウムシの養殖が提案されたという。この幼虫は6割が脂肪のためにこの地域にピッタリなのだという。飼育も容易でたらい一つで育てられて5週間で食べ頃だという。味も良いとのことで村で飼育できるようにエサとなる芋の栽培も始められ、将来的にはこれを収入源に出来るかもとのことである。

 東京農工大学の鈴木丈詞准教授の研究室ではタイワンエンマコオロギを使用して生産性の向上の研究もなされている。コオロギは雑食性のために食品ロス(キャッサバの葉など)をエサにすることが出来るのだという。現在は養鶏飼料で育てられるが、これを食品ロスに切り替えられればコストの低減が期待できる。現在のところ養鶏飼料に比べると成長が遅いが、複数の飼料を混合することでそれに迫ることが出来ることが分かってきたという。

 さらに昆虫のメリットとして使用する水が少ないということもあるという。コオロギ500匹を成虫に育てるのに必要な量は500mlに過ぎないという。哺乳類などは有害なアンモニアを尿として薄めて排出するので大量に水を消費するが、昆虫はこれを固体で糞と共に出すので非常に節水なのだという。生産量1キロ当たりで牛とコオロギを比較すると、必要な水の量は1/77、エサの量は1/5、温室効果ガス排出量は1/1780だという。

 

 

昆虫利用を広げる研究

 また食用コオロギの研究に乗り出した徳島大学では、コオロギが持つアレルゲン(エビ・カニアレルギーと同じアレルゲンを持っているらしい)を除去する方法を研究している。ゲノム編集でアレルゲンになるタンパク質を合成しなくするのだという。ただアレルギー原因となるのはトロポミオシンというタンパク質だということは分かっており、さらにそのアミノ酸配列のどこを変化させればよいかも分かっているが、トロポミオシン自体は生存に関わる重要なタンパク質なので、その本来の機能を失わせないように正確に狙った部位だけを変化させる必要があるのが難しいのだという。

 お約束ではあるが、コジルリが果敢に昆虫食に挑戦している。コオロギの粉末を入れたクッキーに関しては全く抵抗なし。しかしさすがにもろに昆虫の形のままのものには若干の抵抗を感じているようだが、それでも口に放り込む勇敢なコジルリ。「おいしい」と一言。なおコオロギは竜田揚げがお勧めというのが鈴木准教授の言。

 さらに魚の餌に昆虫を使用する研究もなされている。現在のカタクチイワシは価格が高騰している上に環境負荷も大きいので、これを昆虫に切り替えようというのである。原料はアメリカミズアブ。これは家庭の生ゴミから家畜の排泄物まで食べることが出来るのだという。体内に各種の抗菌ペプチドを持っているために無害化できるのだという。実際に家畜の糞を与えたらミズアブの摂食行動で大腸菌が減少したという研究もあるという。さらにミズアブの糞は堆肥として使用できるので循環型社会の確立も期待できるという。ただしミズアブによる飼料はリジンが不足していることが分かってきたので、それを補う方法も研究が進められているという。

 

 

 以上、現在ホットな昆虫食について。ヨーロッパでは既にミールワーム、バッタ、コオロギが新しい食品として認められているとのこと。ちなみに昆虫は栄養価が高いことは以前より知られており、日本でも長野などの内陸地域では昆虫食の文化が存在したことも知られている。しかし現在ではやはり日本ではまだゲテモノ扱いなので一番の問題は精神的抵抗である。コオロギ粉末クッキーのように、なるべく抵抗の少ない形から徐々に慣らしていくしかなかろう。

 ちなみに私はイナゴの佃煮は食べたことがあります。感想としては普通に小エビのような食感で、普通に美味かったという記憶があります。コオロギにエビ・カニアレルギーのアレルゲンがあるとの話が出てましたが、そもそも昆虫類は進化的に見ればエビ・カニ類が一番近いので、味的にもあの辺りに近くなります。もっとも現在食用に検討されている昆虫はなぜかイモムシに近い類いのものが多いので、私的にはどちらかと言えばあれの方が心理的抵抗は大きいです。もっともオーストラリアなどではイモムシのスープなんかがあるようで、食べ慣れている人には「コクがあって美味い」とか。まあ子供の頃から普通に慣れていたら抵抗が無くなるでしょう。ところで思ったのですが、日本で最も忌み嫌われている生き物の一つがGですが、あれってやはり日本人が昆虫を嫌っている影響が大きいので、もしかして昆虫が普通に食べられるようになったら、Gについても今ほど強烈に恐れる人が減ってくるかもなんて思った次第。

 

 

忙しい方のための今回の要点

・持続可能なタンパク源として昆虫食が注目されている。
・昆虫の最大の特徴は高タンパクであること。さらにミネラルやビタミンなども含んでおり、栄養価的には優秀である。
・カイコは排出するアンモニアからグルタミン酸を合成し、シロアリは体内の細菌を使って空気中の窒素からアミノ酸を合成するなど、優れたタンパク質合成能力を有している。
・ラオスでは実際に現地の子供の栄養不良を改善するために昆虫の養殖が開始されている。
・また昆虫は家畜に比べて成長に必要な水やエサが少なく、温室効果ガス排出量も劇的に少ないなど環境負荷が小さい。
・昆虫を今までのカタクチイワシに代わって魚の養殖の餌に利用する研究も始められている。


忙しくない方のためのどうでもよい点

・本当に昆虫食については目下のところ良いとこ尽くしで、最大にして一番の問題は心理的抵抗という状態です。よくよく考えると、昆虫って多くの動物の餌になっていて、生態系の根本を支えているとも言える生物なんですよね。むしろ昆虫を食べないという動物の方が珍しいぐらい・・・とまあ、理屈では分かるんですけどね。

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