教養ドキュメントファンクラブ

自称「教養番組評論家」、公称「謎のサラリーマン」の鷺がツッコミを混じえつつ教養番組の内容について解説。かつてのニフティでの伝説(?)のHPが10年の雌伏を経て新装開店。

このブログでの取り扱い番組のリストは以下です。

番組リスト

2/10 BSプレミアム ヒューマニエンス「"パンデミックと人類"科学者からのメッセージ」

コロナパンデミックで発生した様々な社会現象

 今回は現在のコロナによるパンデミックの影響について、今までこの番組に登場した研究者達から様々な証言や報告を集めた回。

 まず人は社会的な動物であり、仲間とコミュニケーションを取りながら生活している。しかしこのコミュニケーションが現在危機に瀕している。その影響についての報告がある。第二次大戦後、施設で育てられた親のいない幼児について、栄養や衛生状態には問題がなかったにも関わらず2年間でその死亡率は37%にまで及んだ施設があるという。その施設では子供が放置されて人とのふれあいが欠如していたという。実際に近年は減少傾向にあった全国の大学生の自殺率が、2020年には急増しているという。経済的困窮なども原因としてあるが、心理的孤立も見逃せない原因であると言う。抑鬱状態になって自殺に及んだ者が少なくないという。

 さらにネットに頼ったコミュニケーションは誤解を生みやすく、誹謗中傷などに走りがちになる。人類の歴史にとってそのコミュニケーションは、長年言語ではなく踊りなどを通しての身体の同調で行われてきたものであり、言語の発達は歴史上のほんの1%に過ぎないという。だからいくらネットなどのコミュニケーションツールが発達してもそれですべてが克服できるというものではないという。ネットで多くの人とつながっているように感じていても、実際に何かの時に信頼できてつながっているのはせいぜい150人が限度という報告もある。これは現在も狩猟採集で暮らしている集団の規模と一致するという。これが社会関係資本であるが、これの構築が困難になっているという。

 ちなみにこれについて織田裕二氏が「150人もいるかな?」と言っているが、これは私も同感。どうも私の場合は1桁は確実に少ない気がする。

 

 

正義感の暴走とデマの流布

 またこのコロナ禍で噴出した人間の汚い一面がいわゆる自粛警察の横行である。自分だけが我慢しているのではという不公平感がルールを破ったと思われる者への攻撃につながっているのではという。実際に人は不公正だと思うものを見た時、自分には直接関係なくても罰するべきと感じるものであるという。イギリスで行われた実験では、女性が男性にビンタする映像を見た時、何もない状態では島皮質という不快なものを見た時に反応する部位が働くのに対し、事前に「この男性はこの女性に対してひどいことをしたんです。これは罰なんです。」と聞かせると、快楽を得た時に活動する側坐核が反応したという。つまり「これが正義だと」思っていたら過剰な攻撃さえ快楽につながる危険があるのだという。まさにネットなどでの炎上などもこのメカニズムである。

 なお番組ゲストが「正義感を示すなら政府などもっと大きなものに示して欲しい」と言っていたが、これは極めて同感。やむにやまれずに営業をしている店を叩くよりは、無策の挙げ句にそんな状況に追い込んだ政府こそを批判すべきである。

 さらに今回のコロナには本当の意味での専門家はおらず、科学に誠実にあればあるほど一般的なことしか言えないため、無責任なことを言い放つ全くの素人の言の方が受けてしまってデマが広がるという部分もあるという話も登場していたが、これは全く同感。自分は医者でないからと笑って誤魔化しながらいい加減なことばっかり言っている三浦某などはまさにそうである。まあそういう奴を起用するテレビが一番無責任だが。

 さらに孤食が食事に与える影響も存在するという。人は実は1人だと食事に集中できないのだという。実際に食事中の脳波を調べると、1人で食事をしている時よりも鏡でその自分の姿を見ながら食事している時の方が食事に集中しているという結果が出たという。とは言うものの、孤食の食堂で鏡を見ながら食事するってのもあまりに馬鹿っぽいが。

 

 

ドジョウが教えた?!ECMOを補う新酸素供給法

 なおコロナを切っ掛けに進んだイノベーションについても紹介。東京医科歯科大学教授の武部貴則教授は、肺に重度の障害が生じた患者の酸素補充について、使用が難しくて患者に負担の大きいECMO以外の方法がないかを研究した。その結果、ドジョウが水中の酸素濃度が低下すると口から空気を取り込んで腸から吸収することから、哺乳類なども腸から酸素を吸収できるのではと考えたという。医療用の液体に大量の酸素を溶かし込んで、低酸素状態の豚に浣腸で送り込んだところ、液体400ミリリットルで20分間呼吸不全が改善したという。ECMOを補う意味で開発されたこのEVA(腸換気法)は今年中に人での臨床試験が行われる予定という。これが上手く行けばECMOを使えない環境や、ECMOまでのつなぎとしての使用が可能となる可能性があるという。

 なお感染症対策としては国際的に全体で取り組むことが大切だという。格差があることによってホットスポットが誕生して、そこから変異株が発生する危険があるのでそれが要注意であると言う。ウイルスには国境は無いのだという。

 

 

 コロナに関連してコミュニケーションに関しての問題は多発しており、それに起因するものについては大体今まで言われていた通りなのであまり驚くものはなかったが、さすがに腸から呼吸するというのには驚いた。浣腸で酸素補充か。全く想像もしていなかった方法である。

 また感染症対策に国境は無いというのは全くその通り。実際に今でも南ア株だのインド株だのとホットスポットで発生した変異株で苦しめられているのだから、全世界で感染を抑制していかないとエンドレスになってしまう。しかしこれがなかなか出来ない。ちなみに現在あまりに無策な日本を見ていると、その内に日本株の登場さえ懸念される(もしかしたら日本株でなくて大阪株になるかもしれない)。

 

 

忙しい方のための今回の要点

・コロナのパンデミックの影響は人のコミュニケーションの障害につながっている。このことが個人の不安を高め、実際に大学生の自殺の比率は上昇しているという。
・ネットなどでのコミュニケーションは存在するが、人は歴史的に言語だけのコミュニケーションは困難であると言う。信頼できる人のつながりという社会関係資本の形成が阻害された状態になっている。
・また人は正義を確信している時には過剰な攻撃を快感と感じる傾向があり、これが自粛警察などの横行につながっている。また不安の増加がさらにそれに拍車をかけている。
・さらに孤食は食事への集中を低下させる結果、食欲の低下などにもつながるという。
・ECMOに代わったりつなぐ方法として、腸から酸素を吸収する腸換気法の臨床研究が今年中に開始される予定。


忙しくない方のためのどうでもよい点

・とにかく現代人が今まで経験したことのない状況なので、各地でパニックが起こるのも無理なきところがあります。今まで常識とされていたことが崩壊してしまっているのはかなりのストレスです。科学が進歩したにもかかわらず、結局は人間は本質的なところはそんなに変わらなかったりするんですよね。昔の天然痘封じのおまじないとかを笑えないレベルのコロナ対策まで巷には存在しますので。

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