教養ドキュメントファンクラブ

自称「教養番組評論家」、公称「謎のサラリーマン」の鷺がツッコミを混じえつつ教養番組の内容について解説。かつてのニフティでの伝説(?)のHPが10年の雌伏を経て新装開店。

このブログでの取り扱い番組のリストは以下です。

番組リスト

3/20 サイエンスZERO「廃炉の現実 未来につなぐ思い」

福島原発の現状について

 この番組で定期的に放送している福島原発の現状。今回はまず町の人に廃炉作業がいつまで続くかを知っているかをアンケートしている。その結果、38%が「知らない」、一番多いのは12%の100年以上である。ちなみに私なら「永久に終わらない」と答えるところ。

 

 

耳かきで山を崩すようなデブリ取りだし

 で、政府と東電の皮算用では後30年ほどで廃炉作業が終了ということになっているとのこと(実際は到底無理)。しかし廃炉について一番の問題となっているのが強烈な放射能を帯びている燃料デブリの取り出しである。まさか人間が入ってガリガリと取るというわけにいかないので(田母神先生によると放射能は身体に良いそうなので、是非ともデブリ回収作業に従事して頂きたいところだ)、ロボットなどを使用してということになる。しかし燃料デブリの総量は880トンと試算されている。

 番組では配管から侵入するロボットアームの紹介をしているが、今まではこれらの操作はメーカーの技術者などが行っていたのだが、東電の若手社員などが現在訓練を受けているという。いずれは作業のノウハウを東電内で引き継いでいくことを考えているという・・・のだが、このロボットで取り出すとされているデブリの量は数グラムとのことなので、デブリの880トンという量を考えると耳かきで山を崩すみたいなものである。

 

 

汚染水の海洋放出が大問題に

 さらに問題となるのは汚染水である。放射性元素はALPSで除去されることになっているが、トリチウムがどうしても残存してしまうという。そして現在この処理水が敷地内に際限なく増加しており、政府はこれを海に放出すると決めたのだが、これが付近の漁業者の猛反発を呼んでいる。根底には不信感があり、かつて汚染水の放出はないと言っておきながら、唐突に放出を決めたこと。トリチウムの安全性ばかりを一方的に宣伝を始めたことなどが不信感を深めることになっているという。

 で、第三者の立場から魚に対する影響を測定しようと挑んでいるのが、福島大学の和田敏裕准教授だとか。今までの方法だとトリチウムは濃度が低すぎて検出できなかったのを濃縮することで検出できるようにしたという。これでもし近海で魚の中のトリチウム濃度が急増するようなことがあったら正しく検出できるはず・・・とのことなんだが、そうなってからでは遅い気がするのだが。

 ちなみにトリチウムって確か核融合の燃料だったと思うのだが、そっちに回せないのかと思ったんだが、核融合の方は実用化は遥かに先なんだよな。もし核融合が実用化出来たら、高濃度のトリチウムが含まれる汚染水は一転して宝の山になるのではなんて思ったりしてるんだが・・・。

 また放射性ストロンチウムを含んだスラリーの保管に問題が生じているという。保存容器の劣化が進んでいるので、スラリーを固化して安定化させることで保存性を上げる研究もなされているという。東京工業大学の竹下健二教授はアパタイトのカルシウムをストロンチウムに置き換えることで固化させることを研究していると言う。実際にリン酸を加えて高温高圧で反応させてアパタイトの固体を作ることに成功しているという。

 

 

 以上、廃炉の現状についてだが、いろいろ紹介していたがまとめてしまうと「ほとんど何も進んでいない」というのが現実としか言いようがない。耳かきでどうやって山を崩すのかという根本的なところは解決不可能だし、もし何らかの天才的な発明によってデブリを回収することが出来たとしても、それが無害化するまでの永遠に近い期間安全に保管し続ける方法なんてあるのかなんていう根本的な問題がある。なおこの問題は原子炉が事故を起こさなくても、稼働し続ける限りは発生し続ける問題である。

 それこそ放射能除去装置のようなものでも開発できれば良いが、そんなもの現実にはあり得そうにもないことから考えると、このような状況下で原発を再稼働などは愚の骨頂である。それにこの事故への対応は今後も膨大な費用を垂れ流しにするわけだが、このような費用も計算に入れて「原発は安い」なんて言えるのだろうか? 安全性の問題だけでなく、経済性の観点からも原子力は既に破綻しているのである。

 

 

忙しい方のための今回の要点

・福島の廃炉作業は政府や東電の目論見では後30年で完了というタヌキの皮算用をしているのだが、現実にはかなり困難である。
・燃料デブリの総量は880トンと見積もられているが、現在ロボットアームなどで一回に取り出せる量はせいぜい数グラムだという。
・またトリチウムを含んだ汚染水の問題も切迫しているが、海洋放出を決定したことに地元の漁業関係者から猛反発が起こっている。
・さらに放射性ストロンチウムを含むスラリーの安定保存の問題などもあったが、これについてはリン酸を加えてアパタイトの結晶にする研究が進められている。


忙しくない方のためのどうでもよい点

・どう考えても原発に存続の目はないと思うのだが、それでもあくまで原発再稼働に固執する連中の目的って何なんだろう。目の前の金か、それとも核兵器の原料に出来るプルトニウムの確保か。どっちにしてもろくなものでないのは間違いない。

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