教養ドキュメントファンクラブ

自称「教養番組評論家」、公称「謎のサラリーマン」の鷺がツッコミを混じえつつ教養番組の内容について解説。かつてのニフティでの伝説(?)のHPが10年の雌伏を経て新装開店。

このブログでの取り扱い番組のリストは以下です。

番組リスト

4/3 サイエンスZERO「未来を変える新素材!分解する"夢のプラスチック"」

生分解性プラスチック開発の最前線

 プラスチックは丈夫で加工が容易な便利な材であるが、環境中で分解されずに残るので環境破壊が問題となっている。そこで現在研究開発が進んでいるのが生分解性プラスチックである。

 現在主流である生分解性プラスチックにポリ乳酸がある。このポリ乳酸は強度があって使いやすいものであるが、実は分解がしにくいという難点がある。実はポリ乳酸が分解を開始するには湿度60%、温度60度以上という環境が必要なのだという。だが自然界にはこういう環境はほとんど存在しない。

 そこでこのポリ乳酸を分解しやすくする方法を研究開発したのが東京大学の岩田忠久教授である。彼はポリ乳酸を分解できる酵素を発見し、その酵素をマイクロカプセル化してポリ乳酸に加えたのだという。自然中でポリ乳酸が細かく破壊されると酵素が働き始めてポリ乳酸の分解を促すのだという。酵素をカプセル化したのは熱加工するプラスチックの中で高温でも酵素が分解されないようにするためだという。細かくなるほど分解が進むので、現在問題となっているマイクロプラスチック状態になると確実に分解されるというメリットを持っている。

 

 

生分解性プラスチックの医療展開と二酸化炭素原料のプラスチック

 さらにこの生分解性プラスチックを医療の分野に活用する研究もなされているという。生分解性プラスチックに薬剤を浸透させ、このシートを体内に埋め込むことで長期間薬剤が徐々に放出されて病気を治すのだという。問題となるのは分解時間の制御だが、そのままだと分解が早すぎるものをポリマー鎖の密度を上げることで分解時間を延ばすことに成功したという。さらにはがん細胞に直接貼ることで抗がん剤を出し、さらには磁場をかけると発熱してがん細胞を焼き殺すというガン治療用のシートの開発も進んでいるとのこと。

 一方、もう一つの問題は、「意外と知られてないんですけど、プラスチックの原料って石油なんですよ」(by小泉進次郞)という資源問題である。そこでこのプラスチックを二酸化炭素を原料にして合成しようという研究がなされている。

 二酸化炭素からプラスチックを合成することが出来る水素酸化細菌という微生物が存在することは分かっていたのだが、それらの微生物が作り出すプラスチックは硬脆くて実際に使用することは出来なかったという。そこで東京工業大学の柘植丈治准教授は微生物の遺伝子操作を行うことで、硬いプラスチックだけでなく柔らかいプラスチックも作らせることに成功した。こうして合成されたプラスチックは十分な柔軟性を持っている。まだまだ生産性が非常に低いので、それをどう効率化するかが問題のようであるが、培養槽を工場の排ガスラインにつなぐことで、二酸化炭素の排出を減らす効果なんかも期待されているという。

 

 

 以上、環境に負荷をかけないプラスチックの話。なお岩田教授が「すべてのプラスチックが生分解性プラスチックに置き換わるのではなく、2割ぐらいを置き換える」と言っていたがその通りだろう。プラスチックの分解しないという性質こそが重要な分野も多いので、実際にはレジ袋などのように最終的にゴミになるのが確実な分野を置き換えるということになる。こういう観点からも、以前は「プラスチックを分解できる微生物」の研究なんかも多かったが、「それは違うだろう」というところである。もしプラスチックを簡単に分解する微生物が開発され、それが環境中に漏れ出しでもしたらそれこそ大惨事である。最初は限定した分解槽とかで使用したとしても、外部への漏れ出しは絶対にゼロにはならないだろうから。

 

 

忙しい方のための今回の要点

・環境中のブラスチックゴミが問題となっているが、それを解決するための生分解性プラスチックの研究が進んでいる。
・現在の使用されているポリ乳酸は湿度60%、温度60度以上という環境が分解に必要という難点があった。そこでこれを分解できる酵素を入れ込んだプラスチックが開発された。
・さらに生分解性プラスチックを使用して、徐々に薬剤を体内に放出するという治療法も研究されている。
・また資源問題の解決も兼ねて、二酸化炭素からプラスチックを作る研究がなされており、実際にその合成に成功している。


忙しくない方のためのどうでもよい点

・とにかくプラスチックって型に流し込んだらどんなものでも作れるので、工業生産向きなんですよね。それこそが不必要に何でもかんでもプラスチックに置き換えられた理由。実際は元々木や竹で作っていたものは、それに戻すというのも1つの手ではあるんですがね。

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