教養ドキュメントファンクラブ

自称「教養番組評論家」、公称「謎のサラリーマン」の鷺がツッコミを混じえつつ教養番組の内容について解説。かつてのニフティでの伝説(?)のHPが10年の雌伏を経て新装開店。

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5/22 サイエンスZERO「地球を冷やす?あの病気にも!?土の実力発掘SP」

土とは何であるか?

 あまりにありふれているので日頃意識していないが、実は我々の生活を支えている重要な物質である土。今回はこの土とは何であるかと、そこに迫る危機について伝える。

 まず土とはいかなる物質であるかだが、まずその半分ぐらいは岩などの鉱物が粉砕されて粉末となったものである。しかしこれだけだと普通の土にはならない。そこにさらに動物の死骸などが微生物によって分解されたことによって生じた有機物が混合している。さらに大さじ一杯の土の中に100億もの微生物が生存しており、それが1つの生態系となっている。日本は比較的土の出来やすいところだそうだが、それでも100年に1センチほどしか生成していないという。

 

 

耕作地の土が疲弊している

 世界中の土を集めてきた土ハンターこと、森林総合研究所の藤井一至氏によると、世界には様々な土が存在するが、実はその中で普通に耕すと普通に豊かに作物を実らせるという人類にとって都合の良い土は数種類しかない。そして肥沃な土のTOP3は世界の陸地の11%に過ぎないのに、これらの土に人類の食糧の8割以上が依存しているという。

 だがこの土に異変が起こっている。何度も耕して耕作を続ける内に段々と土が疲弊していって、ついには植物が育たない土になってしまっているのだという。インドネシアでは熱帯雨林を伐採して農地としたが、過度に耕して栽培を続けた結果、畑の土が疲弊して耕作が不可能になってしまったという。しかもその上に石炭の採掘によって極端に酸性化したために、元々は大さじ1杯に1万種いた微生物が、極端に酸に強い3種ほどに激減してしまっていたという。このためにここに植物を植えても枯れてしまうし、微生物を戻そうとしてもすぐに死んでしまう土になってしまったという。

 これを回復させるのに、100年に1センチの割で自然が土を作るのを待っているわけにはとても行かない。そこで研究されているのが岩を砕いたものから作る人工土壌だという。藤井氏の実験では、岩石を砕いたものを2年間地中に埋めていたところ、周囲の微生物の影響でかなり土になりかけているという。かつての研究者が40年前に埋めたサンプルを発見して掘りだしたところ、自然土壌に匹敵する微生物が増殖していたという。現在、どのような岩石を用いるのが最も効果的かというような研究を行っているという。

 

 

温暖化を防ぐ土に病気を治す微生物

 また温暖化の原因を解消する土の研究も進んでいる。農地から発生するN2OはCO2の300倍の温室効果を持っているが、これを再び土に吸収させようというのである。大豆の根にある根粒には根粒菌が存在するが、この根粒菌は大気中のN2を取り込む効果を持つが、それらがN2Oに変化してしまう場合があると言う。しかし一部の根粒菌はN2OをN2に変換する力があることが分かったという。そこでこの能力を持つ根粒菌を畑に投入したところ、N2Oの領が減少するという実験結果が出たという。現在各地の土の成分を集め、より効果がある菌がいるのではないかと分析を続けている。

 さらに二酸化炭素についても、団粒という土の塊を利用して吸着しようという研究もなされている。日本に多い黒ボク土は多くの細孔などを持っていて、炭素を吸着する能力をもっているのだという。

 土の中には多くの微生物が存在するが、そのほとんどの正体は分かっていないない。そこでこれらの微生物の中から有用な薬を作り出すものがあるのではという研究もなされている。その結果、ベルカリンAという物質がアルツハイマー病の原因となるアミロイドβの生成を抑制するということが見つかったという。

 

 

 土についてだが、土壌の疲弊というのはまさに将来の食糧危機につながる危険である。化学肥料を大量に使用する近代農業は土壌に対する負担が大きいことは分かってきており、実際にこれでかつての畑が荒れ地になってしまった例は世界中に多い。やはり土壌中の有機分を酷使しているのだろう。だからこそ有機農法で土を作りながら収穫をしていく必要があるのであるが、目の前の経済性だけが重視される世の中ではなかなかそれが通用しにくいという問題がある。

 現在には原子力発電などのように「明らかに未来に深刻な問題を与えるのだが、目の前の利益のために見ないふり」という事項が実に多いのだが、この土壌の問題もまさしくそれである。このまま目の前の利益だけを最優先する社会を続けていると、将来の世代は不毛の上に放射能で汚染された大地だけを残されるということになりかねない。こういう点からも私は、資本主義は地球を収奪しすぎる社会体制だと考えているのだが。

 

 

忙しい方のための今回の要点

・土とは岩などの砕かれたものに、生物の死骸などが微生物で分解された有機物がまざったものであり、大さじ一杯の土に100億もの微生物が含まれる。
・しかし耕作に適した土は全体の11%に過ぎないのに、その土に食糧の8割を依存する状況になっている。さらに耕作のしすぎで土が疲弊してしまう問題が発生している。
・疲弊した土を回復させるための人工土壌の研究も進んでいる。鉱物を砕いたものを土中に埋めることで、周囲の微生物の働きで土になっていくことが分かっている。
・さらに農地などではN2Oが発生するが、これはCO2の300倍の温室効果を有している。これらをN2に変換する微生物の研究もされている。
・また団粒という土の塊を使ってCO2を吸収する研究も進んでいる。
・土の中の微生物には人類に有用なものもあるはずとの研究も進んでいる。中でもアルツハイマー病の原因となるアミロイドβを抑制する物質も見つかってきた。

 

忙しくない方のためのどうでもよい点

・結局は効率を重視しすぎると環境から収奪することになります。職場なんかでも目先の利益だけを追求すると結局は従業員を収奪することになって彼らが壊れます。何事も程度とバランスというものがあるわけで、その点では資本主義というのは欠陥があるように思える。

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