教養ドキュメントファンクラブ

自称「教養番組評論家」、公称「謎のサラリーマン」の鷺がツッコミを混じえつつ教養番組の内容について解説。かつてのニフティでの伝説(?)のHPが10年の雌伏を経て新装開店。

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6/26 サイエンスZERO「イモリの超再生力 意外すぎる仕組みを&医療に生かせる!?」

イモリの持つ驚異の再生力

 損傷した心臓や切断された手足も完全に再生できる。そのような超再生力を有している驚異の生物がイモリである。医療技術への応用を目指して、そのイモリの再生能力の謎に迫る研究が行われている。

 イモリは両生類であり、成長に伴って身体が大きく変化する。受精卵の細胞は、その後筋肉を作る幹細胞や骨の幹細胞、皮膚の幹細胞などに分化する。その後に筋肉の幹細胞は様々な臓器に分化する。イモリ以外の両生類のカエルやサンショウウオなども幼生の時には幹細胞が活発であって高い再生能力を有している。しかし成長すると幹細胞の働きは弱まる。しかしイモリは成長しても何度でも再生できる能力を持っている。

 分化した細胞は不可逆なのであるが、イモリは分化した細胞が脱分化して幹細胞にそっくりな細胞に戻るのだという。そしてここから再び分化して様々な部位を再生することが可能になるのだという。

 

 

イモリの脱分化のメカニズム

 なぜイモリは脱分化を起こすことが出来るのか。筑波大学の千葉親文教授が、遺伝子にカギがあるとみての調査を行った結果、イモリに固有のNewtic1という遺伝子が見つかったという。イモリの傷口の再生時にNewtic1が生み出すタンパク質の観察をしたところ、赤血球が鍵であると推測できたという。赤血球が酸素運搬以外に働くというは予想外の発見であった。イモリの赤血球を調べると再生に関わる重要なタンパク質が10種類以上検出されたという。さらにNewtic1が作るタンパク質は赤血球の回りに粒のように現れていたという。

 ここから考え出されたメカニズムは傷口に達した赤血球では、再生に必要なタンパク質がNewtic1が作った粒の中に入り、この粒が運び屋の役割を果たすのだという。これで脱分化のスイッチが入るのではとのこと。イモリの赤血球は人と違って核を有して様々な物質を合成しており、酸素運搬に特化して核を失った人の赤血球とはそもそも構造が違う。ただし再生に必要なタンパク質は人の体内にも存在するので、何らかの運び屋を加えてやれば人でも再生が可能になるかもしれないという。

 

 

ゲノム解析からのアプローチ

 またゲノム解析からの研究も進められている。広島大学両生類研究センターの林利憲教授はイベリアトゲイモリを大量に飼育している。卵が多くて成長が早いので増殖させて遺伝子解析をするのに都合が良いのだという。そして解析の結果、レトロトランスポゾンという特徴が浮上した。これはゲノムの一部がコピーされて他の場所に貼り付けられる現象だという。これのためにイモリのゲノムは人の7倍以上に巨大化しているという。今まではこのような繰り返しには意味がないとされていたのだが、そうではないことが分かってきたのだという。同様に再生能力が高いウーパールーパーなどでも繰り返しが多いという。


 まさに夢の医療につながるかもしれない研究である。事故などで失った手足の再生が可能となるし、場合によって臓器の損傷なども損傷部位を除去して再生させるということも可能となる。そうなれば多くの人にとって朗報であるし、人類の寿命にも大きく影響しそうである。

 なおイモリは心臓はおろか脳でも再生するという話もあったので、もし人類が脳を再生できるようなればそれこそ禁断の不老不死さえ見えてくる可能性がある。もっともこれだけの再生能力を持つイモリも不老不死ではないのだから、さすがに再生には何らかの限界があるのだろうとは思うが。それでも大幅な長寿化の可能性はある(イモリの長寿記録は40年ぐらいがあるという)。ただ大規模に損傷した脳を再生させたら、記憶の類いはリセットされるだろうから、それが同じ人間と言えるかどうかには少々の疑問はある。

 

 

忙しい方のための今回の要点

・心臓が損傷したり手足が欠損しても再生できるという驚異の能力を持つのがイモリである。
・イモリと同様に他の両生類でも幼生の時には高い再生能力を持つものはいるが、成長すると再生力は弱まる。これに対してイモリは生涯何度でも再生が可能だという。
・通常は一旦分化した幹細胞は元の状態に戻るのは不可能だが、イモリは脱分化して幹細胞に近い状態に戻ることが可能である。
・医療への応用を目指してイモリの再生能力の研究が行われた結果、イモリに固有のNewtic1という遺伝子が見つかった。
・このNewtic1が生み出したタンパク質が赤血球に付着して、再生に必要なタンパク質を輸送する働きがあることが分かった。
・またゲノムの方からイモリの再生能力の解明も進められている。イモリのゲノムはレトロトランスポゾンによって一部がコピーされて他の部分に貼り付けられる現象が多発しており、人の7倍以上にゲノムが巨大化していることが分かったという。


忙しくない方のためのどうでもよい点

・なお自然界では失った手足が5ヶ月かけて再生しても、その間に天敵の餌にされてしまうから生存に有利とは言えず、この再生能力は進化の過程で淘汰されたのではという話が出ていた。確かにそれこそ漫画みたいに吹っ飛んだ手足がみるみる再生するのなら圧倒的に生存に有利だが、5ヶ月もかかったら自然界ではその間はどうするのって話だわな。ただこの技術が人工的に実現できたら、再生の期間は短縮できそうに思う。

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