教養ドキュメントファンクラブ

自称「教養番組評論家」、公称「謎のサラリーマン」の鷺がツッコミを混じえつつ教養番組の内容について解説。かつてのニフティでの伝説(?)のHPが10年の雌伏を経て新装開店。

このブログでの取り扱い番組のリストは以下です。

番組リスト

9/18 サイエンスZERO「曇っていても発電できる!夢の次世代太陽電池」

弱い光でも発電できる新しい太陽電池

 クリーンなエネルギー源として需要が高まっている太陽電池だが、現在のシリコン型太陽電池は曇りなどで光が弱まると発電効率が著しく落ちるという欠点があった。そこで曇っていても、室内のライトなどのレベルでも発電が出来る新しい太陽電池が注目されている。

 その新しい太陽電池はペロブスカイト太陽電池。発明したのは日本人だという。その人は桐蔭横浜大学の宮坂力特任教授。ペロブスカイト太陽電池は薄くて曲げることが出来るという。曇天下どころか室内の明かりでも発電でき、実際にスタジオで試しているが、スタジオの照明でもプロペラを回すことが出来ている。さらに作るのは非常に簡単で、フィルムの上に材料を塗布した焼くだけだという。それに電極を付ければ電池になるという。

 ペロブスカイト太陽電池が弱い光で発電できる秘密はその薄さにあるという。光を浴びた半導体の中で正孔と電子が生じて、それが電極に移動することで電気が流れるが、シリコンはいくら薄くしても0.1ミリが限界なので、厚すぎて光を吸収するのは表面の一部であり、そこから長い距離を電子や正孔が移動する必要があるので、光が弱いと性能が一気に低下するのだという。これに対してペロブスカイトは1000分の1ミリという厚さで光を十分に吸うので弱い光でも効率よく発電できるのだという。

 

 

学生の思いつきから、一気に実用化手前まで研究が急速に進化

 このペロブスカイトの発見は、そもそもは宮坂力特任教授のゼミの大学院生の小島陽広氏が試してみたいと言ったのだという。宮坂氏は学生の考えを尊重して「やってみたら」と言ったという。そして実際に試してみたら光を当てたら微弱な電気を発したことが確認されたのだという。しかし本腰を入れて研究してみたら、安定性が悪いのですぐに壊れる、効率も低いということで「これはダメだな」という印象だったという。2009年に論文を発表したものの光電変換効率が低かったために、世界の研究者からはほぼ無視されたという。

 しかし2012年にオックスフォード大学のヘンリー・スネイス教授がこれに興味を示し、作り出した電気を電極に運ぶ部分を液体から固体に変える研究を初め、その結果として変換効率が3%から10%を越えるレベルまでアップした。そしてこれを2012年に論文発表すると一気に世間の注目を集めることになった。すると世界中の研究者が追試や改良を初めて、変換効率は初期の3%から25%を超えるレベルにまで向上したという。現在宮坂氏はペロブスカイトをインクジェットプリンタで薄膜を大量生産する取り組みを行っているという。

 

 

大面積化と耐久性が課題

 目下のところは大面積のものを作るというのが課題となっているが、既に実用化にかなり近づいているという。例によってかなり力を入れているのが中国とのことなので、下手したらまたこの分野も中国に乗っ取られかねない。

 大面積のものを作るのが難しいのは均一の結晶を作るのが難しいのだという。企業でも開発が進んでおり、メーカーでも2025年への実用化を目指して30センチ角のモジュールの製造までは出来たという。ただまだ耐久性などの問題があるという。そこで現在勧めているのは、シリコン型の太陽電池の上に重ねて高い効率のタンデム型太陽電池を作るという取り組みを行っているという。両者が吸収する波長が違うので変換効率を非常に高められるのだという。なお開発しているのは「化学メーカー」という説明をしていたが、登場した研究者のユニフォームのKanekaという文字がさり気に映っていたのがNHKらしきところ。

 なお耐久性が劣るというのは、宮坂氏によると何十年も持つシリコンに対し、ペロブスカイトは10年~15年とのこと(リチウムイオン電池なんかのことを考えたら、十分に長い気もしないでもないんだが)。宮阪氏も「安く作ってヘタったら交換する」という考え方もあるというようなことを言っていたが、これは私も同感。ペロブスカイトの原料が何かの細かい説明がなかったが、レアメタルを大量に使用するとかの資源的問題がなかったら、ヘタったら使い捨てでも実用化が可能な気がする。


 以上、弱い光に対応できる新型太陽電池について。日本で発明されたものだけに、日本が研究をリードして中国などに負けてもらいたくないのだが、国を挙げて開発に力を入れる中国に対し、日本は研究者の人数も少ないという。日本は政府がアホなせいで、研究開発の足しか引っ張らないので心配である。この分野は今や基礎研究ではなくて既に実用化を目指している段階なので、近視眼で目の前の利益しか考えない馬鹿政府でも、その利益の大きさは分かりそうなものであるが。

 

 

忙しい方のための今回の要点

・現在のシリコン型太陽電池が弱い光だと発電効率が落ちるという欠点を克服するために、弱い光でも発電が可能なペロブスカイト太陽電池が注目されている。
・ペロブスカイト太陽電池は日本の桐蔭横浜大学の宮坂力特任教授が開発したもので、非常に薄くて曲げることが出来る上に、作るのも簡単だという。
・ペロブスカイト太陽電池はその薄さのおかげで光を効率よく使用できるので、弱い光でも発電が可能だという。
・目下の課題は大型のものを作ることと、耐久性を上げることだという。何十年も持つシリコン型太陽電池に対し、ペロブスカイト太陽電池の寿命は10~15年ぐらいとのこと。


忙しくない方のためのどうでもよい点

・薄膜状で作れるということは様々な可能性を感じます。例えば家の天井や外壁にシールのように貼って発電なんてことが出来そうです。車の屋根やガラスに貼るというアイディアも出ていたようですが、確かにいろいろ考えられそうです。

次回のサイエンスZERO

tv.ksagi.work

前回のサイエンスZERO

tv.ksagi.work