教養ドキュメントファンクラブ

自称「教養番組評論家」、公称「謎のサラリーマン」の鷺がツッコミを混じえつつ教養番組の内容について解説。かつてのニフティでの伝説(?)のHPが10年の雌伏を経て新装開店。

このブログでの取り扱い番組のリストは以下です。

番組リスト

10/11 BSプレミアム ヒューマニエンス「"糖"ヒトが手にした禁断の果実」

大脳にとって必要だが、危険物質でもある糖

 今回のテーマは何とも魅惑に満ちた存在、糖である。しかしここまで甘い物を食べるのは人間だけだという。しかも糖は身体にとっては決して健康的とは言い難い存在でもある。ヒトと糖の関係とは。

 最近になって敵視されることが増えた糖であるが、その一方でヒトにとって不可欠の栄養素という側面もある。ヒトの脳はエネルギーとしてブドウ糖しか受け付けない。ブドウ糖がなくなると脳は5分で死ぬという。体内で消費されるブドウ糖の1/4は脳が消費している。脳の血管の壁は強固で、特定の物質しか通過させない。これを血液脳関門という。脳は特に何も考えていないような時でも、大量のブドウ糖を消費している。脳がブドウ糖をエネルギーにするのは、ブドウ糖は代謝で簡単にエネルギーに出来るかだという。これに対してケトン体などはかなり複雑な代謝を経る必要があるので、即効性が低いのだという。

 そのような大事なブドウ糖であるが、その一方で厄介な存在でもある。タンパク質をブドウ糖の溶液に浸しておくと糖化してボロボロになる。これが動脈硬化の原因であるともいわれている。血糖値が高い状態が続くと動脈硬化が進行することになる。そのコントロールをしているのが膵臓から分泌されるインスリンである。インスリンは血液脳関門を開く働きをしており、ブドウ糖は大量に脳に取り込まれるが、それでも余った場合には脂肪細胞が取り込むので肥満することになる。

 

 

ブドウ糖を大量に摂るようになったキッカケ

 ブドウ糖を大量に摂るようになった人の生活。そのキッカケは火の使用が関係しているという。ヒトは200万年前から100万年前の間に火を使うことを覚えたと思われているが、火を使うことによってデンプンの固さが変化して柔らかくなり(でんぷんの結晶構造が変化する)、ブドウ糖の吸収率も上昇する。そしておいしさも上がる。ちなみにチンパンジーに加熱した芋を与えると、生の芋に見向きもしなくなると言う。このような加熱調理によってヒトの脳がブドウ糖漬けとなり、脳が巨大化していったのだという。アダムとイブが食べた物はリンゴでなくて焼き芋だったというのである。

 しかし実は我々はブドウ糖を摂らなくても生きていけるのだという。野生の肉食獣はほぼタンパク質しか摂らないし、草食動物が摂る食事もほとんどが食物繊維である。しかし彼らの体内にはブドウ糖がキチンと存在している。肝臓では肉食動物はタンパク質から草食動物はプロピオン酸などから糖新生を行ってブドウ糖を合成するのだという。そしてその能力は我々も持っているという(空腹の朝などはこれでブドウ糖を確保しているという)。しかしヒトは積極的にブドウ糖を摂取する。それはブドウ糖を得ることでセロトニンなどの幸福ホルモンが分泌されるようになっているからだという。

 人間は自らブドウ糖を求めるので、味覚などもブドウ糖に反応するようになっているが、野生の動物はブドウ糖に対する反応が鈍いという。

 

 

 と言うわけでブドウ糖は中毒性もあると言われている厄介で危険な物質でもあるが、ヒトにとっては即効性のエネルギーでもあるという微妙な存在である。かく言う私なども明らかにブドウ糖中毒になっている口であるのは間違いない。

 まあヒトが脳をここまで巨大に進化させられたのは、即効性エネルギーであるブドウ糖を容易に大量摂取できるようになったと言うことも一因なんだろう。人類の進化を見ると、ある時期に爆発的に脳が巨大化しているのだが、この時に栄養面、身体機能面等々の面において、脳が発達できる環境が一挙に整ったというようにも感じられる。

 近年はとかく糖は敵視されているが、かと言って糖を完全に排除するのが健康的とも思えない。要はすべてに通じるのが「適度なバランス」ってところに落ちるのか。

 

 

忙しい方のための今回の要点

・脳はエネルギーとしてはブドウ糖しか受付おらず、脳で身体全体で消費するブドウ糖の1/4tが消費されいる。
・しかしブドウ糖はタンパク質と反応して劣化させる危険物質でもあり、動脈硬化の原因とも見られている。そこで体内では過剰なブドウ糖はインスリンの働きで脂肪細胞が取り込むようになっている。
・ヒトがブドウ糖を大量に摂取するようになったのは、火の使用が関係している。加熱調理することでデンプンは柔らかく、吸収しやすくなり、さらに味も良くなるという効果がある。このためにヒトは大量のブドウ糖の摂取が可能となり、それと共に脳も巨大に発達した。
・肉食動物はタンパク質しか摂らないし、草食動物の食糧も食物繊維がほとんどである。しかしこれらの動物は肝臓でタンパク質やプロピオン酸からブドウ糖を糖新生しており、体内に一定量のブドウ糖を保持している。同様の機能は実はヒトも持っている。
・ヒトが積極的にブドウ糖を摂取するのは、それによってセロトニンなどの快感ホルモンが放出されるからだという。


忙しくない方のためのどうでもよい点

・しかしそれにしても、ヒトってつくづく欲の動物だと思うわ。ヒトの行動ってほとんど欲に支配されているから。

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