教養ドキュメントファンクラブ

自称「教養番組評論家」、公称「謎のサラリーマン」の鷺がツッコミを混じえつつ教養番組の内容について解説。かつてのニフティでの伝説(?)のHPが10年の雌伏を経て新装開店。

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10/23 サイエンスZERO「極限環境で"生きる"に挑む 微生物たちのサバイバル」

恐竜絶滅以前から生きていた微生物

 とても生命なんて存在できないと思われる環境で生きる極限生物の発見が相次いでいる。生命とは何かについても考えさせるそのような極限環境の生物たちについての研究を紹介。

 まず最初に登場するのは恐竜絶滅以前の微生物が海底で生きていたと言う話。海洋開発機構の諸野祐樹氏によると、1億150万年前の地層から生きた微生物が発見されたというもの。南太平洋の栄養が極めて少ない海底の地層を調べたところ、その中に微生物が発見されたという。回りの地層はギチギチで身動き取れない状況なので、これらの微生物は間違いなく1億年以上前からいたものだという。そこでこの微生物に栄養としてのアミノ酸を与えたところ、それを体内に取り込んだという。つまりは生きていたのである。60日で1万倍に増殖したという。栄養もない状態で増殖も出来ずに1億年生き続けていたことになる。この微生物が生きていた環境は非常に栄養が少なく、微生物が人間ほどの大きさだったとしたら、餌は1日にご飯粒30粒程度だという。こりゃ人間だったらすぐに餓死である。

 

 

宇宙でさえ生存できる微生物も

 これ以外には122度でも増殖できる微生物、pH12.5の強アルカリ環境(皮膚が溶ける)でも増殖可能な微生物、pH-0.06の強酸性下でも増殖できる微生物などが地球各地で発見されているという。さらに世界各地の砂漠で見つかっているデイノコッカス・ラディオデュランスという微生物は乾燥、紫外線、放射線に強く、特に放射線に対する強さは人の1000倍で、放射線でDNAが切断されてもPprAというタンパク質の働きでDMAを修復するのだという。宇宙空間に放置したが3年経っても1%ぐらいが生き残ったという。さらに岩陰などに隠れて紫外線を避けることが出来れば、最大48年間宇宙空間で生存可能だという。この微生物なら例えば火星から地球に到達することも可能で、生命の起源が宇宙にあるという可能性の傍証でもあるとのこと。

 諸野氏の研究したサンプルの中では120度以上の環境で繁殖していた微生物が発見されている。サンプルの深さが増すほど温度が上がるが、最初は深くなるほど数の減少していた微生物が、120度ぐらいのところで逆に増えたのだという。この生物は熱水噴出口などで生息する超好熱性の微生物であり、これらが胞子の状態で散らばったが、通常では競争相手がいて繁殖しにくかったのが、高温になって競争相手が消滅したところで発芽して繁殖したと考えられるという。過酷が故にライバルが存在しないので自分達の天下というわけである。

 さらにこれらの微生物が生命の起源に迫る可能性もあると言う。東京大学の鈴木庸平准教授が研究しているDPANNという微生物は生命の共通祖先に近いものだという。これらが見つかったのは熱水噴出が止まった熱水噴出口であり、エネルギー源がほとんどないところなのだが、ここの黄銅鉱の中で発見されたのだという。DPANNが見つかった黄銅鉱の中には酸素がないことから、銅で呼吸したのではないかと推測しているという(銅イオンの価数変化からエネルギーを引っ張り出す)。つまり生命は環境によってあり得ないような適応をすると言うことであり、この世界は想像以上に生命に満ちているかもしれないという可能性が出て来たのだという。

 

 

 以上、極限環境で生きている生物について。こうして見ていると、我々の生存環境からかけ離れたあり得ない環境で生きている生物が意外と存在するという話だが、実は彼らから見たら我々こそがあり得ない極限環境に対応して生きているのではという気まで起こってきた。我々が生息できる環境は、ある一定の温度幅の中で一定の酸素濃度と十分な栄養分が存在するという、自然界的に見るとかなり特殊な環境に限定されているのだから、その方が実は極限環境なのかも。

 それにしても実は生命なんて存在しないと考えられていた宇宙空間にも生命が存在するとなったら、今までの生命観ってものが完全にひっくり返ることになりかねない。生命とは何だという哲学的課題が改めて突きつけられることになりそうでもある。

 

 

忙しい方のための今回の要点

・世界各地で生命などは生存できないと思われていた極限環境で生存する微生物が発見されている。
・南太平洋の海底からは1億年前の微生物が発見され、栄養を与えたところ取り込んで増殖したことから生存していたことが確認された。
・さらに超高音、超アルカリ、超酸性でも生存できる微生物も発見されており、宇宙空間で48年も生存できる微生物までも見つかっており、生命が地球外から来た可能性の傍証にもなっている。
・彼らは極限環境で生存することで、ライバルがいない環境下で生き抜くという生存戦略をとったことになる。
・生命の共通祖先に最も近いとされるDPANNという微生物は、酸素の存在しない黄鉄鉱のなかで発見されており、銅を使った呼吸をしていたのではないかと推測されているという。


忙しくない方のためのどうでもよい点

・あり得ねぇと思われるような環境で生きる生物が存在するということは、我々の理解を絶するような形態の生物が存在する可能性もあるでしょうね。となると、知的生命体という考えについても、我々の理解の及ばないタイプの知性ってのも存在するのではという気もしてきた。よく異星の知的生命と戦争になったり共存したりってSFがあるが、そういう概念さえ適応不可な相手だったら、人類はどう対処できるんだろう?

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