人工衛星を破壊するキラー電子
地球に注ぐ電子の中に、非常にエネルギーが高いので人工衛星の外殻などを通過して、中の電子機器に損傷を与える危険な電子が存在し、それらは「キラー電子」と呼ばれている。このキラー電子発生のメカニズムは、脈動オーロラと呼ばれるタイプのオーロラと関係があるという。そこで脈動オーロラを観測してキラー電子を測定するロケットが打ち上げられた。
しかしこのキラー電子、発生のメカニズムが長年の謎だったという。と言うのも太陽では太陽風の1万倍以上のエネルギーを持つというキラー電子は発生しないことが分かっていたからだという。低エネルギーの電子が地球にやって来て高エネルギー化しているのだという。その発生場所はバンアレン帯だという。今から100年ほど前に見つかったコーラス電波がどうやら関与していると言うことが明らかとなってきたという。コーラス電波とは通信に混入する鳥の鳴き声のような音を出す電波で、第一次大戦中に敵の通信を傍受しようとしていて発見されたという。
キラー電子の発生にコーラス電波が関与しているのかを調べるために打ち上げられたのが、ジオスペース探査衛星「あらせ」。コーラス電波とキラー電子を直接観測するために打ち上げられたという。その観測データによると、コーラス電波が発生中には高エネルギー電子が産まれていることが分かったという。これから推測されるキラー電子発生のメカニズムは、バンアレン帯で地球の磁場が太陽風の電子を捕らえる。電子が集まって不安定になることで磁力線上に周期的に電波が産まれ、これがコーラス電波である。そしてこの電波は磁力線に沿って極域に向かい、また電子は磁力線に沿って進むが、これがコーラス電波と出会うと加速されるのだという。これで電子のエネルギーが高まってキラー電子が産まれるのだという。
脈動オーロラとキラー電子の関わり
ここでさらに脈動オーロラというのが絡んでいるのだという。この脈動オーロラが現れる時にエネルギーが高い電子が大量に降ってきていることが分かったという。これが相関するとすれば、直接観測不能なキラー電子を脈動オーロラ発生で観測することが出来ることになる。そこで脈動オーロラとキラー電子の関係を確認するために脈動オーロラ発生時に磁力線に沿ってロケットを打ち上げ、直接に電子を測定するというプロジェクトが実施された。
その結果であるが、キラー電子が降り注いでから、0.6秒後にオーロラの低エネルギー電子が降り注いでいたことが分かったという。磁力線上でコーラス電波と出会った電子が降り注ぐことになるが、キラー電子の方がエネルギーが高いために先に降り注ぐと推測されたという。
以上、キラー電子について。キラー電子は人工衛星などの電子機器に深刻な影響を与えるので、キラー電子発生のメカニズムが解明されることで災厄の発生の予知とか、回避とかにつながる技術の確立が期待されるところであろう。
にしても宇宙で起こることってどうも感覚的に理解しにくい。正直なところコーラス電波が電子を加速すると言ってもどうにもピンとこないのが本音。どうも昨今は私理解力や想像力の限界を感じることが多くなってきた。
忙しい方のための今回の要点
・人工衛星などを損傷する危険な高エネルギー電子、キラー電子の生成メカニズムの解明の研究が進められている。
・観測の結果、キラー電子は地球のバンアレン帯で生成していることが明らかとなった。
・バンアレン帯にはコーラス電波が発生していることが分かっており、そのコーラス電波が磁力線に沿って極地に移動する時に電子を加速してキラー電子が発生すると推測された。
・また脈動オーロラ発生時には高エネルギー電子が降り注いでいることが分かったことから、脈動オーロラとキラー電子の関係を証明するためにロケットを打ち上げての観測が行われた。
・その結果、オーロラを生成する低エネルギー電子の0.6秒前にキラー電子が降り注いでおり、脈動オーロラとキラー電子の関係が証明された。
忙しくない方のためのどうでもよい点
・この番組の内容って難しいことが多いですが、今回は宇宙関係だけでなくて物理関係の要素もあるのでやはり難しいですね。正直なところバックグラウンドが化学の私には少々しんどい。
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