セルロースの新しい活用法
今回は新素材として注目されているセルロースナノファイバーについて紹介する。セルロースは植物の骨格となっている物質であり、無尽蔵とも言える資源でもある。このセルロースをナノサイズにまで細かくしたナノファイバーがあらゆる材料に使用されようと研究されている。
セルロースナノファイバーの研究を行っているのは大阪大学の能木雅也教授。セルロースナノファイバーのセルロースは樹木から取っているという。元々は20年前に始まった研究で、国内森林資源の有効活用が目的だったという。しかし樹木から簡単に繊維を取り出すのが困難だったのだが、東京大学の磯貝明特別教授が電気の反発力を使ってセルロースナノファイバーを簡単に取り出す方法を開発した。これでセルロースナノファイバーが素材として使用されるきっかけとなった。特にプラスチックに添加することで強度が向上する効果が注目されたという。現在、タイヤなどのゴム製品から、食品添加物としてまで使用されている(セルロースは食物繊維だから無害)。
ナノファイバーを使ったナノペーパーの活用
能木氏の研究はセルロースナノファイバーを添加物とするのでなく、それ自体を素材にするものであるという。能木氏が作ったのはセルロースナノファイバーによるシート。紙を作る要領でシートを作ると、紙だと繊維が広いので乱反射で白くなるが、セルロースナノファイバーの場合は繊維が密なので透明なシートであるナノペーパーが出来たのだという。ナノペーパーの特徴としては、プラスチックシートのような伸縮性がなくて丈夫だという。
このナノペーパーの用途としては、能木氏は熱に強い(熱をかけても伸びない)ことから電子回路などの電子デバイスに使用することを試してみたという。また土に帰る湿度センサーなんかの研究も行われているという。ナノペーパーはセルロースなので虫からしたら枯れ葉と同じなので餌になるのだという。回収できないような場所に置いて測定後、放置していたら自然に帰るというわけである。またナノペーパーを焼成してカーボンにすることで半導体にするという研究も行われている。焼き方で抵抗をコントロール出来るのでデバイスとして有用であるという。
医療分野への応用
さらに医療分野への応用の研究も進んでいる。ナノファイバーを人工軟骨に使用しようという研究がなされている。ナノファイバーはマイナスの電気を帯びているために、電気を流すとプラス電極に集まる。こうして電極にナノ線維ハイドロゲルを作成するのだという。ここで電極を大腿骨の形にしたら、軟骨のようなものが出来るのではと言う。さらには電圧をコントロールすることで線維の方向をコントロールし、実際の軟骨のように三層構造を再現したという。目下のところ強度などの問題もあるが、開発継続中とのことである。
以上、古くて新しい素材であるセルロース。以前からセルロースをプラスチックの添加物として使用するというのは聞いたことがあったが、セルロースナノファイバーによるナノペーパーというのは初めて聞いた。なかなかに素材として面白そうである。
ただ素材として気になったのは、要は紙であるから耐水性がないのではないかということ。電子回路などに使用した場合に吸湿などによる劣化がないかという辺りは気になるところである。自然に帰るというのは処分を考えた時には非常に有利であるが、気をつけないと使用中に回路が紙魚に食べられるなんてことも起こりうるような気がしてならない。
忙しい方のための今回の要点
・木材を原料としたセルロースナノファイバーが新しい素材として注目されている。
・今までもプラスチックの添加物として使用して強度を向上させたり、食品添加物などにも使用されていたが、この度ナノペーパーという透明なシートが誕生した。
・伸縮性がなく熱に強いことから電子回路などに使用できるのではとしている。
・さらに虫が食べることが出来るので、環境に優しい使い捨てセンサーとしての用途なども考えられている。
・また焼いてカーボンにすることで半導体として使用するという用途開発も研究されている。
・医療分野への応用として、電気を使ってハイドロ線維ゲルを作成することで、人工軟骨として使用できないかという研究もなされている。
忙しくない方のためのどうでもよい点
・なかなか興味深い素材という印象です。端材や間伐材などを原料にしたらまさに資源量としては無尽蔵です。
・セルロース以外にも自然界のもので素材として使用可能なものが他にあるのではなんて思ったりします。
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