教養ドキュメントファンクラブ

自称「教養番組評論家」、公称「謎のサラリーマン」の鷺がツッコミを混じえつつ教養番組の内容について解説。かつてのニフティでの伝説(?)のHPが10年の雌伏を経て新装開店。

このブログでの取り扱い番組のリストは以下です。

番組リスト

2/15 NHK 歴史探偵「皇帝ネロの黄金宮殿」

皇帝ネロの黄金宮殿の謎に迫る

 今回は世界史スペシャルとのことでヨーロッパ進出・・・ってこの番組でそんなことないだろうと思っていたら、案の定最後に種明かしがあるんだが。まあそれはともかくとして今回のテーマはネロの黄金宮殿だとか。

 皇帝ネロと言えばローマ帝国の暴君として有名で、残虐非道とかボロクソに言われているが、その原因については本番組でも最後に触れているが、実際のところは「キリスト教を保護しなかった」というのが一番だろう。ネロはキリスト教徒を弾圧したと言われており、実際に殉教者も出ている。ローマ帝国はその後にキリスト教が支配する形となり、またその後にキリスト教が権力の中枢そのものに居座ったことから、キリスト教を認めなかったネロが後にボロカスに言われて悪魔のように扱われるのも当然といえば当然である。

 さてネロの黄金宮殿であるが、それは今はコロッセオがあるその下にあった巨大な宮殿だという。これが近年になって発掘調査が進んできて、それと共に皇帝ネロの人となりも見えてきたのだという。

 

 

あのラファエロも魅了した壮大な黄金宮殿

 内部は150以上の部屋がある超巨大なもので、壁画などで飾られていたという。広間の天井には見事な装飾が施されている。もっとも下からは距離がありすぎてその緻密さは分からないので「職人がただ自分の楽しみのために描いたのではないか」と思うほどだとか。さらに奥には心臓部の巨大なホールがあり、八角の間と呼ばれている。直径14メートルの巨大空間である。屋根はドーム状になっているが、2000年間崩れずにいたという。ローマのコンクリートで作られており、それが頑丈さの秘密だという。当時のローマではベスビオス火山の火山灰であるポッツォラーナに水と石灰を加えたローマコンクリートが建造物に用いられていた。ちなみにこのローマコンクリートは亀裂が入ったら石灰が析出することで塞ぐ一種の自己修復機能があり、その耐久性は現在のコンクリート以上という話が、昨日のヒューマニエンスの「再生」の回でゲストから出ていたが、非常に耐久性に定評があるものである。これが2000年崩れなかった秘密だという(他にもそもそもの力学設計が優れているなどもあると思うが)。

 なおホール内部からは見えない位置に天窓があり、そこから取り込んだ明かりでホール周辺の小部屋が照らされる構造になっており、人工的に作られた滝に夏至の日には光が差して輝くことが黄金宮殿と呼ばれた理由だとか。実際に装飾に黄金を使うなんてことは非常に「ありふれていた」ことから、単にそれだけでは黄金宮殿などと呼ばれはしないとのこと。黄金宮殿は光の演出を巧みに利用した、実に巨大で豪華なものであり、ネロの皇帝の権威を示すために有効に機能したろうという。

 ちなみにこの黄金宮殿は後のヨーロッパ美術にも多大な影響を与えているという。と言うのは、1480年頃に突然に陥没でこの宮殿が発見され、その当時は宮殿の半分方が土砂で埋まっていたために、現在は遠くにある天井画を間近で観察できたことから、ルネサンス期に多くの芸術家がここに潜り込んで模写などをしたという。その中の一人にかのラファエロもいるという。

 

 

回転食堂の謎とネロの都市計画

 なお黄金宮殿のことを伝える古代の文献には「回転する食堂」の記録がある。その存在は疑問視されていたが、最近になって20メートルの塔が発見され、そこに水力で回転する床を備えた食堂があったのではとされている。なお昨年に新たな説も発表され、その説によると回転食堂は八角の間であり、回転していたのは床ではなくて巨大な釣り天井だったとされている。

 またネロはローマの中心部であるフォロロマーノの都市計画をやり直したことでも知られている。かつてのローマは無計画に建物が並ぶ雑然とした町であり、その市街が西暦64年に大火で町の2/3が焼失することになる。ネロはこの機会にローマの町を災害に強い都市として再設計する。その時に町の中心部に据えたのが黄金宮殿であったのだという。ネロはこのように革新的な指導者でもあった。

 しかし革新的な指導者は怏々として既得権益層と衝突することになる。ローマの大火もネロが都市を造り直すために放火したという説まで残っているという。しかし真実は、ネロは火災に災して別荘から慌てて駆けつけて、火災対応の陣頭指揮を執ったという。しかし都市改造の際に貴族の土地を使用して寄付も求めたことから、既得権益層である元老院との対立を生んだという。またネロは自ら民衆に歌を披露するなどして大衆の人気を得た。またオリンピックに参加することでギリシア文化を重視することを示した。これらはことごとく保守的な元老院から反発されることになり、反乱が続発、ついにはアフリカ駐留司令官が小麦の輸出を止めるに至り、ネロは自害に追い込まれる。そしてネロの功績は歴史から抹殺されることになって、暴君としての名だけが残ったという。

 

 

 以上、ネロの黄金宮殿についてだが、最後に渡邊アナからこの番組でこんな話が登場したネタばらしが行われる。3/4にBSプレミアムで「皇帝ネロの黄金宮殿」という番組が放送されるとのこと。つまりはそのために取材した内容から流用したお手軽企画だったことが発覚するといういつものパターンである。佐藤二朗が思わず「また番宣ですか!」と言ってしまっていましたが、これだけは私も彼に同意。しかも全く懲りずに次週も「大奥」とのコラボ企画だと言ってるし・・・もう既に番組そのものが他の番組の番宣となってしまっているという末期症状。

 

 

忙しい方のための今回の要点

・現在コロッセオがある地下にネロが築いた黄金宮殿が存在する。
・黄金宮殿は150以上も部屋がある巨大なもので、内部は装飾や壁画で飾られている。
・心臓部には八角の間と呼ばれる直径14メートルの巨大なホールがあり、ローマコンクリートを用いて作られたドームは2000年も崩れることがなくそのまま残った。
・このホールには隠れた天窓から取り込んだ明かりで人工の滝を輝かせる仕掛けがなされており、このような光の演出が黄金宮殿と呼ばれた由来である。
・この宮殿は1480年にたまたま陥没で発見され、その優れた天井画などは当時の芸術家に影響を与えた。ラファエロも密かに忍び込んで魅了された一人である。
・古代の文献には回転する食堂があったとの記述がある。以前はその真偽が疑問視されていたが、近年の発掘で見つかった棟に床を水力で回転させる食堂があったとの説が出されている。さらに昨年には八角の間の釣り天井が水力で回転していたという説が登場した。
・ネロは西暦64年のローマの大火を期に、ローマの町を災害に強い町として再開発をした。しかしその過程で既得権益層の貴族の反発を受け、保守的な元老院と対立、結果として反乱が相次いでついには自害に追い込まれた。そのために暴君としての伝説が残され、放火の容疑までかけられる羽目となった。


忙しくない方のためのどうでもよい点

・結局は3/4に放送される番組からエッセンスを引き出して、それに佐藤二朗の無駄話を加えたらこの番組が出来上がりますという話。どうもこの番組になってから、延々と大河ドラマの宣伝企画を繰り返したりなど、番組そのものが他の番組の番宣になってしまっている場合が非常に多い。この辺りも著しい内容の空洞化なのであるが。
中世ヨーロッパではキリスト教に刃向かったらどんな名君でも暴君ということにされます。逆にキリスト教を保護さえしたら、どんな圧政で残虐な暴君でも慈悲深い名君ということになります。

次回の歴史探偵

tv.ksagi.work

前回の歴史探偵

tv.ksagi.work