教養ドキュメントファンクラブ

自称「教養番組評論家」、公称「謎のサラリーマン」の鷺がツッコミを混じえつつ教養番組の内容について解説。かつてのニフティでの伝説(?)のHPが10年の雌伏を経て新装開店。

このブログでの取り扱い番組のリストは以下です。

番組リスト

3/28 BSプレミアム ヒューマニエンス「"アート"壮大な"嘘"が教えてくれるもの」

アートと脳の関わり

 時折突拍子もないテーマが登場するこの番組だが、今回のテーマは「アート」とこれまた突拍子もない印象。アートが科学とどう絡むんだ?と最初から疑問符一杯だが、いかにもこの番組らしい切り口から迫ることになる。アートは人間の本質を映す鏡なのだという。

 まずアートの原点であるが、南アフリカの10万年前の洞窟から発見されたのは最古の化粧道具である。異性へのアピールという目的が最初のアートの狙いだったという。それが4万年前になると壁画を描くようになる。ここで影響しているのは我々が言葉を使うようになったことだという。言葉によって世界を正確に捉えられるようになったことで、目の前に見えていないことまで描くことが出来るようになったのだという。例え顔の輪郭のみの絵を与えると、チンパンジーは顔の輪郭をなぞるだけだったが、言葉を話すようになった人間の子供は目や鼻を描くようになった。人類は言葉を使うことで目や鼻などの概念を把握できるようになり、目の前に存在しなくても構想できるようになったのだという。さらには人間の身体にライオンの頭を組み合わせた像などもあり、これは言葉に対する管理に対する叛逆だというのだが・・・何か今ひとつシックリと理解出来んな。

 

 

美と善は同じ認識なのか?

 アートに反応する脳の働きを調べたところ、眼窩前頭皮質が美に反応しているということが分かったという。この眼窩前頭皮質は報酬系でありドーパミンを分泌するので、その快感が我々がアートを求める理由だという。またこの眼窩前頭皮質は行動の善悪にも反応するのだという。例えば「彼は自分の命を危険にさらして溺れている人を助けた」「彼は老人から金をだまし取った」という文章を見て、その行動が賞賛に値すると感じた時に眼窩前頭皮質が反応したのだという・・・ってことはやっぱり正しい行動というのも美ということか。

 なお醜いものに対しては運動野が反応したという。つまりは醜いものを見た時には逃げる準備に入っているようだ。ただこれは眼窩前頭皮質と同時に働くことがあるので、醜いのに美しいなどというおかしなことも起こるとか。

 またテクノロジーの進歩はAIが芸術作品を生むところまで進化している。ただ今のAIはデータベース型であり、何かのキーワードに対して平均イメージを引き出していることから突出した芸術性は薄い。突出した芸術には審美眼が必要だが、これがAIには存在しない。我々の審美眼とは経験から生み出した自分がいる環境が生存に適しているかどうかの判断の積み重ねが審美眼につながるのだという。例えば穏やかな天気を現すスカイブルーはあらゆる文明で好ましいものと見られているが、荒れ地や排泄物を象徴する黄土色は好ましくないものと捉えられている。現在、AIに審美眼を学習する研究もなされており、元になる人の審美眼に基づいた作品を生み出すのだという。

 

 

芸術性が戦争を防いだ?

 ここで唐突に登場するのが芸術が爆発している縄文土器。実用には不必要な装飾がなされているが、この芸術性が集団内の結束を高め、他の集団との争いを抑止したのではという説もあるという。実際に縄文時代にはほとんど戦争は存在しなかったと見られる。土器の作制は女性であり、部族間の争いの代わりに土器の芸術性を競うことで戦争を抑止していた。そして弥生時代になって土器が実用本位になることによって戦争が起こったというのであるが、これも私には今ひとつピンとこない話である。別の専門家が芸術が平和を生んだのではなくて、平和だったから芸術が発生したのではと言っていたが、どちらかと言えば私はこっちの考えに近い。

 さらに人はアートに純粋な表現以外に物語を見てしまうところがあるという。作品に纏わる文脈によってアートの価値は上下する。あのモナリザなども美術館から持ち出されるという話題があってから有名な作品となったという。ある作品を鑑賞してもらって視線を調べた時、最初は絵の全体を見ているのに対し、その作品の文脈を伝えるとその文脈に関わるところに視線は集中し、作品に対する印象も変化したという。作品のタイトルなどもこの物語の一種と言えるとのこと。


 やはりテーマがアートだけあって、内容にも観念的なものが増えてしまって、やはり科学番組としては今ひとつシックリこない内容が増え、私も首をひねることが多かったのが今回である。まあアートが人間の脳の働きなどと密接に関わっていることは想像がつくのであるが、今回取り上げたアートが前衛系中心だったのが余計に私にシックリこなかった理由の一因かも知れない(笑)。前衛系アートで、私の心にビンビン来るものはほとんどないだけに。まあ番組にも登場した審美眼は人ごとにその経験の背景が違うんだから当然異なるわけであり、私の審美眼にはほとんどの現代アートは響かないということである。

 

 

忙しい方のための今回の要点

・アートの最初期は異性へのアピールが目的であったが、人が言葉を使うようになってから、世界を概念的に捉えるという要素が加わった。
・人がアートに美を感じた時、眼窩前頭皮質が反応することが分かった。この眼窩前頭皮質は善に対しても反応し、賞賛すべき行動などに対して反応する。
・AIの進化によりAIが芸術作品を生み出すようになったが、これらはすべてデータベース型であってキーワードから平均的なデータを引き出しているだけで、新たな美を作り出すわけではない。このようなものを生み出すには経験に基づいた審美眼が必要である。
・縄文土器は実に芸術性が高いが、この芸術性の高さを競うことで集落の戦争が抑止されていたという興味深い説が唱えられている。
・また人はアートに純粋な表現以外の物語を見てしまう。作品に纏わるエピソードを聞くことで、作品の見方も印象も一変してしまう。


忙しくない方のためのどうでもよい点

・今回はこの番組ではたまにある「分かったような、分からないような、納得したような、納得できなかったような」という典型的な内容です。どうも芸術の概念は科学とは相性が悪いようだ。もっとも私自身も芸術好きの理系という矛盾した存在ですが。

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