教養ドキュメントファンクラブ

自称「教養番組評論家」、公称「謎のサラリーマン」の鷺がツッコミを混じえつつ教養番組の内容について解説。かつてのニフティでの伝説(?)のHPが10年の雌伏を経て新装開店。

このブログでの取り扱い番組のリストは以下です。

番組リスト

4/16 サイエンスZERO「常識を超える驚異の生き物!ホヤが解き明かすヒトの謎」

ヒトから遠くて実は近いホヤ

 今回は珍味のイメージの強いホヤ。どう見てもヒトとは似ても似つかない生物であるが、実は進化的には人類にかなり近い種族であり、ヒトの生命の解析のためにも非常に有用なのだという。と言われてもピンとこないが、ホヤの幼生は脊索や頭脳があり、脊椎動物としての構造をなしているのだという。それでいて構造が実にシンプルなので研究向きなのだという。

海中のマボヤ

 またホヤの幼生は全細胞で3000個ほどしかなく、脳の神経細胞は人の1000億個に比べて170個と実にシンプルなので、全細胞の将来への分化が明らかになっているので、ここの細胞レベルでの追跡が可能なのだという。

 

 

ホヤを研究することでヒトのメカニズムを解明する

 これを使ってヒトの歩行などの自動的なリズミカルな動きのメカニズムについて解析をするという研究がなされた。ホヤの細胞を調べたところ、規則的に反応を示す細胞がありこれがCPGというリズミカルな信号を制御する細胞ではないかと考えられたという。そこでこの細胞から筋肉に送られる信号を解析したところ、これが確かにCPGであることが判明したという。これを制御することで例えば歩行が出来なくなった人の歩行機能回復などの研究につながるのではという。

 またホヤのエラの繊毛運動を観察したところ、ホヤに刺激を与えると停止することが分かった。研究の結果、アセチルコリンがこれに関与していることが分かったという。この時に働いているのがα7型アセチルコリン受容体であることが判明したが、これはヒトの脳に多く見られ、アルツハイマー病などにかかわっていると考えられているという。アルツハイマー病患者ではこの働きが悪くなるのだという。今までそれは分かっていてもヒトの脳は複雑すぎるので観察が難しかったのだが、ホヤを利用することでその働きを解明してアルツハイマー病研究につなげられるのではという。

 

 

臓器再生や抗がん剤まで

 またホヤの幼生は頭の部分に刺激があった時に、身体が縮んで変体するのだという。この変態の時に起こるメカニズムを解析したら、臓器再生とかに応用できるのではという。さらに群体ホヤは全臓器を再生する凄まじい再生能力を持っており、身体の一部分から一週間ほどで再生が可能だという。研究の結果、再生の初期では幹細胞の中のIA6というタンパク質を持つ細胞が再生に関わることが分かったという。これが細胞を集めて、それらが分化するのだという。これが解明できればヒトに応用できるではという。

 さらにホヤはいろいろな珍しい物質を体内に持っているという。これらはホヤ自身ではなく共生しているバクテリアなどが作り出すものだという。中にはデングウイルスの抗体やら抗がん剤に使用できるものなど様々なものがある。ホヤはこれらの物質を持つことによって環境に適応してきたのではという。

 

 

 以上、ヒトから遠そうに見えて、実はヒトに近いという奇妙な生物ホヤについて。ちなみに私はホヤについては青森を訪問した際に話のネタとして食べたことがあるのだが、正直なところどうにも生臭くて私の好みには合いませんでした。

     
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 ホヤは細胞の数が少ないのでその分化などを観察するのが容易といっていたが、そのような単純な生き物が我々と進化の過程で近いというのは興味深いところ。もっとも近いといってもヒトとチンパンジーとかと違って、海綿やらイカとかよりはヒトに近いっていう次元ではあるが。

 

 

忙しい方のための今回の要点

・ホヤは進化上は人間に近い生き物であり、幼生は脳や脊索を持つ。細胞数が少なくて観察しやすいことから、ヒトの謎を解明するための研究によく使用される。
・ホヤを使って歩行などのリズミカルな運動を制御する中枢について研究したところ、周期的に信号を発する細胞が発見された。今後、歩行障害などの治療への応用が期待されている。
・またホヤのエラの繊毛の動きを制御に関わる器官が、ヒトの脳にも多く存在してアルツハイマー病に関わっているα7型アセチルコリン受容体であることが分かった。今後、ホヤの観察によって認知症治療につなげられないかと考えられている。
・ホヤは成体になるときに完全変体をするが、そのメカニズムも解明されつつあり、これを臓器再生などに結びつけることも期待されている。
・またホヤは体内に共生するバクテリアが合成する様々な物質を持っており、これらから抗がん剤なども発見されている。


忙しくない方のためのどうでもよい点

・見れば見るほど奇妙な生物ですが、なかなか興味が尽きないようです。しかし研究者の中にあからさまな「ホヤ愛」のヒトがいて、どの世界にもいるんだよな、ああいうタイプ。

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