教養ドキュメントファンクラブ

自称「教養番組評論家」、公称「謎のサラリーマン」の鷺がツッコミを混じえつつ教養番組の内容について解説。かつてのニフティでの伝説(?)のHPが10年の雌伏を経て新装開店。

このブログでの取り扱い番組のリストは以下です。

番組リスト

5/17 NHK 歴史探偵「オッス!おら三蔵 西遊記の世界」

西遊記の元ネタは

 今回のテーマはまた唐突だが西遊記。と言うわけでいきなりドラゴンボールの模様。もっともあれはモチーフを西遊記から持ってきていても、中身は西遊記とは全く無関係だが。なお今回のサブタイトル、オッスなのは三蔵でなくて悟空だろ。

 で、西遊記と言えばやっぱり出てくるのは堺正章が悟空やった例のドラマ。今は亡き夏目雅子さんの美しさがまぶしいですが、彼女が演じていたのが三蔵法師。そしてこれは良く知られていることでもあるが、三蔵法師自体は実在の人物である。モデルとされるのは中国の唐の時代の僧である玄奘。夏目雅子とはおよそイメージが重ならない身長180センチの大男だったらしい。まあ当時のインドまで経典求めて旅をしたわけだから、体育会系僧侶でもある。

 

 

困難な旅を達成して経典を持ち帰った玄奘

 玄奘の旅の記録は大唐西域記という文書に残っているという。そこには玄奘が訪ねた西国の風俗などについて細かく、138カ国について記してあるという。なお玄奘の旅の様子を伝える絵巻として、藤田美術館に国宝の玄奘三蔵絵が収蔵されている。で、この絵巻はつい先日に藤田美術館で見たところである。展示されている部分は番組に登場している場面とは違うが。

国宝「玄奘三蔵絵」のワンシーン

 玄奘は国禁を犯して旅に出たという。各国を訪れるとそこの権力者の支援を得て旅を続けたようであるので、玄奘は行動力だけでなくかなりの外交折衝能力を有していたようである。また難所の天山山脈を越えてスイヤブという国に立ち寄っているが、この国は東西の文化が接する地域であり、交易の盛んな地域だけに情報も豊富だったようである。そしてここで西突厥の国王と面会して、異教徒の王に仏教の教えを説いて旅の支援を得たというのだから、かなり優秀な外交官である。

 足かけ4年で天竺に到着した玄奘は仏教の最高学府のナーランダ寺院で5年間学ぶと、出発から17年後に多くの経典を持って唐に帰国した。皇帝にその功績を讃えられたという。なお帰国後の玄奘は持ち帰った経典の翻訳(元がサンスクリット語なので中国語への翻訳が必要)に生涯を捧げたという。翻訳をスピーディーにこなすために弟子たちと役割分担してシステマティックに翻訳作業を実施したという。

 

 

忘れられた玄奘が、西遊記で復活する

 こうして玄奘は中国の仏教界に多大な貢献をしたのであるが、年月が経つにつれて忘れられた人になっていった。しかし400年後に西遊記という形で一般の人々にその名が知れることになるのだという。

 西遊記は中国の明の時代に出版され、全部で100話の長編小説である。この時点で孫悟空、猪八戒、沙悟浄を引き連れた奇想天外な物語に変わっている。どうやら長年の間にフィクションの要素が段々と加わっていっているという。そこには民間伝承などが加えられているのだという。科挙の受験生などの秀才が生活費稼ぎに面白小説を執筆していたらしい。

 孫悟空であるが斉天大聖として信仰の対象になっている。元々は猿の多い地域で収穫の時期に猿の被害を防ぐのにお供えをしていたのが、斉天大聖の信仰につながったという。

 猪八戒は摩利支天の配下となっている。摩利支天は戦いの神であり、猪に乗っていたという。これが猪八戒で神である孫悟空に対して、俗の象徴だという。

 最後の沙悟浄は元々は砂漠で現れるちょい役の神様だったらしいが、それが沙悟浄になったのだという。なおカッパになったのは日本で馬琴がカッパに描いてからだとか。


 以上、西遊記のルーツについて。結局分かったのは、玄奘三蔵は夏目雅子のイメージとは似ても似つかないマッチョな坊さんだったらしいと言うことである。まあ川口浩探検隊をやらせなしのマジでやるみたいなもんだから、逞しくないと生き抜けないというところ。

 

 

忙しい方のための今回の要点

・西遊記の三蔵法師は実在の玄奘がモデルとなっている。
・玄奘は唐時代の僧侶であり、仏教を学ぶために天竺まで旅をした。
・玄奘は巧みな交渉で各国の王の支援を得て、足かけ4年で天竺に到着、仏教の最高学府のナーランダ寺院で5年間学ぶ。
・出発から17年後、玄奘は大量の経典を携えて帰国、サンスクリット語で書かれた経典の中国語への翻訳を行い仏教界に大きな功績を残す。
・年と共に忘れられた玄奘の名が再び世間に出るのは400年後の明代に西遊記の小説が登場したことによる。
・西遊記では玄奘の旅がベースになり、そこに様々な民間伝承などのエンターテインメント要素が加えられている。
・孫悟空は斉天大聖という猿の神様であり、猪八戒は摩利支天の配下の豚、沙悟浄は砂漠の神様がカッパに転じたものである。


忙しくない方のためのどうでもよい点

・西遊記については原作を少しだけ読んだことがあるが、あまりにも突飛でついていけませんでしたね。三国志とかの歴史物は良いんですが、封神演義とかどうも中国ファンタジーはあまり相性が良くない。

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