教養ドキュメントファンクラブ

自称「教養番組評論家」、公称「謎のサラリーマン」の鷺がツッコミを混じえつつ教養番組の内容について解説。かつてのニフティでの伝説(?)のHPが10年の雌伏を経て新装開店。

このブログでの取り扱い番組のリストは以下です。

番組リスト

5/23 BSプレミアム ヒューマニエンス「"CO2"見えざる生命の創造者」

生命はCO2の中で生まれた?!

 温室効果で脚光を浴びていることから、「不要なもの」「廃棄物」のイメージのあるCO2であるが、実は生命の歴史を見た場合に生命誕生に不可欠な物質であったことが分かる。

 地球の生命がどこから誕生したかには様々な説があるが(最近は宇宙から飛来説が強くなっている)、熱水噴出孔説が有力な仮説の一つである。しかしこの説の難点は周囲の海水のせいでアミノ酸生成に不可欠の脱水反応が起きないというものである。しかしここに太古のCO2が関与していると発表したのが海洋研究開発機構の渋谷岳造氏。彼の説によると深海の高圧力下で存在できる液体CO2内部でこれらの反応が発生したというものである。実際に深海に液体CO2が存在することも観察されているという。液体CO2は水に溶けないので水と分離して存在する。そして水と混ざらない故にむしろ脱水反応を促進するのだという。

 非常に突飛な印象を受ける説でもあるが、それだけに当然ながら賛否両論があるようで、もう一人のゲストの東京薬科大学名誉教授の山岸明彦氏は生命の陸上発生説を唱えているようで、火山噴出孔の周辺などで乾燥によって反応が起こったという説のようである。これに対して渋谷氏が太古の地球には陸はなかったと反論したりなどの討論が若干起こっていた。

 

 

生命の根幹をなす炭素の大循環

 そもそも我々の体の基本になっているのは炭素原子であり、その炭素原子はCO2から光合成で作られた化合物を基本としている。炭素は結合の腕が多く、さらにその反応が起こりやすいことなどから、生命の基本骨格をなすことになったと考えられるという。植物から動物へ、動物から大気中へ、大気中から植物へという炭素の循環が起こっているのだという。

 地球の歴史を振り返った時、46億年前の地球誕生時には大気中のCO2が非常に多い状態であった。このCO2はまず海に溶け込み石灰岩として蓄積した。また雨を通して大地に染み込んだりした。また生物の発生がCO2濃度に影響している。特に巨大な森林が発生した石炭紀には当時はこの樹木が分解できなかった(リグニンを分解できる微生物がいなかった)ことから劇的にCO2濃度が減少している。しかし今日、これらの化石燃料を使用することでCO2が大気中に解放されることになり、急激に大気中のCO2濃度が増加することになっているのである。

 地球温暖化が発生するのは大気中のCO2が地球から放出されるはずの熱を蓄積してしまうからである。大気中のCO2濃度の急激な増加は産業革命以降発生している。ただ「地球を救おう」などというが、その実は「人類を救おう」だという。地球の歴史上はCO2は増減しており、気候も大変動をしている。しかしこの1万年ほどは気候が安定しており、人類はその中で文明を築いてきた。つまり今の気候が破壊されたら困るのは人類だけであり、地球にとっては関係ないとも言える(まあ人類が滅亡したらそれで新しいバランスが発生するだけである)という。まことにごもっとも。つまりは「地球を守ろう」なんてご立派なお題目ではなく、「我々は生き残るぞ」の方が良いとのことか。

 温室化効果による気温変動などを見ると、もう既に限界を超えていて回復は不可能ではという絶望的な分析も存在するという。国際的取り組みで気温変動を1.5度以内に抑えようという取り組みがなされているが、もう既に1.1度の温暖化が発生しており、リミットまで0.4度しかないという(それにそもそも1.5度内に収めると破綻を免れるという保証もそもそもないのだが)。なお番組ゲストは地球内で砂漠化によって耕作不能になる土地もあれば、逆に極地で農業ができるようになるなどムラがあるので、それに合わせて人類が移動すればという話も出ていたが、それってもろに隣国と戦争になるって話なんだが・・・。

 

 

温暖化に対抗する取り組みと森林の重要性

 なおこれに抵抗するべく、スイスでは大気中のCO2を直接除去する試みがなされており、アイスランドでは地熱発電を利用してCO2を地中に封じ込めるなどの大気中のCO2を直接低減する試みも行われている。

 また森林の吸収力について、東京大学大学院教授の熊谷朝臣氏の研究によると、森林の樹木の成長速度などを厳密に測定した結果、従来の説よりも実は日本の森林が吸収する量は2.5倍もあることが分かったという。同様に世界での研究でも東南アジアの森林などでCO2を吸収する能力は今までの見込みよりもかなり多かったことが分かったという。

 とのことなので、いよいよもって熱帯雨林の伐採などは問題であるということである。伐採してそれを利用してさらに森林を再生して循環させるのなら良いが、現在の熱帯雨林は焼き畑のために焼却して(つまりはすべてがCO2に戻る)、その跡地はしばし畑にした挙句に土地がやせると放置して荒れ地になっていきつく先は砂漠であるのだから、とんでもないことである。木を切って木材として利用して(当然森林は植樹などで再生する)、それをすぐに廃棄するのではなく、古い日本建築のように長く使用していけば、それがCO2を貯めこむことになるというのは示唆的。

 

 

 以上、CO2について。CO2が有害なのではなくて生命にとっては不可欠というのはまさにその通りなのであるが、実際にはそのCO2が増えすぎて人類の存続が危うくなってきているというのは科学的事実。そうなるとそれに対して人類は知恵で対抗すべきである。地球から見ればたかが人類ごとき滅んでもなんでもないだろうが(むしろ繁殖した悪性細菌を根絶できたぐらいの感覚か)、人類としては滅んではどうしようもないので。

 とは言うのものの、人類すべてが理性的に行動できるわけでないのが問題である。こんな時に私欲による戦争を起こしているプーチンのような頭のおかしな奴もいれば、それにかこつけて儲けることしか考えていない欧米の政治家。さらにそこに自分も参加したいと考えている岸田のようなアホ共が人類のトップでは先行きが暗い。またアメリカを始め世界中に、目の前の厳然たる事実からまで目を背けようとするトランプ信者のような非理性的な輩も少なからず存在するし。ある意味、この危機を乗り越えられるかは、人類が今後繁栄し続けられるかの試金石であるようだが。

 

 

忙しい方のための今回の要点

・生命の発生は深海中に蓄積した液体CO2の内部で起こったという説を唱える研究者がいる。
・地球の生命は大気中のCO2を基にした大循環で存在している。
・現在の大気中のCO2濃度は地球創成期よりも大幅に減少しており、それは石炭紀の大森林が分解されないままに蓄積して石炭化したことによる。
・ただし産業革命以降、石炭などの化石燃料を人類が消費してCO2として放出したことで、大気中のCO2が急激に増加、それが近年注目されている地球温暖化の原因となっている。
・温暖化によると、砂漠化する部分と逆に極地で耕作できる部分が発生するなど、あちこちでムラが生じることによる社会の不安定化が懸念される。
・スイスやアイスランドでは既に大気中のCO2を直接回収しようという試みがなされている。
・森林のCO2吸収力について、今までの見積もりよりも実は倍以上の能力があるとの研究報告がある。

 

忙しくない方のためのどうでもよい点

・まさに人類一丸となって解決するべき問題なのですが、この時代になっても未だにたかが戦争さえなくせない人類にとってそれが可能なのか。人類の中には愚かにも、乗っている船が沈みかかっているのに、他人の財物をかすめ取ることにしか興味のない馬鹿が少なからずいるんですよね。しかもそれが政治的影響力の強い層に。

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