教養ドキュメントファンクラブ

自称「教養番組評論家」、公称「謎のサラリーマン」の鷺がツッコミを混じえつつ教養番組の内容について解説。かつてのニフティでの伝説(?)のHPが10年の雌伏を経て新装開店。

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番組リスト

7/11 BSプレミアム ヒューマニエンス「"宇宙体験"私たちの"次なる章"がはじまる」

宇宙体験がヒトをどのように変化させるか

 今回は宇宙体験。どうにも唐突なテーマに思われるが、宇宙に人類が出て行くことでどういう変化が起こるかと言うことを心理面を中心に考察している。ゲストは宇宙飛行士の野口聡一氏。彼が実際に感じたことなどを中心に聞いている。

 宇宙が地球と根本的に違うのは重力がないこと。重力がないと言うことは上下がないということ。我々は物理的だけでなく、心理的にも重力に縛られており、それがいわゆる社会の上下関係などにも影響しているのではないかという。宇宙ではこの上下関係が希薄になってくるという。野口氏は実際にそういう感覚を持ったという。つまり宇宙という環境が人間関係や価値観にも影響するのではという。

 また重力がないと生物は無気力になるという報告がある。東北大学の東谷篤志教授は国際宇宙ステーションで線虫の研究を行ったが、無重力状態になると線虫の動きが少なくなるという変化があったという。宇宙ステーション内にいても、回転によって人工重力を作った中に置くと、地上と同じ動きをしたという。そこで両方の線虫を比較すると、無重力になるとドーパミンが劇的に減少していたという。ヒトの場合だと快感やらやる気などと結びつくことになる。なおこの無重力の線虫の回りに小さなビーズを置いて、線虫が動く度に身体に触れるようにしたところ、線虫は動くようになり、ドーパミンも増えていたという。接触刺激が脳に伝わってドーパミンの分泌を促したのだろうという。つまり「地に足が付く」という感覚が影響するのだという。また人同士が互いに影響し合うということも重要なのではという。野口氏の経験から言えば、安眠するには何かが身体に接触しているという感覚が重要だとか。

 

 

火星への移住計画に生命探査

 現在、NASAは月への有人飛行を目指している。月面に基地を作ってヒトが滞在して長期的探査を行い、これを足がかりにして火星への有人飛行を行うことを目指している。火星はかつては地球と同じような環境があったと考えられており、土の下に水が氷の形で残っているのではと推測されている。そこでこの水を使用すれば火星に移住が可能なのではないかという。火星移住のための定員100人の巨大ロケットや、人工重力を供えた火星基地の構想などの様々なアイディアが出ている。ヒトが火星に移住することになれば、人類の持続可能性などに対する考えなどにも変化があるのではともいう。人類の今までの歴史を考えると、やはり新たなるフロンティアに乗り出す人も一定はいるのではという。

 宇宙に出るとなると「宇宙に生命が存在するか」という話題になるが、これは「存在するのではないか」と言われている。生命が存在するには液体と有機物とエネルギーが必要と考えられるが、これが揃う環境は意外に存在するという。最近注目されているのは土星の衛星エンケラドス。カッシーニの探査で氷の表面から水が噴き出していることが観測され、氷の下に液体の水が存在することが明らかになったのだという。またこの水の中には水素と二酸化炭素とアンモニアが含まれており、水素と二酸化炭素からメタンを作り出すメタン菌のような微生物が存在する可能性があると考えられている。このような生命が発見されれば、ひいては地球の生命の謎の解明につながるのではという。

 最後になぜ我々が宇宙を目指すかだが、ヒトが宇宙に出て地球を客観的に見ることでその価値に気付くという話を野口氏がしている。ヒトが宇宙に出ることで、国家というレベルから脱して初めて地球人という意識が持てるのではという話もある。


 以上、宇宙に出ることがヒトに与える精神的影響だが、大抵の人が「地球はかけがえがない」ということと「宇宙から見ると国境なんて存在しない」ということを感じたということを言っている。確かに「地球人」という枠組みを実感するには宇宙に出ることが影響するかもしれない。よく国家ごとに分かれて対立している人類が一致団結して結束できる可能性は、ガミラスが地球に攻め込んできた時なんて言われるが、地球と対比する何か大きなものが登場して初めて、国家なんてものの小ささを感じることがでるきかもれしない。これは人類が次の段階に進化するには不可欠のことである。

 

 

忙しい方のための今回の要点

・ヒトが宇宙に出ることとの心理的影響に注目し、宇宙飛行士の野口聡一氏に経験を聞いたりしている。
・宇宙には重力がない、そのために上下左右の感覚がなくなってくるので、それが人間関係における上下関係も希薄にする影響があると野口氏も語っている。
・無重力状態にいると生物はドーパミンが減少することで無気力になるという研究報告がある。防ぐには身体的接触を持つことだという。ヒトは地に足が付くことでドーパミンが分泌されるのではという。
・現在NASAは月基地建設を目指しており、そこを足がかりに火星有人探査を進める計画である。火星に水が氷として存在するとされており、そうなると火星移住も現実味を帯びてくることになる。
・宇宙には生命が生息できる環境は以外に存在する。現在注目されているのは土星の衛星のエンケラドスで、氷の下の海にメタン菌のような微生物がいるのではと推測されいる。

 

忙しくない方のためのどうでもよい点

・まあ人間が宇宙に出るようになると、必然的に意識は変わってくると思います。もっともそうなって前時代の遺物のような者もいるとは思いますが。重力に魂を捕らえられた者ってところか。ただニュータイプとオールドタイプの戦争なんてのはゴメンだ。

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