教養ドキュメントファンクラブ

自称「教養番組評論家」、公称「謎のサラリーマン」の鷺がツッコミを混じえつつ教養番組の内容について解説。かつてのニフティでの伝説(?)のHPが10年の雌伏を経て新装開店。

このブログでの取り扱い番組のリストは以下です。

番組リスト

7/30 サイエンスZERO「謎の回遊魚!ウナギのミステリーツアー」

6000キロの大回遊をするウナギ

 日本人にとって馴染みの深いウナギ。しかしその生態は謎に包まれている。湖などで養殖されることから淡水魚のイメージも持たれているが、実は大海原を6000キロも回遊することが分かっている。今回はそのウナギの謎の海での生態に迫るという。

 ウナギの産卵場所は日本から3000キロ離れた西マリアナ海嶺にある。ここからウナギは回遊して日本にやって来るのである。日本で4~5年暮らすという。そして西マリアナ海嶺に産卵に行くのだが、そこにどうやってたどり着くのかが不明だという。

 水産技術研究所の福田野歩人氏がウナギに超音波発信器を付けて船で追いかけたところ、11箇所に放したウナギの内の10匹が西マリアナ海嶺に向かったという。ウナギの軌跡を辿ると正午の前後で回転することから、太陽を目印にして方位を定めているのではないかと推測した。また日本の川にいるウナギに比べて産卵場所付近で捕まえたウナギは目が大きく発達しているという。これは深海で太陽光を感知するためではないかという。

 

 

回遊で性成長するウナギ

 また夜になると浅い海を昼になると深い海(700メートルぐらい)を泳ぐという凸凹泳ぎをしているという。ウナギに対し、この凸凹泳ぎの水温を再現するべく、昼には冷たい海水、夜には温かい海水を飼育槽に入れて1年飼育したところ、ウナギの血液中の性ホルモン濃度が増加するという結果が出た。つまり凸凹泳ぎで成熟が促されるのだと言う。なお産卵場所付近で捕らえた雄ウナギは、お腹が大きく膨れて通常のウナギとは別の魚に見える状態。お腹の中の全て、体重の40%が精巣になっていたという。なお産卵は夏の真月の夜に一斉に行われるという。数万匹から数十万匹ぐらいは集まっているだろうという。

 生まれた子供はレプトセファルスで、これは海流に乗って泳ぐという。これを観察のために飼育してみたが、餌を食べないために飼育が非常に大変らしい。

レプトセファルス

 そこで自然で捕まえたものの腸の内容物を調べたところ、ほとんどが植物プランクトンだったらしい。大抵の魚は動物プランクトンなのでこれはウナギの特徴だという。なおこの組成はレプトセファルスが住む海水中の成分と類似しており、特に餌を取るというよりも海水をガバガバ飲んでそれで成長しているのだという。これもウナギに特有の生態であり、地上でこの環境を再現するのは非常に困難だという(水質が悪化するとレプトセファルスは簡単に死んでしまう)。

 

 

 以上、謎多きウナギの生態。これの解明は完全養殖を軌道に乗せるためにも不可欠であるので、是非とも今後の進展に期待したいところ。現在のウナギの養殖はシラスウナギの単なる肥育であるので天然資源に高く依存しており、それが今日のウナギ価格高騰につながっている(中国の乱獲などでシラスウナギが減少している)。これを養殖場でサイクル出来るようになったら、国産ウナギが劇的に価格低下する可能性もある。やはりもう少しまともな価格の国産ウナギを食べたい。

 

 

忙しい方のための今回の要点

・ウナギは日本から3000キロの西マリアナ海嶺で産卵する。そこまでどうやって行くのかを追跡したところ、どうやら太陽を目印にして方向を定めているらしいことが分かってきた。
・ウナギは昼には700メートルほどの深海を泳ぎ、夜には浅い海を泳ぐ。この凸凹泳ぎは敵を避けるためと考えられるが、この凸凹泳ぎが刺激になって性成熟が促されることも判明した。
・産卵は夏の真月の夜に一斉に行われる。
・生まれたレプトセファルスは餌を食べる行動をしないという。野生のレプトセファルスを捕まえて調べたところ、生息域の海水をひたすら飲んで、そこに含まれる植物プランクトンを摂取しているらしいことが分かった。


忙しくない方のためのどうでもよい点

・まだまだ謎の多いウナギですが、ここまでで分かっただけでも、かなり特異な生態を持つ魚のようです。進化の過程においてどういう理由でそんな生態になったのかが興味深いですね。今のところ生存に有利になる要素よりも、不利になる要素の方が多そうに見えるので。

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