教養ドキュメントファンクラブ

自称「教養番組評論家」、公称「謎のサラリーマン」の鷺がツッコミを混じえつつ教養番組の内容について解説。かつてのニフティでの伝説(?)のHPが10年の雌伏を経て新装開店。

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番組リスト

9/3 サイエンスZERO「究極の謎!?"動物の睡眠"徹底解明SP」

自然界の動物の様々な睡眠

 今回のテーマは睡眠。我々は疲れたら寝るが、実はその睡眠のメカニズムは未だに明らかではないのだという。

睡眠のメカニズムは実はまだ明らかではない

 自然界の動物を見ると、例えばキリンは30分程度しか熟睡しないという。それは野生では睡眠中は天敵に対して無防備になってしまうからである。そこで様々な工夫をしながら睡眠する動物が多いという。ハゲブダイは丸い球のなかで眠るが、これは粘液でくるまっているのだという。これは外敵や寄生虫を防ぐためだという。またキタゾウアザラシは1年の内の7ヶ月間は餌を求めて水中を泳ぎ回るが、水中では天敵のシャチなどを避けるために、彼らが追跡が困難となる100~300メートルまで潜って、沈みながら10分ほど眠り、その後は再び浮上してまた眠るというのを2時間ほど繰り返すという。また比較的安全な陸上にいる繁殖期の5ヶ月間は10時間ほど寝るとか。

 

 

睡眠に関与しているのは脳だけではなかった

 一般的に我々は脳が疲れたら眠くなるというイメージがある。実際に睡眠には脳の関与が大きいと考えられる。しかしそのような常識を覆すような大発見があった。

 それはクラゲのような脳を持たない生物でも睡眠を取るらしいことが判明したのである。そこで東京大学の立花和則氏は睡眠の定義に従ってエダアシクラゲの活動をテストした。睡眠の定義とは1.周期的に活動期と休止期がある。これは実際にクラゲは周期的に活動が停止していた。2.感覚応答性の低下がある。これは眠っている時は感覚が鈍ると言うことで、実際に活動が停止しているクラゲに振動刺激を与えても反応がでない。3.活動期と休止期の可逆性。これは要は寝ている時に叩き起こすことも出来るということで、実際に振動の刺激をさらに強くするとクラゲは突然に動き出した。4.リバウンドがある。これは睡眠を阻害したら、それが次の活動時にツケとして現れるというもので、実際にクラゲの睡眠を阻害すると、次に覚醒してからしばらくは行動が低下するという現象が見られたという。以上のことからクラゲが睡眠しているのは明らかであると言う。つまり睡眠は実は脳以外にも重要なのではないかという。

 さらにクラゲだけでなくヒドラでも睡眠が確認されたという。九州大学の伊藤太一氏は偶然にヒドラが睡眠していることを発見したという。実は隣の研究室が実験にヒドラを使用しており、そこの学生が「ヒドラって動きが止まっている時がありませんか」と言っていたことがキッカケだという。実際に活動の様子を調べると動かない時間が周期的にあったという。そこで睡眠の起源を調べるべく、ヒドラにメラトミンを与えてみたところ睡眠したという。そこでそらにヒドラの遺伝子を調べたところ、睡眠に関する遺伝子が見つかり、睡眠は脳のある動物と脳のない動物の共通祖先から存在するということが分かってきたという。その結果、睡眠と食事に関係があるのではと考え、ヒドラに食事を与えなかったところ、睡眠が長くなるという結果が出たという。これは脳のある動物だと短くなるというのとは逆であるが、脳のある動物は睡眠を短くして積極的に餌を探すのに対し、ヒドラのような動物では周囲に餌のない環境では活動を抑えてエネルギー消費を減らす生存戦略をとっているのではという。つまりエネルギーの効率的な運用と睡眠が関係しているのではとの仮説を立てている。

 

 

眠りのメカニズムに迫る研究

 東京大学の林悠氏は線虫を使った研究でなぜ生き物が眠るのかに迫る発見をしている。線虫の遺伝子に傷を付けて、睡眠に変化が起きた個体が現れるか調べたところ、睡眠が倍になった個体が現れ、その個体はsel-11という遺伝子に異常があることが判明したという。sel-11は細胞の小胞体で生成した不良品のタンパク質を分解する働きを持っているという。細胞内で不良品タンパクが増加して裁ききれなくなるとその情報が脳に伝わり、脳から眠れという指令が送られるのだという。そして細胞の活動が低下した間にsel-11が不良品タンパク質を分解するのだという。つまりsel-11が機能不全となると不良品タンパクが分解出来ないために、脳からの指令で眠り続けることになったのだという。なお同じ遺伝子はマウスにもあり、マウスのsel-11を機能不全にしたら睡眠時間が伸びたという。つまり林氏の仮説は細胞レベルで不良品タンパクの処理のために睡眠が行われているというものである。

 なおハエによる研究では睡眠をしないと腸に活性酸素が溜まって死に至り、活性酸素を処理出来るようにしたら睡眠が減ったという報告があるという。つまりは睡眠は細胞レベルで起こっているのではないかという。

 

 

 睡眠が脳の都合ではなくて細胞レベルで求められているとなると、非常に興味深いことである。となると、人間の場合は身体が睡眠を求めているのに脳が諸般の事情でそれを実行させないことが多いから、これって自ら寿命を縮めているということになるような気がする。うーん、睡眠不足は万病の元とか、明らかに成人病の確率を上げるとか言う報告もあるが、かなり信憑性の高い話になってきた気がする。

 と言うことは、若い頃から諸々の原因で慢性の睡眠不足状態の私は、既に身体のあちこちの細胞がボロボロということだろうか。言われてみるとそんな気もしてきた。若い頃に出来た無理がもうこの年になると全く不可能になり、特に睡眠不足にかなり弱くなってきた。最近は完徹どころか、睡眠不足が限界に達すると自分の意志とは無関係に突然に寝落ちする現象(まさに電源が切れるようになる)が発生するようになって、かなりヤバくて仕方ない。もしかしたらこれは最後の自己防衛反応かも。

 

 

忙しい方のための今回の要点

・動物は様々な睡眠の形式があるが、睡眠のメカニズムについてはまだ詳しいところは未知である。
・野生生物では天敵を避けるために概して睡眠時間は短く、水中で沈みながら眠るキタゾウアザラシのような特殊な睡眠も存在する。
・睡眠は一般的に脳の働きと密接な関係があるイメージがあるが、最近になって脳が存在しないクラゲでも睡眠を取っていることが発見されて話題となった。
・さらにヒドラの研究でも睡眠が確認され、睡眠に関する遺伝子は脳のある動物と脳のない動物の共通祖先から発していることが分かってきた。
・また線虫を使用した研究で、sel-11という小胞体内の不良品タンパクの分解を行う遺伝子が睡眠と深く関わっていることが分かってきた。小胞体内に不良品タンパク質が蓄積しすぎると小胞体ショックで細胞が死滅するので、不良品タンパク質の分解が追いつかなくなったら、脳から睡眠指令がでて細胞の活動を低下させるのだという。
・ハエの研究でも睡眠をしないと腸に活性酸素が溜まって死に至ることが分かっており、睡眠は細胞レベルでの挙動である可能性が出て来た。


忙しくない方のためのどうでもよい点

・睡眠は実は不要などと言う考えまでありましたが、今回の内容を見ていると睡眠を取らない状態を続けると死に至るということのようです。これについてはどちらが正しいのでしょうか? まあ実際に完徹を数日続ければ、死にはしなくても行動や思考に明確な異常が現れることも分かっているので、明らかに脳にはとんでもない負荷になるんでしょうけど。そう言えば私も、睡眠不足が極限に来たら、起きたまま夢を見ているような状態になったことがあったな。あからさまな幽体離脱感覚(座布団に座っている自分の姿が上から見えたり)があったり(笑)。

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