教養ドキュメントファンクラブ

自称「教養番組評論家」、公称「謎のサラリーマン」の鷺がツッコミを混じえつつ教養番組の内容について解説。かつてのニフティでの伝説(?)のHPが10年の雌伏を経て新装開店。

このブログでの取り扱い番組のリストは以下です。

番組リスト

9/12 BSプレミアム ヒューマニエンス「"歯"進化を続ける人体の先兵」

歯は脳と直結している

 今回のテーマは歯。言うまでもなく我々が食べ物を咀嚼するために必要不可欠のの器官である。人体でも一番硬い組織であり、その硬さは硬度で言えば水晶と同じレベルであり、骨よりも数段高いものであるという。

 様々な動物はその食生活に応じて特化したタイプの歯を持っている。それ故に歯を見ると何を食べているかも分かるという。それに対して人の歯は汎用性が高く、歯を見ただけでは何を食べているかは判断できないだろうという。まさ性差もないのが特徴だという。

歯は実は脳とつながっている

 さらに歯は実は脳との関わりが深いという。歯には歯髄という神経系が存在し、非常に鋭敏な感覚を持っているという。実際に80マイクロメートルの髪の毛を噛んだだけでも感知できる。この神経は脳と接続しており、咀嚼に基づく神経刺激は脳の記憶に非常に密接な関わり合いを持っているという。

 実際にマウスの奥歯を抜いての迷路実験によると、奥歯があるマウスは学習効果によってクリアタイムが短縮したのに対し、奥歯のないマウスは学習効果がほとんど出なかったという。実際にマウスの脳の海馬を見ると、歯を抜いたマウスは明らかに神経成長因子の数が減少していたという、また人の場合でも歯を失った人は海馬の容積が下がると言うことが確認されたという。なお歯根膜が感覚をかなり司っているので、歯を失った場合も入れ歯をすることである程度の回復は可能という。

 

 

歯は進化とも結びついている

 人の赤ちゃんは歯が生えずに生まれてくる。これは普通のように感じているが、実は歯を持たずに生まれてくる動物は少数派だという。それは哺乳類以外の生き物は生まれてすぐに親と同じものを食べるからだという。哺乳類の赤ちゃんが歯を持たないのはおっぱいを吸いやすいためである。赤ちゃんの口元はおっぱいを吸いやすいように出来ているという。また人がそのように進化する過程で持った特徴が口輪筋の発達だという。この口輪筋の発達で人はおっぱいを吸いやすくしたのであるが、その時に首の周りの筋肉を顔面に持っていく形になったので、多くの表情筋が誕生して豊かな表情を持つことも出来るようになったという。

赤ちゃんは最初は歯がなく、徐々に生えてくる

 さらに歯は現在リアルタイムで進化しているのだという。永久歯が生える順番が60年前は奥歯が生えてから前歯が生えるという順が普通だったのだが、現在は前歯が先に生えてくる子供が増えているのだという。そこで過去の人類についても調べたところ、250万年前のアストラロピテクスでは奥歯から生えており、その後のホモ・エレクトスも奥歯からだという。人類史上初の驚くべき進化がこの数十年で発生したのだという。

 ということで、織田裕二氏も驚いていたのだが、通常は進化といえば万年単位で起こるものという認識だったが、たった数十年でも起こるようである。なおこれよりはスパンは長いが、恐らく親不知がなくなるというのもせいぜい数百年スタンスだろう。なお顔回りは結構変化が現れやすいとのとこと。

 

 

永久歯が何度も生える?!

 さらに永久歯は二度と生え替わらないというのも変わるかもという。実は歯が生え替わらないのは哺乳類の特徴だという。しかし北野病院の主任部長の高橋克氏によると、実は人は永久歯の次にさらに歯を作るポテンシャルを持っているのだという。彼は歯生え薬の開発を行っているという。人が歯が出来る時には歯茎の中にまず歯の芽が出来、それが成長して歯になるという。そして乳歯が育って生えると、その脇にある歯の芽が育って永久歯が生え、その永久歯の脇にもさらに歯の芽があるのだという。しかしこの歯の芽はUSAG-1という遺伝子が発現することで消滅するのだという。だからこのUSAG-1を抑制する薬を開発することで「歯生え薬」の開発に成功したのだという。マウスの実験では実際に歯が生えてきており、2024年には人間への臨床試験を開始するという。目下は歯の芽がある歯でないと生やせないが、将来的には狙った歯を生やせるように出来ればとのこと。

 

 

 今回の内容は衝撃的というようなことを織田裕二氏が言っていたが、それは私も全く同感。たかだか数十年で進化が起こるということも驚きだったし、永久歯を何度も生やすという研究についてもかなり驚いた。実際に「歯について意外と知らなかったな」というのは私も非常に切実に感じたところである。

 なお歯が脳と直結というが、確かに歯が悪くなると共に急速に認知症が進むという実例も私もまさに身近に見ており、これは確かにその通りだろうと実感しているところでもある。だからせめて入れ歯をつけさせたいのだが、合わないとか気持ち悪いとか文句ばっかり言って付けたがらないんだよな・・・。困ったもんだ。

 

 

忙しい方のための今回の要点

・歯は単に咀嚼するだけでなく、かなり微妙な神経系統が完備されていて、これらの情報は脳に直結するようになっている。そのために歯をなくすと学習能力の減退につながる可能性があることがマウスの実験などから指摘されており、また高齢者の事例でも認知症の可能性が増すといわれている。
・赤ちゃんが歯がないというのは哺乳類の固有の特徴であり、これはおっぱいを吸いやすくするためである。さらにおっぱいを吸うために口輪筋が発達したことにより、表情筋の数が増え、これが我々哺乳類が表情を持つ理由となった。
・この60年ほどで、永久歯が奥歯よりも先に前歯が生えてくるという変化が起こっているという。これは今までの人類の進化の歴史から見ると画期的なものであるという。
・永久歯は二度と生え替わらないとされているが、歯の芽の生長を阻止するUSAG-1を抑制することによる「歯生え薬」の開発が、北野病院の高橋克氏によってなされた。将来的には狙った歯を生やせるようにしたいという。


忙しくない方のためのどうでもよい点

・永久歯をさらに生え替わらせるというのは、寿命が延びている今日には欲しい技術に思えますね。私も年のせいでそろそろ奥歯が怪しくなってきており、既に1本一番奥を抜いてしまっているので、今後が恐いです。認知症になってなっている余裕はありませんので。

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