教養ドキュメントファンクラブ

自称「教養番組評論家」、公称「謎のサラリーマン」の鷺がツッコミを混じえつつ教養番組の内容について解説。かつてのニフティでの伝説(?)のHPが10年の雌伏を経て新装開店。

このブログでの取り扱い番組のリストは以下です。

番組リスト

8/29 BSプレミアム ヒューマニエンス「"免疫"曖昧な"わたし"をめぐるドラマ」

獲得免疫のシステム

 はて、免疫ってこの番組で登場しなかったっけ? と思ったらやっぱり扱っているらしい。

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 ただこの時はウイルスに対する免疫という観点での内容だったので、今回は切り口を変えて、免疫が自己と他者を区別するという観点から免疫のシステムに迫っている。

 番組ではT細胞を中心とする免疫システムを学園ドラマで紹介しているが、まあこれはご愛敬(「はたらく細胞」かい!)。とにかくT細胞は胸腺で作られるが、重要なことは身体を構成する自分のタンパク質を攻撃してはいけないこと。このために18000種の遺伝子が合成するすべてのタンパク質を覚えることから始まるという。この結果、T細胞は当初の1割しか残存しないという。そして残ったエリート細胞がヘルパーT、キラーT、Tレグの3つに分かれる。異物が体内に侵入すると監視役である樹状細胞がヘルパーTに通報、キラーTに排除命令が下り、キラーTはパーフォリンというタンパク質を駆使することで、異物を自滅に追い込むのだという。

     
やっぱり免疫システムを学ぶと言えばこの作品が一番

 

 

人類の誕生にも関与するTレグ

 さて残ったのがTレグであるが、これは異物認定されそうになった細胞が自身の細胞であった時に、攻撃にストップをかけるのだという。番組ではこれを夏休み後にギャル化した女生徒にたとえているのが爆笑。一応はギャル化程度では異物認定されないらしい。なおキラーTがやけにヒョロくて武闘派イメージなかったんだが、パーフォリンミサイルという反則技を持っているからOKらしい(笑)。

やっぱりキラーTはこのぐらいのマッチョさが欲しい

 このTレグであるが、生命の誕生においても重要な働きをするという。胎児とは母体から見れば異物であるのだが、受精の際に精液から父親の情報を樹状細胞が集め、そしてTレグを優先的に呼び寄せることで受精卵が免疫から守られて着床出来るようになるのだという。Tレグは胎盤に集まって胎児への免疫の攻撃を防ぐのだという。なおこのTレグが残るので、同じ男性相手には以降は妊娠しやすくなるとか。

 なおT細胞からTレグを作る遺伝子は解明されているという。東京大学の堀昌平氏によると、Foxp3という遺伝子が重要なのだという。この遺伝子はTレグだけで働き、TレグでないT細胞のFoxp3を活性化してマウスに注射すると、免疫抑制に働いたという。

 

 

免疫の起源と老化と折り合いをつける能力

 では我々の獲得免疫はどこから発症したかだが、それは食べるという行為と連携しているという。食べるというのは一種の異物の取り込みであるので、栄養として取り込むには免疫系の進化が重要だったというのである。マックスプランク研究所の森本亮氏によると、4億年前の姿を残す生きた化石であるゾウギンザメに着目し、顎を持って様々なものを食べるようになったことで獲得免疫が必要となったと仮説を立てたという。そこで胸腺をなくしたマウスにゾウギンザメの胸腺を作る遺伝子Foxn1を働かせたところ、マウス本来の胸腺にそっくりの胸腺が生成したという。つまりゾウギンザメの段階で既に獲得免疫はほぼ確立出来ていたと考えられるという。

 また免疫は老化とも関係するという。ヒトの細胞は老化すると遺伝子に変容などが起こることになるが、これをキラーTがボコボコと攻撃しすぎたら自身の身体を破壊してしまうことになるので、ある程度の攻撃をしたら疲弊という形でブレーキがかかるようになっているという。遺伝子NR4aがキラーTのエネルギー減少を感知して、攻撃停止のスイッチを作り出すのだという。非自己であると判断しても、身体を破壊しすぎないようなシステムが備えられているのだという。戦闘経験のないT細胞がナイーブTで、戦闘を経験したのが記憶型なのだが、その比率は老化によって変化する。老化するとナイーブTの割合が減少するので、全く新規の感染症などへの対応がしにくくなるのだという。

 

 

 以上、免疫が自己と他者を区別するというのは、言われたら確かにその通りなんだが、こうやって言われてみると神秘的なものを感じる。それにしても「老化すると段々と自己からズレてくるから、そこは免疫が融通を利かすようになる」ってのあなかなかに衝撃的だったな。こりゃガンの免疫療法が難しいのも当然という気がしてきた。ちなみに今回登場した疲労スイッチ、確かがん細胞も押して逃れるので、それを阻止するのが免疫チェックポイント阻害剤だったはずだが、ガンの免疫療法として期待していたけど、今回の聞いているとこれはこれで別のところで問題が出そうだなという気がしてきた。

 

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忙しい方のための今回の要点

・獲得免疫ではT細胞が働いている。T細胞はまず自己を攻撃しないように18000種の遺伝子が体内で合成する物質を覚えることから始まる。この過程で10%にまで絞り込まれるという。
・異物が侵入すると、樹状細胞がそれをヘルパーTに報告、その指令でキラーTが攻撃する。この際にパーフォリンを分泌して細胞を自死させる。
・一方、相手が自己かどうか判断するのがTレグで、自己と判断した場合には免疫の攻撃を阻止する。
・受精卵が着床する時も、樹状細胞が精液から男性の遺伝子を検知してTレグを集めることで、受精卵が免疫に攻撃されないようにする。その後はTレグは胎盤で免疫を抑制する。
・Tレグを作る遺伝子はFoxp3であることは解明されている。また獲得免疫が確立したのは、脊椎動物が顎を持って様々な餌を補食するようになった頃からだと推測されている。
・また老化してくると変異した細胞が増加することから、それらを攻撃しすぎると人体の機能に問題が生じるため、キラーTには攻撃をある程度続けると疲労して攻撃を止める機能が組み込まれている。


忙しくない方のためのどうでもよい点

・何か学園ドラマってのは強烈にスベっていた印象だな。リニューアル後にドラマセクションがなくなったことで彼女たちが失業しちゃったから、その救済だろうか。しかしやっぱりあのヒョロ過ぎるキラーTはシックリこんわ。

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