教養ドキュメントファンクラブ

自称「教養番組評論家」、公称「謎のサラリーマン」の鷺がツッコミを混じえつつ教養番組の内容について解説。かつてのニフティでの伝説(?)のHPが10年の雌伏を経て新装開店。

このブログでの取り扱い番組のリストは以下です。

番組リスト

9/26 BSプレミアム ヒューマニエンス「"遊び"それは人類の可能性の宝庫」

遊びに潜んでいる意味

 「遊び」と何なのか。中には遊びを不謹慎として嫌う変人もいるが、基本的に人は遊びというものに人生の中の一定の時間を割くし、子供などはまさに日々遊びの連続である。また人に限らず動物においても「遊び」としか表現しようのない活動があるという。遊びの中に人間の本質が潜んでいるのではという。

子供は遊びの達人

 遊びの達人と言えば子供たちである。彼らはあらゆるものを遊びにつなげる。遊びと発達の関係を研究している武庫川女子大学の久米裕紀子准教授によると、遊びの良いところはいわゆるトライ&エラーだという。愛知県立大学の亀井伸孝教授はアフリカの狩猟採集民に遊びのルーツを探している。彼らの村に1年5ヶ月滞在した結果によると、彼らの子供たちは次々といろいろな遊びを発明しているという。中には狩猟の訓練につながると思われるような遊びもある。大人にとっては仕事になることを彼らは遊びとして訓練し、その試行錯誤が大人になっての工夫にも反映するのではという。ホモサピエンスはネアンデルタール人に比較して石器のバリエーションが多いことが知られているという。

 遊びが文化に結びつくという話があったが、遊びの定義としては、自由である、何らかの規則がある、無報酬で遂行されうるがあると亀井氏は指摘している。

 

 

遊びが脳の発達に影響する

 まあ遊びが脳を鍛えるという話がある。玉川大学脳科学研究所の坂上雅道所長によると、例えば旅行中のトラブルの発生などで急遽予定を変更しないといけなくなった場合などに、我々の脳はモデルベースシステムが働いているという。これは2つの戦略を比較検討する場合の仕組みである。フランスのチームのシミュレーションによると、まず脳の前頭前野内側部で今行っている戦略が上手く行くかを考え、同時に前頭前野外側部では別の戦略を考えているのだという。そして裏の戦略の方が良いとなると入れ替えて、次にまた新しい戦略を考えるのだという。そしてそれを鍛えるのが遊びだという。例えばサッカーなどでは常にどう対応するかを選択し続けているわけであり、この繰り返しが非常に脳を鍛えるのに有効なのだという。

 要するに遊びを繰り返すことでアドリブ力を身につけるということか。まあ私も遠征中にはトラブルの連続で目的地自体が変更なんてこと日常茶飯だったしたな。

 

 

遊びが持つ社会的心理的意味

 世界中の子供に共通の遊びは鬼ごっこだという。それどころかニホンザルでも枝引きずり遊びという似たようなものがあるという。これは枝を引きずって逃げる猿を別の猿が追いかけるというもの。しかし人間の鬼ごっこは言語でルールを伝えられるが、ニホンザルの場合はその役割を枝というアイテムが必要なのだという。またチンパンジーの遊びは基本的に1対1であるという。大人になると遊びの代わりに毛づくろいをするようになるが、これも基本は1対1である。これに対して人間に特徴的なのは多体多の遊び(チームスポーツのようなもの)があるということだという。遊びで集団を安定化させる働きが人間にはあるのだという。

一番普遍的な遊びが鬼ごっこだそうな

 遊びについて研究している東京学芸大学の松田恵示氏は、大人の遊びに関する感度が低下しているのではないかと懸念している。日常生活の中でも遊び心を持つべきと彼は考えている。また遊びの経験が強い心を育むという報告もある。遊びの経験の豊富なヒトの方が、困難に遭遇した時の対応力や落ち込みからの回復力(レジリエンス)が高いという報告がある。面白いことを探求する力が、困難の中から楽しさを見出す力につながるのではないかという。

 

 

 以上、遊びについて。こういう心理面が関わる話になってくるとこの番組の内容は分かりにくくなることがあるが、今回もそういう傾向がある。

 なお大人が遊びに対する感度が低下しているという話があるが、要するに今の日本は大人が遊べる精神的余裕が低下しているんだと感じる。効率一辺倒を押し進めた副作用だと私は感じている。その結果として皆が視野狭窄して、それが日本全体の行き詰まり感と密接に関わっているように感じる。とにかく日本はイノベーションが著しく低下しているのだが、そりゃ日々の生活で生きていくことだけに追われていたら、イノベーションなんて出てくる余地もない。

 遊びが文化につながるという話もあったが、私はそもそも文化自体が遊びそのものと考えている。そして金につながらない文化を無駄だと切り捨てた結果が、今日の低迷する日本というわけである。

 

 

忙しい方のための今回の要点

・遊びは一種のトライ&エラーであり、子供の遊びが大人になっての創意工夫にもつながる。実際にホモ・サピエンスの石器のバリエーションはネアンデルタール人よりも圧倒的に多い。
・また遊びの経験が脳のモデルベースシステムという、臨機応変に対応策を考えるシステムの訓練につながるという考え方がある。
・猿でも鬼ごっこのような遊びはするが、人間の遊びが特徴的なのはチームスポーツのような多対多の遊びがあること。これが集団の結束を高めたりするのに役立っている。
・さらに遊びの経験が困難時の対応力を高めるという指摘がある。


忙しくない方のためのどうでもよい点

・まあ私の感想としては、社会が遊びの余裕を失っているようではダメというもの。効率一辺倒で突っ走ると、結果的には行き詰まって肝心の効率もガタガタになる。

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