教養ドキュメントファンクラブ

自称「教養番組評論家」、公称「謎のサラリーマン」の鷺がツッコミを混じえつつ教養番組の内容について解説。かつてのニフティでの伝説(?)のHPが10年の雌伏を経て新装開店。

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番組リスト

9/24 サイエンスZERO「計算で切り拓く新時代!スーパーコンピューター富岳」

富岳の活用例

 今回は日本が誇る世界最速のスーパーコンピューターの富岳について紹介する。

 富岳が最近に注目を浴びたのはコロナ禍での飛沫のシミュレーションなのだが、当然のようにそれ以外にも多くの分野で成果を上げている。富岳は16万ものCPUを使用して高度な計算を実施している。

富岳(出典:理化学研究所HP)

 東京大学では巨大地震の被害予測に富岳の計算を利用している。富岳を使用することで震源から都市部までの広範囲に及ぶ影響を地下の構造物なども含めて推測出来るようになったという。また航空機の設計などにも富岳の利用がされている。

 医療の分野においての利用が特に期待されているが、鷲尾巧博士は病気にかかった心臓をコンピュータ上に再現することに成功した。彼が再現したのは肥大型心筋症という心筋の肥大などで不整脈が発生し、血液を送り出す力が弱くなる病気である。病気の原因は心臓の運動に関わるミオシン分子の動きの異常だと思われるが、これを再現するには各原子の振動を再現する必要がある。そこで分子の動きに影響する原子の振動だけの計算を抽出したところ、1兆回の計算で分子の動きを再現出来ることが分かったので、ここで富岳の登場となったのだという。その結果、肥大型心筋症で心臓の収縮が小さくなることが再現出来たことから、病気のメカニズム解明から治療法の開発が期待されている。

 

 

誰でも使えるスパコンにするために

 富岳は様々な分野に適応されているが、基本的に「誰でも使用出来る」(当然審査はあるが)というのがポイントだという。そのために使いやすくすることがポイントであり、汎用性を持たせるためにスマホやタブレットなどのArmという言語を採用することを考えたという。しかし並列計算に対応していないことから、Armを改造してその機能を持たせたのだという。

 水回り製品を開発している企業(もろにTOTOと出ていたが)では節水シャワーヘッドの開発に富岳を使用したという。シャワーヘッドでの水の流れを富岳で計算し、これを新製品の開発につなげているという。富岳は民間の利用が多いのが特徴で、京が7年で200社だったのに対し、富岳は3年で231社が利用してるという(実は京は利用しにくいというのは、私も聞いていた)。

 

 

AIの利用

 さらに富岳とAIを組み合わせることで創薬の分野での成果が期待されている。創薬では鍵と鍵穴の関係で薬剤を開発するが、この組み合わせは無数にあるのでその組み合わせをAIで学習させて効率的に候補化合物を提案させるのだという。上手く行けば10年かかった新薬開発が3年ぐらいに短縮出来るのではと期待されているという。

 また防災の分野でもAIの利用が進んでいる。これまでは津波が発生してから被害予測をしていたので10分かかったという。そこで富岳で被害シミュレーションを行い、それをAIで学習させることで、津波発生から数秒で被害予測が出来るようになったという。

 さらには次世代スパコンとしての富岳NEXTも計画中とのことで、これはAIと相互作用で進化していくことになるだろうという。

 

 

 以上、富岳について。まあ実際にコンピュータ関係の仕事をしている人間としては、コンピュータは単に性能だけでなく使いやすさがかなり大事ということは痛感してます。私の会社でも以前に京を利用するという話が出たのですが、調べていると通常我々が使用しているソフトが京で動かすことが出来ないために、京を使用するには極めて煩雑な対応をする必要があることが判明し、結局は頓挫したということがあります。京を動かすにはそれに対応したプログラムをまず作成する必要があり、その能力がない企業などはお手上げでした。

 今回聞いた限りでは富岳はかなり使いやすくなっているようであり、実際に富岳を意識したソフトの開発なども進んでいることから、私の会社でも今度は富岳を使ってみようかなどいう話が出ていたりします・・・。

 

 

忙しい方のための今回の要点

・世界最速のスパコンである富岳は、様々な分野で利用が進んでいる。
・災害予測などにも使用されているが、特に医療の分野が期待されており、たんぱく質の分子の運動を計算することで、心臓の病気の原因解明につながる研究などもなされている。
・また富岳は使いやすくするために、スマホやタブレットなどでも使用されるArmという言語を改良して採用した。
・そのために企業の利用も進んでおり、水回りメーカーがシャワーヘッドの開発のために利用した実績もある。
・また富岳とAIを組み合わせることで、医薬品探索に使用する研究も進んでいる。これまで10年かかって開発された薬剤が、3年で開発出来るのではと期待されている。
・今後のスパコンはさらにAIと相互作用が考えられ、次世代のスパコンではそのための開発が計画されている。


忙しくない方のためのどうでもよい点

・この分野の進歩は凄まじいものがあります。あの「京」もあっという間に時代後れになって停止させられましたから。いずれは富岳も次世代マシンに取って代わられるのでしょうが。

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