教養ドキュメントファンクラブ

自称「教養番組評論家」、公称「謎のサラリーマン」の鷺がツッコミを混じえつつ教養番組の内容について解説。かつてのニフティでの伝説(?)のHPが10年の雌伏を経て新装開店。

このブログでの取り扱い番組のリストは以下です。

番組リスト

10/25 NHK 歴史探偵「高杉晋作 時代を変えた力とは!?」

実力主義の軍隊を設立する

 今回の主役は長州藩士の高杉晋作。当時最強とも言われた奇兵隊を創設した長州藩士である。

奇兵隊を設立した高杉晋作

 高杉晋作は萩市で生まれた。彼が愛用した鎧が残されているが、それは畳具足と言われる折りたためる軽い甲冑であり、そもそも足軽などの下級武士の鎧なのだが、上級武士であった彼がこれを愛用していたという。軽量で身軽という実用性からの合理的判断のようである(既に銃撃戦が中心となる時代には重い甲冑は無意味)。奇兵隊はまさにその彼の合理性が徹底されている軍隊だったという。身分に関係ない実力主義を採用した。

 

 

しかし旧態依然の上級武士の抵抗は強い

 彼がこのような考えに至ったのは、下関で欧米の軍隊と戦った長州の武士たちが惨敗したことによるという。このままでは長州が滅ぶと考えた彼は奇兵隊を結成することにして武士たちに声をかけたが、集まったのは下級武士ばかりのたったの60人だったという。晋作の行おうとしていたことは、まさに上級武士の権威を否定するものだったからである。

 そういう長州藩は禁門の変で幕府に惨敗して危機に陥ってしまう。その時に晋作の奇兵隊に続々と志願してきたのが庶民達だったという。彼らとて故郷を守りたい気持ちはあったのである。こうして奇兵隊は300人に急成長する。さらに当時欧米で広く使われていたミニエール銃を採用する。この銃はかつて長州藩も採用しようとしたが、武士たちがそれまでの戦い方が一変することを嫌がって、徹底的に抵抗したことで頓挫したという。しかし庶民中心の奇兵隊にはそんなしがらみはなく、ミニエール銃は奇兵隊の主力装備となる。

 これで幕府と戦う準備は出来たかと思われたが、長州藩の中枢を幕府恭順派が占めたことで晋作の改革は否定されることになる。晋作は長州藩の方針を変更するために下関で挙兵することになる。公家を警護している長州藩の兵に声をかけて仲間に引き込もうとするに合わせて、下関は貿易港として栄えており、富裕な商人が多数いたことから軍資金の調達を目論んでいたという。しかし集まった兵はわずか80人で、軍資金は全く集まらなかった。当時の晋作は藩への反逆者であり、彼に協力するのは危険と判断されたのである。

 

 

一発逆転で主導権を握り、幕府軍の撃退にも成功

 このままでは挙兵は不可能、晋作は現状打破のために防府に向かう。ここには長州藩の海軍がおり、それらの軍鑑を味方につけることで萩に圧力をかけることを考えた。そして晋作は刺し違える覚悟で説得に乗り込む。既に実力主義を取り入れつつあった海軍は晋作に同意する。軍鑑と共に下関に戻った晋作は、挙兵の正当性を訴えるために国民を安堵するというメッセージを発する。これに賛同した奇兵隊などが決起、商人からも軍資金が集まり、晋作は勝利する。こうして長州藩は再び幕府打倒に動き始める。

 しかしその長州に幕府は15万の大軍で攻め寄せてくる。これに対して長州軍は5000。晋作は九州方面の小倉口を守備することになったが。幕府軍1000人に対し長州軍300人と兵力では劣勢であったにもかかわらず、晋作は先制攻撃をかけることにする。この時に晋作が採用したのが散兵という戦術である。これは兵力に劣る軍が大兵と戦うための戦法で、兵士が戦場に散らばって木陰などから敵軍に対してヒットアンドアウェイを繰り返すゲリラ戦である。

 番組ではこの戦術を検証するとして幕府軍10人に長州軍4人でサバゲーを実施している。幕府軍は高台の陣地に固まっており、長州軍は森に潜む形である。ただ銃はミニエー銃を使用していた長州軍は射程40メートル、旧式銃の幕府軍は30メートルとする。結果は森の中から移動しながら攻撃してくる長州軍の兵の位置を幕府軍は把握することは出来ず、長州軍は1人がやられただけで幕府軍は全滅という圧勝に終わった。

 実際の戦いでも幕府軍はこの晋作の「武士からぬ正々堂々でない卑怯な戦い方」に翻弄され長州軍が圧勝、1ヶ月半後に幕府軍司令部の小倉城が陥落する。こうして明治維新への動きが一気に加速するが、晋作自身はそれを見ることがなく戦いの数ヶ月後に29才で肺結核でこの世を去る。

 

 

 以上、奇兵隊の高杉晋作。要は戦いは合理的にやった奴が勝つって話です。長年の天下太平で武士自身が戦闘から離れしてしまっていたってことだろう。上級武士などまさに親から特権を引き継いだだけの世襲の馬鹿ボンばかりになっていて、ものの役にも立たなかったということが想像出来る。

 今回はなかなかにまともな歴史番組をしており、この番組お得意の実験もそれなりに的を射ているものであった。毎度この調子なら良いのだが・・・と思っていたら、次回はまたもや大河とのコラボスペシャル。頭痛いわ・・・。あの大河はもう根本的にダメなんだから、いくらこの番組で宣伝したところで、到底歴史ファンは相手にはしないのは確実。かと言ってミーハーファンがこちらの番組を見に来ることもまずなく、正直なところ「誰得スペシャル」である。

 

 

忙しい方のための今回の要点

・下関で外国軍に武士たちが惨敗したのを見た高杉晋作は、実力主義の軍隊である奇兵隊を設立する。
・彼は武士たちに声をかけたが、上級武士たちは身分秩序の崩壊に抵抗し、集まったのは下級武士のみのたった60人だった。
・しかし長州軍が禁門の変で幕府に敗北して長州に危機が迫る。この時に奇兵隊に多くの庶民が志願してきて一気に300人に増える。晋作は装備として最新のミニエール銃を導入する。
・ミニエール銃はかつて長州軍が導入を図ったが、武士たちが戦い方が変わることに激しく抵抗したせいで頓挫したのだが、庶民が中心の奇兵隊にはしがらみがなかった。
・しかし長州藩の中枢が幕府恭順派に占められ、晋作は排除される。彼は長州藩の考えを変えるために下関での挙兵を計画する。
・しかし藩の反逆者である晋作の元には兵も軍資金も集まらなかった。そこで晋作は防府を訪れて海軍を説得する。当時既に実力主義に傾いていた海軍は晋作に賛同、海軍を味方につけたことで奇兵隊の放棄など晋作の元に兵も軍資金も集まり、晋作は長州での争いに勝利する。
・その長州に対して幕府の大軍勢が迫ってくる。晋作は小倉口で兵力的に優勢な幕府軍を散兵という戦術で撃退する。結果として長州の勝利が明治維新への流れを加速することになるが、晋作は新しい時代を見ることなく肺結核でこの世を去る。


忙しくない方のためのどうでもよい点

・優秀ではあったが明治を見ることが出来なかった人物です。なお晋作は軍人としての才覚を示しているのだが、政治家としての才覚はどの程度あったのかは不明です。旧弊に捕らわれない考え方をしていたので、明治の世にいればそれはそれで活躍したと思うのですが。
・それにしても大河コラボ企画をまだこんなギリギリまでやるとは、余程今回の大河はマズいらしい。そりゃあえてジャニーズの松潤を使って、鉄板のはずの家康のネタを扱ったにもかかわらず、視聴率ガタガタなんだから。もう大河ドラマの作り方自体がダメになっているから、主役が誰でネタが何という次元ではないと思う。次回、次々回のネタを聞いていても、正直「こりゃ大河はもう終わったな」という気しかしない。

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