教養ドキュメントファンクラブ

自称「教養番組評論家」、公称「謎のサラリーマン」の鷺がツッコミを混じえつつ教養番組の内容について解説。かつてのニフティでの伝説(?)のHPが10年の雌伏を経て新装開店。

このブログでの取り扱い番組のリストは以下です。

番組リスト

1/6 NHK-BS 英雄たちの選択「スペシャル 紫式部 千年の孤独 ~源氏物語の真実~」

本場組でも新大河の宣伝企画です

 新大河が始まったとのことで、あらゆる番組がすべて大河の宣伝に動員される中、ご多分に漏れずこの番組も無理矢理動員です。今回のテーマは源氏物語。

紫式部

 

 

自ら執筆した物語が道長の政略に利用される

 源氏物語の作者の紫式部は中級貴族の出身であるが、家は貧しく幼くして母を失う。そんな中で書物を読みふけって孤独を癒やしたという。漢文などを暗唱する式部に対して「お前が男でなかったのが我が家の不運だ」と父親は嘆いたという。当時の女性は学識があってもそれを活かす場はなく、それどころか結婚相手として敬遠されることも多くなったという。

 そんな時に、式部に半ば強引に求婚してきたのが藤原宣孝、式部の又従兄弟で年齢差は20歳以上あったらしいが、いくらはぐらかしてもいわゆるラブレターを何度も送ってきたらしい。そして式部もその内に段々その気になったのか式部は30才にして宣孝と結婚し、子供も産まれる。しかしその3年後に宣孝が流行病で呆気なくこの世を去ってしまう。娘を抱えて苦しい生活の中で式部は、物語を心の支えとすることになる。しかしだんだんとそれらに物足りなさを感じるようになる。それは当時の物語は男性が片手間に書いたものであり、男性目線のために女性が描き切れていなかったのだという。そこで彼女は自ら執筆を始める。それが「帚木三帖」であり、光源氏と中流貴族の恋愛の機微を描いたもので、これが後の源氏物語の原型となる。これは都の女性の間で大評判となる。

 その式部に目をつけたのが藤原道長である。道長の意向もあって式部は宮中で働く女房となるが、上流階級の娘ばかりの中ではストレスも大きかったという(お高くとまっているといじめられたために、天然キャラを装ったりなど気苦労があったらしい)。道長は摂政を狙っていた。しかし道長の兄の道隆が摂政の座に就いており、その娘の定子が一条天皇に寵愛されていた。しかし道隆が病死したことで一家は没落して定子は出家する。おり、ここで道長は娘の彰子を入内させて正室とする。しかし一条天皇の定子への寵愛は衰えず、彰子に見向きもせず、2人の間に子供が産まれる。しかし定子はその1年後に死去、傷心の一条天皇の心は未だに定子から離れていなかった。

 

 

物語の力で一条天皇の心を彰子に向かわせる

 その一条天皇の心を、物語の力で彰子の方に向かせるというのが式部が与えられた使命であった。式部は光源氏の物語を長編として執筆を始める。桐壺帝と桐壺の更衣の純愛は誰が見ても一条天皇と定子を連想させるものであり、これで一条天皇の興味を惹こうとしたのだという。実際に一条天皇は物語に興味を示し、そのために彰子の元に通うようになる。

 こうして一条天皇をまんまと読者にした式部に対して、道長からのネクストミッションが与えられる。それは「作中に彰子を登場させろ」ということである。これに対して式部が従うかどうかが最初の選択。

 これについては私は「ああ、なるほどね」とすぐに結果が見えたが、番組ゲスト及び杉浦アナ(磯田氏が自分はコメントを避けて杉浦アナに振った)は1人を除いて全て「従う」である。で、式部も「従った」。そうして出したのが「若紫」である。少女に対して関心を示さない一条天皇に「少女を自分好みの女に育て上げるという手もあります」と誘導したのである。まあ私がピンときた通りである。

 で、若紫は美しく成長していくが、その前には数々のライバルが登場。しかし第33帖で若紫は実質的な源氏の正妻となる。そしてそれに乗せられたか、一条天皇も彰子との間に子を儲ける。式部は見事に道長のミッションを達成したのである。

 

 

創作意欲を失いかけた式部の選択

 しかし物語が絶頂を迎えたところで式部に葛藤が生じ始める。あまりにこのリア充な物語は、式部が描きたいと思う女性の苦悩などが描けていなかったのである。式部は創作意欲を失いつつある。しかしそこに道長からの「続きを書け」の要求がくる。ここで選択その2である。源氏物語を完結するか、執筆を続けるか。

 これについては実際の源氏物語がここで終わっていないことから、執筆を続けたのは明確で、ゲスト及び杉浦アナもほとんどが「執筆を続ける」であった。そして執筆を続けるのだが、ここから描く源氏物語は闇落ちをする。光源氏の前には女三宮という女性が現れそれに惹かれて正妻に迎える。若紫は所詮は自分は妾同然と悟って嫉妬や絶望に駆られる。そして心労の果てに病に倒れて死去、源氏は自らの行動を悔いるが時既に遅しになる。式部は人生の苦しさを描き、源氏物語は完結する。宇治十帖と呼ばれる第三部では男性から離れて仏教に救いを求める女性・浮舟などが描かれ、出家が本当に女性にとっての救いになるかについて疑問を投げかける形で終わっているという。式部はこの作品に自身の描きたいことはすべて描いたと日記に残しているという。

 

 

 以上、源氏物語について。ところで暗黒変した源氏物語第2部以降について、読者である一条天皇はどう思い、さらには依頼主である道長はそれで満足したんだろうかというのが疑問が残るところ。

 もう各番組で新大河の宣伝をしているのだが、紫式部が主人公なんてドラマになるのか? と疑問を感じながら大河ドラマの第1話を見たのだが、やっぱり予想通り・・・というか、予想以上につまらないドラマ過ぎて、20分で退屈してウトウトしてしまって見事に落ちました。紫式部を描くぐらいなら、最初から源氏物語をドラマ化した方がマシではないかと思うのだが。史実でないという指摘もあろうが、そもそも最近の大河はファンタジー化がひどすきて、既に半分以上史実を無視してるんだから、いっそ物語にしてしまっても問題ないのではというのが私の考え。もっとも源氏物語の内容は昼メロそのものなので、下手な作り方をしたら18禁になるおそれはあるが(笑)。

 なお大河がつまらなかったら、それを紹介する番組もつまらなくなるのも当然で、正直今回の長時間スペシャルは見ていてしんどかった。結局は女性ゲストの女子トークみたいにならざるを得ず、歴史ファンとしては興味が湧かないんだよな。磯田氏がさっさとコメントを杉浦アナに振ってしまって、自分は身をひいたのはその辺りもあったのではなんて邪推してしまう。

 

 

忙しい方のための今回の要点

・紫式部は娘を抱えた状態で夫を失い、その中で物語に救いを求めるようになる。
・しかし当時の物語は男が片手間に書いたものであり、そこに描かれている女性は男性目線であり、それに不満を感じた式部は自ら源氏物語の原型である「帚木三帖」を執筆する。
・それが女性達の間で評判になり、それに目をつけた藤原道長が、自らの娘である彰子に一条天皇を引き付けるために、式部の物語を使用することを考える。
・式部は一条天皇と定子をモデルに光源氏の物語を描き、狙い通りに一条天皇は物語の熱心な読者になり、そのために彰子の元に通うようになる。
・さらに道長は式部に彰子を物語中に出すように要求。式部は光源氏よりも幼い若紫をヒロインとして登場させ、彼女が光源氏の正妻になる物語を描く。
・道長の狙い通りに一条天皇は彰子との間に子を儲ける。しかしハッピーエンドになった源氏物語に対して式部は自身の描きたい女性の苦しみなどが描けていないことに不満を感じ、執筆意欲が落ちていく。
・しかし道長の要求もあり、式部はさらに執筆を続ける。しかしそこに描かれたのは若紫と光源氏の間の悲劇、さらには仏門に救いを求める女性などの人生の苦しみを描いたストーリーとなって完結する。


忙しくない方のためのどうでもよい点

・本当に「それってクライアントが望んだものなの?」ってことには疑問があるのだが、式部が処罰されたって話はないので、何とかなったんでしょう。まあメロドラマが読者の気を惹きやすいのはいつの時代でも言えることですから。もっとも昨今は、読者の心にひっかき傷を残すことだけを優先して、とんでも展開する駄作も少なくないですが。
にしても、予想していたよりも遥かにつまらんドラマだったな。今回の新大河。まさか1時間見通すことさえ出来なかったとは予想外だった。まあそもそも平安って実は大河ドラマには鬼門だったりする。平清盛でさえ大コケしたんだから。

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