教養ドキュメントファンクラブ

自称「教養番組評論家」、公称「謎のサラリーマン」の鷺がツッコミを混じえつつ教養番組の内容について解説。かつてのニフティでの伝説(?)のHPが10年の雌伏を経て新装開店。

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4/29 NHK-BS 英雄たちの選択「信長が震えた日~血戦!長島一向一揆~」

一向一揆に翻弄された信長

 今回は信長が対応に苦労すると共に、その残虐性をむき出しにしたとも言われる長島一向一揆について。この一揆では信長は2万人もの住民を皆殺しにしたとされているが、なぜ信長がそこまでの殲滅戦を行ったかについて解説している。

 1568年、足利義昭を奉じて上洛した信長は着々と機内一円を制圧しようとしていた。しかし岐阜城から40キロも離れていない河内長島に信長にとっての足枷があった。この地は木曽川、長良川、揖斐川の広大な中州地域であった。この地域は集落を堤防で囲んだ輪中と言われる島に居住し、水運を行っていた。

今の長島城跡は、校庭に本丸にあった大松が残るのみ(2011年撮影)

 信長は包囲網にあって窮地に陥る。本願寺から各地の信徒へ信長に抵抗するように指示が飛び、それにいち早く応えたのが長島だった。さらに各地から一向宗の僧侶も支援に駆けつける。戦いに集まったのは一向宗門徒だけでなく、周囲の武装勢力も荷担していた。一揆勢は長島の北東の信長方の古木江城を攻め、城主の信長の実弟の信興を自害に追い込む。これに激怒した信長は翌年に5万の軍勢で長島に進行する。しかし第一次長島攻略戦は織田軍の撤退に追い込まれる。この戦いで柴田勝家が手傷を負い、氏家卜全が討ち死にするという惨敗であった。

 

 

第二次攻略も失敗し、大軍を派遣しての第三次攻略で一揆勢を殲滅する

 1573年、浅井朝倉を全滅させた信長は返す刀で長島に攻め込む。第二次長島攻略戦である。この時に信長は大湊の商人に舟を桑名まで上らせるように命じる。しかし大湊は命に反して舟を出し渋る。舟を徴収できないので信長は陸路で桑名方面を攻略する。この地域を攻め落とした織田軍だが、岐阜に帰還する際にゲリラ戦で大被害を受けることになる。水路で囲まれた長島城は堅固な水城であり、干満差の大きな水域は地の利を持たない者には圧倒的に不利だった。

 面目をつぶされた信長は激怒、根切り(根絶やし)にすることを決意する。またこの頃に信長は宗教の敵である第六天魔王を名乗ったという。

 第三次長島侵攻作戦の頃には、浅井朝倉は滅亡し、武田信玄は死去、さらに足利義昭は追放されており、信長は長島攻略に専念できるようになっていた。また信長は大型の安宅船も建造したという。そして九鬼水軍も動員、8万の軍勢で長島を包囲して攻め込む。巨大な舟で海上を封鎖し、大鉄砲で櫓などを破壊した。追われた島の人々は長島、屋長、中江などの3ヶ所に逃げ込む。このような完全包囲戦をしたところで信長の選択である。力攻めで落として根絶やしにするか、降伏を許すかである。

 ゲストの意見は分かれたが、信長は飢餓状態に陥った一揆勢が降伏を願い出て退去しようとしたところを攻撃、また包囲して焼き殺すなど凄惨な殲滅戦を行う。信長は長島の大虐殺を見せしめにしたのである。しかし騙された一揆勢が怒って信長の本陣に切り込み、信長の一族に死者が出るというという被害も出てしまったという。

 

 

 えげつないやり方であるが、当時の一向宗は一種のカルトのようなものであるから、徹底的にドライに考えると信長の「根絶やしにするしかない」という考えも分からないでもないところはある。とは言うものの、こういう残虐な殲滅戦は間違いなく恨みを買うので、何だかんだで回り回って信長の首を絞めてしまったように思われる。

 なお番組ゲストからこの戦いで信長が一族衆の有力者を失ったのが後々に痛いということも言っていた。結局織田一族の有力者が信長しかいなくなってしまったので、後の清洲会議などで織田家を支える者がいなくなってしまって、結果として織田家が天下から転げ落ちる原因となったという分析は興味深いところであった。もっともこれは考えどころで、有力な一族衆が残ったなら残ったで、主導権争いの内紛が起こらないとも限らないので、良し悪しである。

 

 

忙しい方のための今回の要点

・機内の制圧に動いていた信長だが、木曽川、長良川、揖斐川の広大な中州地域である長島は一向宗門徒が籠もる信長から独立勢力であった。
・信長包囲網に呼応した本願寺は全国の門徒に反信長で建ち上がるように指示を飛ばし、長島がそれに応えて信長方の古木江城を攻め、城主の信長の実弟の信興を自害に追い込む。
・怒った信長は5万の軍勢で長島に攻め込むが、柴田勝家が手傷を負い、氏家卜全が討ち死にするという散々な敗北を喫する。
・1573年、浅井朝倉を滅ぼした信長は再度長島に攻め込むが、大湊の商人の協力を得られず、陸路から遠征の帰途に一揆勢のゲリラ戦に遭って大被害を受ける。
・第三次長島攻略戦の頃には信長包囲網は崩壊していたことから、信長は長島に全勢力を向ける。大型の安宅船を建造して九鬼水軍も動員、8万の軍勢で一揆勢を包囲する。
・海上を封鎖されて飢餓状態に陥った一揆勢は降伏を願い出るが、信長は一揆勢の退去時に攻撃をかけて殲滅、さらに包囲して火を放つなどして一揆勢を根絶やしにする。


忙しくない方のためのどうでもよい点

・まあ信長ってマキャベリズムの権化のような男なので、カルトは根絶やしと冷徹に計算したんだろうとは思う。しかし人間の感情はそんなに簡単なのものではないということである。

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