教養ドキュメントファンクラブ

自称「教養番組評論家」、公称「謎のサラリーマン」の鷺がツッコミを混じえつつ教養番組の内容について解説。かつてのニフティでの伝説(?)のHPが10年の雌伏を経て新装開店。

このブログでの取り扱い番組のリストは以下です。

番組リスト

5/5 サイエンスZERO「4億年前の"上陸大作戦"カギを握る化石の正体は!?」

謎の生物パレオスポンディルス

 今回のテーマは古生物。4億年前のデボン紀の地球のパレオスポンディルス(ギリシア語で古代の背骨という意味)という生物。背骨はあるがヒレはなくて正体が不明な動物だったという。これの正体について近年、日本人研究者が劇的な研究をなし、その結果この生物が陸上進化の過程のミッシングリンクを繋ぐ可能性が出て来たのだという。

 パレオスポンディルスであるが、大きくても5センチという小さな生き物で、化石は多く見つかっているのだが、かなりちぐはぐな生き物であり、進化の道筋のどこに位置するのかが不明な動物なのだという。立派な背骨はあるもののひれはなく、あごもないということで、原始的な生物なのかそうでないのかが不明なのだという。

パレオスポンディルスの化石(出典:SPring-8HP)

 

 

頭蓋骨の解析から新事実を発見

 この生物の研究に挑んだのが東京大学の平沢達也准教授。脊椎動物の進化を研究してきた研究者であると言う。彼は学生時代からこの生物に注目しており、10年に渡って研究をして来たという。当初彼はパレオスポンディルスはヤツメウナギなどの円口類だと推測して、その仮説についての論文を記している。円口類かそうでないかは三半規管の数で判別できる(三半規管が3つあるのは顎のある動物)ので、それに挑んだのだという。しかしパレオスポンディルスの化石は頭部が不完全なものばかりなので、頭が岩の中で完全な形で残っている化石の発見から始めることにしたという。オランダに飛んで化石コレクターのとコレクションの中から完全な形で頭の残っているものを2つ探し、それを持ち帰って分析したのだという。

 そして三半規管の数を調査するためにSPRING8の放射光を使用してCT-スキャン分析を行ったという。3次元モデルで構造を復元したところ、三半規管が3つ見つかり、当初の仮説に反して円口類ではないということが判明したのだという。なお番組ではパレオスポンディルスのCG復元を行っているが、何となく間抜けな顔をした奴である。

 

 

生物の陸上進化のカギかも

 さらにこれが生物の陸上進出のミッシングリンクになるのでという可能性が浮上した。デボン紀のユーステノプテロンは胸びれの付け根に腕に当たる骨が見られる。ティクターリクはさらに関節が発達し、アカントステガに至っては指のある手足を持っていたという。ひれがこのように手足に進化したのだが、パレオスポンディルスもこの過程に当たる可能性があるとのこと(ユーステノプテロンとティクターリクの間らしい)。しかしパレオスポンディルスの化石自体からはひれは見つかっていない。これはパレオスポンディルスの化石は実は幼生なのではないかという仮説を平沢氏は有している。つまりオタマジャクシのように幼生紀と成熟後で形態が変化するという考えである。実はこの方がひれから手足への劇的変化というのが容易になるのだという。それは形態変化のない動物の場合は卵の中ですべての臓器が事前に完成している必要があるので、ひれから手足へという劇的変化が起こってしまうと、他の臓器などにも影響して発生が難しくなるのだという。しかし幼生紀があればこの問題を回避出来るのだという。だから幼生があるのが手足への進化への鍵ではないかということ。


 以上、生物の陸上進出の鍵になるかもしれない小動物についての研究。なかなかにマニアックな内容であるが、それを分かりやすく興味深く解説していたのは、この番組の真骨頂とも言える。それにしても平沢氏も当初は自分の仮説を証明するために研究をしたのに、結果として自分の最初の仮説が間違っていることを証明してしまったんだから、当初は「あちゃー」だったことは容易に推察がつくが、そこからさらに新たな興味を持って研究を深めていくというのは研究者として模範的態度である。最近は変に成果だけを焦って、結果を捏造するようなダメ研究者も増えているので。やはり研究者たる者、正直でないといけない。

 

 

忙しい方のための今回の要点

・デボン紀の地球のパレオスポンディルスは立派な背骨があるのにヒレも顎もないなど、進化の道筋での位置づけが不明だった。
・東京大学の平沢達也准教授はパレオスポンディルスの頭蓋骨の中の三半規管を調べたところ、パレオスポンディルスは顎を持っていたことが判明した。
・パレオスポンディルスは大きな生き物の幼生である可能性もあり、幼生から生態へと変化することでヒレが足に劇的に進化するという過程を通れたのではと平沢氏は仮説を立てている。


忙しくない方のためのどうでもよい点

・なかなかに難しい話でもあり、私も完全に納得がいったというわけではない部分もあります。例えば三半規管が3つあれば顎があるというのは、どういう証拠から判明している絶対的なことなのかとかいう辺りは・・・。

次回のサイエンスZERO

tv.ksagi.work

前回のサイエンスZERO

tv.ksagi.work