音でコミュニケーションするアリ
昆虫類のコミュニケーションと言えば、フェロモンなどの化学物質によるものと思われがちだが、実はアリの中には音でコミュニケーションをとるものもいるという。
そのような音を出すアリは「農業をするアリ」として知られるハキリアリ。葉っぱを切り取ってそこでキノコを育てて餌にする生態が知られている。彼らは多くの個体で複雑な社会を形成している。その仕事の分担は30種に及ぶという。
状況に応じた音を出す
ハキリアリが実際に出す音を、アリの生態について研究している岡山理科大学の村上貴弘教授が開発した特殊な装置で録音。葉を顎で切っている時に独得の連続音を出すが、これは「ここに良い葉があるぞ」というメッセージだという。実際に彼らが好まないというヒイラギの葉を置くと全く違う音を出す。どうも葉の善し悪しを音で伝えているようだという。ドイツの研究によるとこの音には他のアリを引き付ける効果があるという。野生でも同様の効果があることを村上氏は確認したとのこと。
ハキリアリは特定の行動の時に決まった音を出すという。中には女王アリが働きアリの行動を制御する音なんかもあるとか。なお他にも音を出すアリはいるという。胸と腹の間にある腹柄節というものが2つあるアリが音を出せるとのこと。音を出すシステムに関しては、腹の上に発音器官があり、ギザギザした表面をひっかくことで音を出しているのだという。
音によるコミュニケーションで高度な社会を形成出来る
なおハキリアリが音を出す理由についてだが、村上氏は社会の複雑さが影響していると考えている。ハキリアリようにキノコを育てるアリは20種あるが、最近に現れたものほど大きな複雑な社会を形成する傾向があり、そのようなアリほど音を出す頻度が高いのだという。社会が複雑になるとコミュニケーションの必要があるということらしい。フェロモンによるコミュニケーションよりも即時性があるのがポイントだろうという。なおハキリアリは足に振動を感じる感覚器官があり、音を聞くと言うよりも地面を伝わる振動を拾っているのだろうという
さらにハキリアリに特殊なポンドをつけて音を出せないようにしたグループ、フェロモンを出せないようにしたグループ、比較のための何もしていないグループでキノコ畑の成長度合いを比較したところ、フェロモンを阻害されたグループではキノコ畑が28%減少したのに対し、音を阻害されたグループは52%も減少したという。つまり音を阻害されるとキノコ畑を育ているという作業に支障が出たのだという。実際に行動を監視したら、意味のない行動をバラバラにやって連携が取れなくなっていたという。
アリが音声コミュニケーションを取っていたという驚きの話。なおコミュニケーションが円滑に行かないと社会の運営がおかしくなるというのは、アリに限らず人間でも起こることだなと感じるところ。こういう風に他の動物を観察していると、思いがけないところで人間につながるというのもありがちではある。
忙しい方のための今回の要点
・ハキリアリは音声でコミュニケーションしていることが解明された。
・彼らは切り取った葉に菌糸を植え付けてキノコを育てて餌にするが、それに適した葉を見つけた時には独得の信号で仲間に伝えていた。
・このような信号は10種類以上確認されているという。
・ハキリアリが音を出すようになったのは、彼らは大きな社会を形成して高度に分業することから、即時性のあるコミュニケーションとして音声が必要だったのではと推測されている。
・ハキリアリに音を出せないようにすると、フェロモンを出せなくするよりもよりキノコ畑の成長が悪化したことから、音が出ないことでコミュニケーションができなくなって作業に支障が生じることが分かった。
忙しくない方のためのどうでもよい点
・アリやハチとかは集団で暮らす独得の社会的生物だが、集団行動自体は人間にも共通する部分があるようである。そういう観点が実に面白い。
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