教養ドキュメントファンクラブ

自称「教養番組評論家」、公称「謎のサラリーマン」の鷺がツッコミを混じえつつ教養番組の内容について解説。かつてのニフティでの伝説(?)のHPが10年の雌伏を経て新装開店。

このブログでの取り扱い番組のリストは以下です。

番組リスト

1/22 NHK 歴史探偵「サムライたちの甲冑」

日本の甲冑の進化について

 今回のテーマは甲冑。日本独自の甲冑の進化について。内容的にはつい先日に加古川の兵庫県立考古博物館で見てきた内容を連想させる。

www.ksagi.work

 まず甲冑の元だが、中国で使われていた短甲というものが古墳時代などには使われていた。日本独自の甲冑である大鎧が登場したのが平安時代になる。そして戦国時代になると、より当時の合戦に適した当世具足というものになる。

 

 

武士の戦い方に合わせた日本独自の大鎧

 最初に大鎧だが、番組では春日大社に収蔵されている国宝の大鎧を見ているが、なんせ800年前の骨董品だけに破損の恐れがあるので触るわけにはいかない。と言うわけでCG化してから観察ということを行っている(この番組のためだけにCG化をしたとは思えないから、Nスペとかのためか、もしくは春日大社側で国宝デジタル保存のためのプロジェクトでも動いているかだろう)。

鎌倉時代の大鎧(24.11.24兵庫県立考古博物館にて)

 大鎧の構造の特徴は札と呼ばれる2300もの小さな金属パーツを紐で編んでいること。さらに胴を見れば左と右で違っている(右は合わせで開いている)のだが、これは上の博物館で見てきたように「騎射する時に左が前になるのでそちら側を保護した」という話。番組はわざわざ実際にそれを再現までしているが、普通はそこまでしなくても想像がつきそうなもんだが。さらに札で構成されている理由だが、これは身体の動きに追随して鎧が動けるように。

 また札を結ぶ紐である威にも注目。ここに武士の美意識が出ているという。袖の威の配色を見たところ、貴族の装束を参考にしていると考えられ、これは貴族の配下であった武士たちの貴族に対する憧れの反映だろうとしている。

 

 

時代と共に変化する甲冑

 それが戦国時代になると、足軽も参戦しての団体戦になることで甲冑も当世具足に変化する。当世具足は徒での戦いに対応している甲冑なんだが、番組はここで鎧でなく変わり兜に注目する。この時代、とにかく奇抜でやたらに目立とうとするような厨二兜が様々登場する。これらの意味は、単に自己顕示欲を拗らせているわけではなく、戦場で目立たないと戦働きの評価を受けにくいということがある。

戦国期の当世具足(24.11.24兵庫県立考古博物館にて)

 さらに団体戦特有の理由もあるという。要はそういう奇抜な目立ちやすい格好をしていたら、そいつに目線が行くことで部隊の展開の様子などの戦況が把握しやすく、指揮する立場としては速やかな判断が行いやすくなるからとしている。番組ではわざわざそれを学生にモニター見せて視線を追跡するなんて実験を行っているが、これも実際は実験するまでもないこと。また部隊を目立たせるという点では赤備えなんかもあるが、これも同様の理由だとしている。

 江戸時代になると合戦自体がなくなるので、甲冑の実用的な武具としての意味は失われていく。そうなると工芸品として細かい細工などで美麗に飾るようになる。また武士の感覚として大鎧こそ盛装という意識があったことから、当世具足になってなくなっていた大きな袖などの要素が復活していたりするという。

 さらに幕末になってくると、日本の高度な工芸技術をアピールする品として、海外の要人などに贈られたりというようなこともなされたという。ただそのような甲冑も明治以降の軍隊の近代化に伴って消滅していくことになる。

 

 

 日本の伝統の一つである甲冑についての紹介。ちょうど加古川の甲冑展の記憶もなくなっていないところ(まあ大鎧が右開きなっている理由なんかはインパクトが強かったので、一生忘れないだろうが)。まあいちいち実験で見せるところはこの番組らしさではあるが、実際には結論ありきの実験なのであまり意味はなかったりする。番組的には実は佐藤二朗と同様に不要な要素ではある。

 一番の面白情報とも言えるところを私が既に予習済みだったこともあって、結局のところは例によって「得るところの少ない内容だった」と言わざるを得ないのだ残念なところ。本当にこの番組は「今回は面白いし勉強なった」ってのがほとんどないな。佐藤二朗はひたすらウザいし。

 

 

忙しい方のための今回の要点

・日本の甲冑は古墳時代などは中国のタイプを使用していたが、平安時代になると日本独自のものである大鎧が登場する。
・大鎧は当時の武士の戦闘スタイルである騎射戦に対応したものであり、騎射の際に前になる左側を守るようになっており、札を連ねた構造も身体の動きに沿うように考えられたものである。
・戦国時代になると徒での団体戦に対応した当世具足が登場する。また自らを目立たせる奇抜な変わり兜は、戦場での活躍をアピールすると共に、戦況が指揮官に分かりやすくするという意味もあった。
・江戸時代になると甲冑は実用の意味を失ってきて、武士にとって盛装というイメージのある大鎧のデザインが取り込まれるようになったりする。
・幕末頃には日本の工芸技術の粋として海外に贈られた甲冑も少なくなかった。


忙しくない方のためのどうでもよい点

・相変わらず薄いな、この番組。
・それに描き方も軽すぎだわ。佐藤二朗はウザすぎだし。

前回の歴史探偵

tv.ksagi.work