教養ドキュメントファンクラブ

自称「教養番組評論家」、公称「謎のサラリーマン」の鷺がツッコミを混じえつつ教養番組の内容について解説。かつてのニフティでの伝説(?)のHPが10年の雌伏を経て新装開店。

このブログでの取り扱い番組のリストは以下です。

番組リスト

11/17 NHKスペシャル「ダビンチ・ミステリー2 万能の天才の謎~最新AIが明かす実像~」

 前回はレオナルド・ダビンチの芸術家としての側面に光を当てていたが、今回は彼の科学者としての側面に注目する。彼が残した手稿には時代を超越した記述が見られるのだという。

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レオナルド・ダビンチ

 

見えないものまで見ていたレオナルド

 レオナルドは人体解剖を行っていたことが知られており、詳細な人体内部の記録を残している。その内容はプロの心臓外科医か驚くほどに詳細かつ正確なのだという。動脈と静脈を区別して記載しているのにも驚かされるが、一番驚いたのは心臓の弁の開閉に血管内で血液が渦を作ることが関係しているという、最近になってシミュレーションの結果明らかになったことまでが記載されていたことだという。これは解剖しただけでは絶対分からない体内のことである。レオナルドはいかにしてこのような思考にたどり着いたのか。

 レオナルドが残した5600以上にも及ぶ手稿に書かれている文章をAIに取り込み、そこに登場する単語の関連を調べるという調査を行った。その結果、「血液」という言葉が「運ぶ」や「流れ」から「川」へとつながることが分かったという。彼は若い頃から川に興味を持ち、観察を続けていたという。AIの解析によると「川」という言葉は「水」を経由して「渦」につながっていたという。実際に彼は渦の生成メカニズムの観察を行っており、これが血液の渦という考えにたどり着いたのではとしている。彼は自然界には必ず法則があると考えていたという。様々な知識を自ら融合するということができるのがレオナルドの頭脳であったと考えられる。

 またレオナルドはコペルニクスなどよりもずっと先に地動説にたどり着いていたという。さらに現代の衛星写真ともキッチリ重ねるような正確な地図まで残している。地図という言葉が当時はなかったことから「測る」という言葉から辿ったところ、奇妙な機械にたどり着いたという。この機械は距離などを測定する装置であり、実際にこれを使用すると正確な地図が製作できるという。

 

レオナルドの「知の爆発」

 しかしレオナルドはそもそも数学を学ぶことは出来なかったはずという(ラテン語が得意でなかったせい)。レオナルドの生涯について調べてみると、35才で幾何学などに関する言葉が急激増えるなど知の爆発というべき状況が起こっているのが分かるという。この時期のレオナルドはフィレンツェからミラノに移り、ここで宮廷芸術家として働くようになっていたという。この頃のレオナルドは当時を代表する数学者であるルカ・パチョーリなどと交流があり、その中から数学の知識を身につけたと考えられるという。そしてあらゆる科学などの基礎に数学があると考えたという。

 また当時には存在しなかった上空から見た地図というものを思いついた発想については、「測る」という言葉が「鳥」や「目」という言葉につながったという。彼は鳥の空を飛ぶ原理というのにも非常にこだわっており、だからこそ鳥の目線による地図を思いついたのではとしている。

 

レオナルドのシステム思考

 このように異なる知識を結びつけるシステム思考が出来るのがレオナルドが天才である所以であろうという。このようなシステム思考は、現代の環境問題などのように複雑なメカニズムが互いに絡み合っているような時に重要な思考方法だという。その観点から彼の作品を見ていくと、背景には科学が潜んでいることも分かる。彼の人物画は解剖学の視点が入っているし、絵の背景には植物学や地質学など関連するものもある。

 彼の知の爆発は生涯を通して繰り返されているが、その間で特に強いこだわりが見られるのが「水」であるという。彼の肖像画の背景には常に水が描かれていることも知られているという。彼の水へのこだわりは故郷の川にあるのではないかとの考えがあるという。また「水」という言葉は「血液」や「天体」などの言葉にもつながっており、水が万物の根源であるという考えを持っていると考えられるとのこと。

 レオナルドは現在も多くの人々を魅了し続けている。常識にとらわれずに考える。それの重要性をレオナルドは我々に伝えていると言えるという。

 

忙しい方のための今回の要点

・レオナルドは人体解剖に基づく詳細なスケッチを残しているが、中には最近になってシミュレーション技術によって解明された心臓内の血液の渦などの、観察だけでは分からない部分までの記述がある。
・彼がその考えに至った過程をAIで辿ると、血液から川の流れにつながり、そこから渦に結びついているのが分かる。レオナルドはあらゆる知識を総合して考えるシステム思考が出来る人間であったと思われる。
・彼は高度な数学を学ぶことが出来なったはずだが、当時を代表する数学者と交流することで数学の知識を身につけ、その後も生涯にわたってあらゆる知識を吸収している。

 

忙しくない方のためのどうでも良い点

・レオナルドぐらいになると、もう狂人の一歩手前の天才だと思います。ハッキリ言って常人だとたどり着けない域ですね。言えるのは異常な好奇心と集中力。ほぼ間違いなく何らかの病名がつく心理だったと思いますよ。
・ただ万能の天才もある意味ではこの時代だったから可能だったわけで、この後は自然科学の分野などにおいて特に知識が莫大になって、あらゆる分野を一人でカバーするのは人間の能力としての限界が来てます。だから専門化してしまうのも仕方ない側面があります。総合してのシステム思考というのも重要ですが、これは一つ間違うと広く浅くの器用貧乏になってしまって、一番使えない状態になる危険もはらんでます。

 

前回の内容

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